上 下
71 / 93

71話 雑魚どもの悪あがき

しおりを挟む
 魔界の中央部に存在する名峰、レトロマウンテン。
 標高7000メートルを誇る、魔界で最も高い山だ。しかし資源は一切無く、雑草すら届かない不毛な大地が広がるだけ。そのため魔王達からは価値のない土地と敬遠され、あのガレオンですら近づかない場所なのだ。
 その山に、数名の魔王達が集まっている。レトロマウンテンに厳戒な警備網を敷き、ガレオンの息がかかった存在を、それこそネズミ一匹すら通さないようにしていた。

「首尾はどうだ?」
「今の所、問題はない。ガレオンに感づかれてはいないようだ」
「重畳。奴が気付けば、速攻でここを落とされるだろうからな……」
「全く末恐ろしい小僧だ。聞けば怪鳥ヒガナすら討伐したらしい、よもや奴を殺すのは不可能だろうな……」
「となれば、正攻法で勝つのもまた出来ぬというわけか。やはり侮りがたい男だ、ガレオン・ドゥ・アスタロト」

 ここに居る魔王達は、連合の中でも特にガレオンを警戒しているグループだ。
 彼らは一枚岩ではない。数を揃えれば勝てると踏んでいる者達、ガレオンが疲弊するのを待つ者達等、全く別々の方針で動く者ばかり。統率は取れていないのが現状だ。

 ガレオンは綻びを見逃さず、同士討ちをさせたり、懐柔したりと、連合を内側から壊し続けている。手を拱けば、三ヶ月以内に連合は全滅。魔界の全てがガレオンの手中に落ちるだろう。
 ガレオンの傘下に下るなど言語道断だ。魔界を統べるのは自分以外にあり得ない。……だが、ガレオンに勝つビジョンが見えないのも、また事実。

「ここに集ったのは、戦況が見えている者達だ。他の愚鈍どもには、精々囮を頑張ってもらうとしよう」
「して、アレが起動するのはいつになりそうだ?」
「さてな。それまで我らが持つか、それともガレオンが攻め入るか。時間との勝負と言えるだろう」

 魔王達はレトロマウンテンの深奥へ向かっていた。「あれ」が見つかったのは、本当に偶然だった。気紛れに罪人を山の調査に向かわせたら、埋没していたのを発見したのだ。
 魔界には、太古に失われた兵器の伝承が残っている。怪鳥ヒガナもその一つであり、一時はガレオンを圧倒した事からも分かる通り、強大な力を持った物ばかりだ。
 しかし力が強すぎる故に、コントロールが出来ない問題を抱えている。

「最初にヒガナを解放した際は、制御しきれず勝手に動いてしまったからな。二度目はある程度操れたものの、完ぺきとは言い難かった。結果、貴重なカードを失う羽目になったな」
「まぁ良いではないか。ヒガナは所詮テスト、奴の失敗を元により完璧なコントロール手段を得られた。収穫はあっただろう」

 大昔、まだガレオンが魔王を名乗り始めた頃、とある魔王が報復目的でヒガナを探し出し、嗾けた。
 ガレオン領に壊滅的な被害を与えたはいいもの、ヒガナを操れずに封印せざるを得なかった。時間をかけて制御の術式を作っても、結局完璧な制御は出来なかった。
 だが二度の失敗により、問題点が分かった。

「奴らは自我を持っている、そいつを消してしまえば、スムーズに制御できるようになるはずだ」
「しかしヒガナは自我を取り切れなかったではないか」
「奴はいわば指揮官だ、他より高い知能を持っていたために中途半端な出来になってしまったのだよ。だが戦闘特化の兵器であるならば出来るはずだ。古代兵器は戦闘力に反比例して知能が低くなる、頭が空っぽの奴であれば、使役は不可能でない」

 魔王達の足が止まった。彼らの前には、岩盤に埋め込まれた、巨大な腕が伸びていた。
 黒く禍々しい腕の先には、目玉のついた掌が覗いていて、押しつぶされそうな力を感じる。これでまだ一部なのだから、全身が発掘されればどうなるのだろう。
 記録が正しければ、腕の持ち主は兵器の中で最も強大な力を持っているはず。いかにガレオンと言えど、こいつには勝てまい。

「掘り出すまで、なんとしても隠し通すぞ。ガレオンが知れば、即座に殺しに来る。止める手段がない以上、秘匿に力を入れるのだ」
「幸い、攻めっ気の強い連中が視線を逸らしている。奴らが崩れるまでがタイムリミットとなるか」
「それだけでは心もとないな……多少牽制を入れておくか? 例えば、最近奴がご執心の女を誘拐するとかな」

 最近、ガレオンが婚約者を取ったと話題になっている。長らく女の影を見せなかっただけに、魔王達は大いに驚いたそうだ。
 家族の存在は最大の弱点となる。人質に取れさえすれば、相手を動かす強大なカードになりうるからだ。
 魔王達の意識が一瞬セレヴィへ向かうが、一人が待ったをかけた。

「やめておけ、余計な刺激をして小僧の逆鱗に触れればどうなる? 彼奴がその気になれば、即座にチェックメイトだぞ」
「うむ……しかしなぜ奴はそうしないのやら」
「土地や民草、果ては資源を壊さぬためだろう。奴がひとたび暴れれば、後に残るはぺんぺん草も生えぬ荒野だけだ。先を見据えて行動しているのだろうよ」
「逆に言えば、我々は敵とすら認識されていないというわけか」

 ガレオンの高笑いが浮かぶ。屈辱が心の底に響くが、飲み込まねばならない。

「ナラク以外の古代兵器も発掘し、使えるようにしよう。一体一体が、ガレオンに匹敵する力を持っている。利用しない手はないだろう」
「試運転もしなければならんが……連合内の適当な無能どもと戦わせてみるか。連合が勝利すれば、その他の連中もガレオン領を狙って口を出してくる。そいつらを黙らせる必要もあるからな。立場をきちんと思い知らせてやらねば」
「多大なコストはかかるが、目を瞑るしかあるまい。リスクを掛けるだけの価値はある」

 今は耐える時だ。憎きガレオンを殺しさえすれば、魔界は自分達の物になる。さすれば、黄金色の明日がやってくる。
 ガレオンが蓄えてきた、莫大な宝の山。想像するだけで涎が垂れてきた。

「今の内に、誰がどこを得るか相談しておくか」
「息抜きには丁度いいな。青写真を描くと胸が躍る」
「会食の支度をしてある、こっちへ来るがいい」

 魔王達は談笑しながら去っていく。皮算用をする小さき者を、腕はじっと見下ろしていた。
 掌の目玉が、彼らを嘲笑うように動いていた。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】 (ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』 ※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています! 【あらすじ】 架空の国、ジュエリトス王国。 人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。 国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。 そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。 数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた! 仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。 さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す! まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います! 恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり) 応援よろしくお願いします😊 2023.8.28 カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。 本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...