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1話 裏切られる探索者
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僕の鼻先に青く輝く刀身が突き付けられる、勇者アース様が持っている伝説の聖剣、ヴァリアントだ。
この僕、シュウ・ライザーが所属する勇者パーティは、魔王討伐のため旅をしていた。
その道中、渓谷に差し掛かった途端、勇者様は突然僕に全装備を外させると、崖際に立たせた。そしたら、僕に剣を向けて一言言い放つ。
「お前、今日でクビな」
クビ……解雇? 急な物言いに僕は戸惑った。
仲間に助けを求めても、彼らは僕をあざ笑うだけ。まるで、前もって打ち合わせをしていたかのようだ。
「なんでですか? なんで、どうして!?」
「お前が使えないからに決まっているだろう? 戦闘の度に後ろに引っ込んで、俺達に守ってもらって。足手まといなんだよ、正味な話」
確かに、僕は勇者パーティで雑用をしていた。
僕のクラスは「探索者」。「鍛冶」や「調理」と言った支援スキルを得意とする、サポート特化の職業だ。
先に上げたスキルは本来、「職人」と「料理人」の専門クラスしか使えない。でも探索者は例外で、性能が低くなる代わりに、他クラスの支援スキルを全て習得できるんだ。
だけど戦闘スキルを一切習得できないから、戦うのは他の人にまかせっきりになってしまう。だから勇者パーティでの役割は雑用だ。野営地のセットや荷物持ち、アイテム係、それと斥候。戦えない分少しでも役に立とうと頑張ってきた、はずなんだけど。
「さっきの街で新しいメンバーを募集しただろ? なんでか分かるか? お前をクビにするためなんだよ。お前のようにサポートスキルを持っていながら、戦闘スキルも持ち合わせた、完全上位互換なんだ」
「そういう事だよ、先輩さん」
新人の「探索者」、リッドが僕に勝ち誇ったように言った。
確かに、転職前のスキルはそのまま引き継げる。戦闘向けのクラスから転職すれば、戦える探索者になれるけど……。
「あっしは勇者様のお役に立ちますぜ。アサシンから転職したものでね、戦闘に関しても任せてくださいよ」
「あらあら、頼もしい方ですこと。どこかの役立たずと違って」
女性の魔法使い、ドーラも僕に冷徹な目を向けてくる。誰も、僕の味方は居なかった。
「先天的に魔力を持たない、魔法が使えない落ちこぼれ。そんな奴が誉れ高き勇者パーティに所属しているなんて、恥以外のなんでもありませんわ」
「それは……」
「そもそも、どうして貴方なんかが勇者パーティに入れたかご存じ? 元孤児を引き取れば、それだけで評判が上がるから。要はプロパガンダですわ」
「……嘘だ……そんな……」
絶句してたら、屈強な戦士のラクトが僕を殴った。
「お前はもう用済みだ。最後にひと働きしてもらおうか」
「おいおい、まだ落とすなよ。折角お楽しみのためにとっておいたんだから」
「何を、するつもり、なんですか?」
「いやなに、勇者だと色々しがらみが多くて、やりたい事もなかなかできなくてさ。お前みたいに身寄りのない、なんの取柄もない奴なら、居なくなっても誰も気にしないだろ?」
言うなり、勇者様は僕の腹に剣を突き立てた。
一瞬の驚愕の後、激痛を感じた。勇者様は僕に凶悪な笑みを向けて、
「俺一度、人を殺してみたかったんだよ」
その一言に耳を疑った。最初から僕を、殺す気でパーティに入れたって事?
剣を引き抜かれ、谷底へ蹴り飛ばされる。僕は大河に落ち、激流に飲み込まれた。
「確実に死にましたな。んで、あいつの死亡届は?」
「きちんと届けるさ。パーティ内で死人が出れば慰安金が出るからな、冒険者ギルドに申請すればたんまり金が手に入る」
「それであっしの歓迎会でもしてくれるんですかい?」
「ま、考えてやるさ」
「私、新しいローブが欲しいですわ。あの子もようやく役に立ってくれましたわね」
「俺達の食い扶持になるって役にな。はーっはっは!」
◇◇◇
「げほっ、げほっ! ……い、生きてた……か……」
僕は渓谷の洞窟へ流れ込んでいた。奇跡的に死なずに済んだみたいだ。
お腹が痛い。剣を突き立てられたから、当たり前か。
装備品は、全部置いたわけじゃない。実はこっそりポーションを隠していたんだ。
「非常時に備えておいたんだけど、まさかこんな使い方をするなんて」
ポーションを半分飲んで傷を癒し、一息つく。僕は魔法が使えないから、回復薬が生命線だ。大事に飲まないと。
幸い、スキル「アイテムラヴァ」のおかげで、アイテムの効果が二倍にできる。ほんの少しの量でも大ケガを回復できるから、習得しといてよかったよ。
でも……勇者様から言われた一言が、胸に刺さっていた。
……彼らの言う通り、僕は孤児だ。家族はずっと前に居なくなっている。
生きていくために冒険者になって、探索者としてパーティを転々としている内に、勇者アースにスカウトされて勇者パーティに入ったんだ。
こんな僕でも認められたんだと思って、一生懸命やった、はずだった。でも最初から僕を殺すつもりで連れていたなんて……。
冒険者カードを見ると、「DEAD」の文字が浮かんでいる。ギルドに死亡届が出されると登録を抹消されて、死んだ者のカードは使えなくなるんだ。
もう手続きを済ませたんだ。僕を殺したことに、何も感じないんだな。
死亡認定されたら、この国では生きられない。これからどうしよう……。
「ん……今、声が?」
気配を感じ、僕は耳を澄ませた。
誰かが近くにいる。警戒しながら奥へ進むと、倒れている女性を見つけた。
長い赤髪が目を引く、凄く綺麗な人だ。背丈は僕より頭一つ高く、スタイルもいい。でもひどく傷ついていた。まとっている衣服は奴隷のようなぼろ布一枚、手足には枷が掛けられていて、千切れた鎖が目を引いた。
それに……髪の隙間から赤い角が見える。この人は人間じゃない、デーモンだ。
でも、この顔。見た事がある。酷く痩せているけど、まさかこの人。
「思い出した、この顔は……!」
僕は後ずさった。この人は勇者パーティが目的としていた人物、魔王エルザじゃないか!
どうして魔王がこんな所に居るんだ。こんなの、聞いてないぞ。
「けど、なんで傷ついているんだろう」
足が折れているみたいだ。全身の傷も痛々しい。この枷、魔封じの枷だ。エルザは強大な魔力を持つデーモンなのだけど、これでは魔法が使えない。自分の傷を治すのも不可能だ。
「誰か……助けて……苦しい……誰か……」
「………!」
うわ言を聞いて、胸が痛くなった。
確かに相手は敵かもしれない、でもそれ以前に、一人の女性だ。
助けよう、先の事は後で考えればいい。
魔王を助けたって、誰も責めたりしないしね。
この僕、シュウ・ライザーが所属する勇者パーティは、魔王討伐のため旅をしていた。
その道中、渓谷に差し掛かった途端、勇者様は突然僕に全装備を外させると、崖際に立たせた。そしたら、僕に剣を向けて一言言い放つ。
「お前、今日でクビな」
クビ……解雇? 急な物言いに僕は戸惑った。
仲間に助けを求めても、彼らは僕をあざ笑うだけ。まるで、前もって打ち合わせをしていたかのようだ。
「なんでですか? なんで、どうして!?」
「お前が使えないからに決まっているだろう? 戦闘の度に後ろに引っ込んで、俺達に守ってもらって。足手まといなんだよ、正味な話」
確かに、僕は勇者パーティで雑用をしていた。
僕のクラスは「探索者」。「鍛冶」や「調理」と言った支援スキルを得意とする、サポート特化の職業だ。
先に上げたスキルは本来、「職人」と「料理人」の専門クラスしか使えない。でも探索者は例外で、性能が低くなる代わりに、他クラスの支援スキルを全て習得できるんだ。
だけど戦闘スキルを一切習得できないから、戦うのは他の人にまかせっきりになってしまう。だから勇者パーティでの役割は雑用だ。野営地のセットや荷物持ち、アイテム係、それと斥候。戦えない分少しでも役に立とうと頑張ってきた、はずなんだけど。
「さっきの街で新しいメンバーを募集しただろ? なんでか分かるか? お前をクビにするためなんだよ。お前のようにサポートスキルを持っていながら、戦闘スキルも持ち合わせた、完全上位互換なんだ」
「そういう事だよ、先輩さん」
新人の「探索者」、リッドが僕に勝ち誇ったように言った。
確かに、転職前のスキルはそのまま引き継げる。戦闘向けのクラスから転職すれば、戦える探索者になれるけど……。
「あっしは勇者様のお役に立ちますぜ。アサシンから転職したものでね、戦闘に関しても任せてくださいよ」
「あらあら、頼もしい方ですこと。どこかの役立たずと違って」
女性の魔法使い、ドーラも僕に冷徹な目を向けてくる。誰も、僕の味方は居なかった。
「先天的に魔力を持たない、魔法が使えない落ちこぼれ。そんな奴が誉れ高き勇者パーティに所属しているなんて、恥以外のなんでもありませんわ」
「それは……」
「そもそも、どうして貴方なんかが勇者パーティに入れたかご存じ? 元孤児を引き取れば、それだけで評判が上がるから。要はプロパガンダですわ」
「……嘘だ……そんな……」
絶句してたら、屈強な戦士のラクトが僕を殴った。
「お前はもう用済みだ。最後にひと働きしてもらおうか」
「おいおい、まだ落とすなよ。折角お楽しみのためにとっておいたんだから」
「何を、するつもり、なんですか?」
「いやなに、勇者だと色々しがらみが多くて、やりたい事もなかなかできなくてさ。お前みたいに身寄りのない、なんの取柄もない奴なら、居なくなっても誰も気にしないだろ?」
言うなり、勇者様は僕の腹に剣を突き立てた。
一瞬の驚愕の後、激痛を感じた。勇者様は僕に凶悪な笑みを向けて、
「俺一度、人を殺してみたかったんだよ」
その一言に耳を疑った。最初から僕を、殺す気でパーティに入れたって事?
剣を引き抜かれ、谷底へ蹴り飛ばされる。僕は大河に落ち、激流に飲み込まれた。
「確実に死にましたな。んで、あいつの死亡届は?」
「きちんと届けるさ。パーティ内で死人が出れば慰安金が出るからな、冒険者ギルドに申請すればたんまり金が手に入る」
「それであっしの歓迎会でもしてくれるんですかい?」
「ま、考えてやるさ」
「私、新しいローブが欲しいですわ。あの子もようやく役に立ってくれましたわね」
「俺達の食い扶持になるって役にな。はーっはっは!」
◇◇◇
「げほっ、げほっ! ……い、生きてた……か……」
僕は渓谷の洞窟へ流れ込んでいた。奇跡的に死なずに済んだみたいだ。
お腹が痛い。剣を突き立てられたから、当たり前か。
装備品は、全部置いたわけじゃない。実はこっそりポーションを隠していたんだ。
「非常時に備えておいたんだけど、まさかこんな使い方をするなんて」
ポーションを半分飲んで傷を癒し、一息つく。僕は魔法が使えないから、回復薬が生命線だ。大事に飲まないと。
幸い、スキル「アイテムラヴァ」のおかげで、アイテムの効果が二倍にできる。ほんの少しの量でも大ケガを回復できるから、習得しといてよかったよ。
でも……勇者様から言われた一言が、胸に刺さっていた。
……彼らの言う通り、僕は孤児だ。家族はずっと前に居なくなっている。
生きていくために冒険者になって、探索者としてパーティを転々としている内に、勇者アースにスカウトされて勇者パーティに入ったんだ。
こんな僕でも認められたんだと思って、一生懸命やった、はずだった。でも最初から僕を殺すつもりで連れていたなんて……。
冒険者カードを見ると、「DEAD」の文字が浮かんでいる。ギルドに死亡届が出されると登録を抹消されて、死んだ者のカードは使えなくなるんだ。
もう手続きを済ませたんだ。僕を殺したことに、何も感じないんだな。
死亡認定されたら、この国では生きられない。これからどうしよう……。
「ん……今、声が?」
気配を感じ、僕は耳を澄ませた。
誰かが近くにいる。警戒しながら奥へ進むと、倒れている女性を見つけた。
長い赤髪が目を引く、凄く綺麗な人だ。背丈は僕より頭一つ高く、スタイルもいい。でもひどく傷ついていた。まとっている衣服は奴隷のようなぼろ布一枚、手足には枷が掛けられていて、千切れた鎖が目を引いた。
それに……髪の隙間から赤い角が見える。この人は人間じゃない、デーモンだ。
でも、この顔。見た事がある。酷く痩せているけど、まさかこの人。
「思い出した、この顔は……!」
僕は後ずさった。この人は勇者パーティが目的としていた人物、魔王エルザじゃないか!
どうして魔王がこんな所に居るんだ。こんなの、聞いてないぞ。
「けど、なんで傷ついているんだろう」
足が折れているみたいだ。全身の傷も痛々しい。この枷、魔封じの枷だ。エルザは強大な魔力を持つデーモンなのだけど、これでは魔法が使えない。自分の傷を治すのも不可能だ。
「誰か……助けて……苦しい……誰か……」
「………!」
うわ言を聞いて、胸が痛くなった。
確かに相手は敵かもしれない、でもそれ以前に、一人の女性だ。
助けよう、先の事は後で考えればいい。
魔王を助けたって、誰も責めたりしないしね。
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