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31話 新月だから魔王を殺せるとでも思ったか
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夜になるなり、ガレオンの表情が優れなくなる。絶対的な強者であるガレオンの唯一の弱点、新月の時間がやってきたのだ。
月が消える夜、ガレオンの力は半減する。倦怠感にさいなまれ、体が思うように動かなくなるそうだ。
「苦しいなら無理をしなくても……私なら、大丈夫……」
「なら手を離せ」
「……寂しい」
「どっちが無理をしているか分からないな、夜になったら余計弱くなったもんだ」
「仕方ないだろう、心細いのだから……こんなに一人が恐いのは、初めてだ」
それに騎士として、ガレオンの傍に居られないのも情けない。不調の主を守らねばならないのに、役目を全うできないなんて。
何のための剣、何のための騎士道だ。主に守られっぱなしなんて、騎士失格だ。
「……沢山迷惑かけて、ごめんなさい……もう仕事持ち帰ったりしない、ちゃんと休む……」
「賢明な判断だ、俺に仕えるのが嬉しいのは分かるがな」
一息ついたところで、セレヴィはふと扉を見やった。
漠然とした気配を感じる……決して好意的な物ではない、嫌な気配だ。悪意ある何者かが、こっちに近づいてきているような、そんな予感を感じた。
ガレオンを見ても変化はない、彼は何も感じていないのだろうか。
それとも……。そこまで考えた時に、扉がノックされた。
「すみません、セレヴィさんはいらっしゃいますか?」
「ブラフマン様? はい……」
ガレオンに目配せすると、小さく頷いた。
ブラフマンは果物の盛り合わせを床頭台に置いた。セレヴィは怪訝な顔で彼を見上げ、警戒心を強めた。
「あの、なぜここへ」
「セレヴィさんが風邪を召したと伺いまして、ぜひお見舞いをと。具合はいかがですか?」
「……問題はありません」
「それはよかった、ガレオン様が看病をされていたのですね」
「ああ、お前こそ何しに来たんだ? 見舞いはするなと昼に伝えたはずだが」
「そうなのですが、なにぶん心配になりまして。私共のために頑張っていらしてましたから、そのせいで風邪を召してしまったかと思うと、申し訳ない気持ちになりまして」
「なるほどな、確かにお前らしい言い分ではある。だが、俺の奴隷が俺のルールを無視する言い分にはならないな」
ガレオンは木刀を出し、ブラフマンに突き付けた。
「な、何をされるのですか?」
「俺の城は四時半以降、部外者が入るのを禁止している。お前と言えど例外じゃない。それに、俺の奴隷は俺の命令に絶対服従するよう、証で制御している。俺が来るなと言えば、何があろうとここへ足を運ぶはできないんだが……なんでお前はここまで入り込めたんだ?」
「…………」
「お前、ブラフマンじゃないだろう」
セレヴィは立ち上がった。擬態能力のある敵、ガレオンが読んでいた通りの展開になっていた。
ブラフマンは答えない、その場に立ち尽くしたまま、口の端を持ち上げた。
「流石にあからさますぎたかな? 魔王ガレオンを出し抜くのもそう簡単じゃなさそうだ」
「道端の木っ端ごときが俺を出し抜けるわけがないだろう、大人しく投降しろ」
「かしこまりました、この通り、負けを認めますよ」
意外にも、ブラフマンは両手を上げ、簡単に白旗を上げていた。
なんでこんなにあっさりと負けを認めた? 何かを企んでいるのではないか? セレヴィは身構え、ブラフマンの一挙一動を注意して見始めた。
ガレオンは兵を呼びつつ、ブラフマンの喉元に木刀を押し付けた。
「お前は何者だ、誰の差し金でここへ来たんだ?」
「それは仕事なんで言えないな、職業に関しては察してくれると思うが」
「まぁ幾度も差し向けられていたからな。大方どこぞの魔王が雇った、腕自慢の殺し屋か」
「ご名答。流石は魔界一の魔王様、襲われ慣れているようで。最近はあんたを襲う奴も減って、退屈していたんじゃないか? 何しろ完全無欠、絶対無敵の魔王様を狙おうなんて、命が幾つあっても足りやしない」
「随分とおしゃべりだが、何を言いたい」
「別に? ただ俺にばかり注目していて、大丈夫なのかと思ってな」
ブラフマンが不敵に笑った瞬間、床頭台が爆発した。
果物籠が粘性の液体に変わったかと思うと、無数の刃に変体してセレヴィに襲い掛かる。反応しきれず、セレヴィは硬直した。
やられる! 目を閉じた瞬間、顔に生暖かい液体がかかった。
恐る恐る目を開けると……
「が、れおん……!?」
ガレオンが、胸を深々と貫かれていた。
ブラフマンは高笑いをすると、変身を解いた。
奴の正体は灰色の体を持ったスライムだった。ガレオンを貫いた刃を体へ戻し、スライムは感触を確かめるように動かした。
自分に注意を向けて、果物籠に擬態させた体で奇襲する。見事な手腕だった。ガレオンに傷をつけるなんて、こいつ、相当な力を持っている。
「んー、いい感触だ。やはり庇ったな、その女を。この数ヶ月、ずっとお前を見続けていた。その女にご執心なようだったから、利用させてもらったよ。その女を弱らせれば、お前なら必ず傍から離れないだろうからな」
「その口調、やはりこいつに何か仕込みを入れたようだな」
セレヴィはハッとする。昨日、八百屋が渡したリンゴを食べた。あの八百屋はこいつが化けた姿だったのだ。
「改めて自己紹介しておこう、俺はシェイプ。スライムのシェイプ。名を聞いた事は?」
「ああ、お前がそうなのか。業界じゃトップのヒットマン、巷の噂じゃ俺を殺せる唯一の存在とか言われていたな。スライム如きが生意気な」
「心臓を貫いたのによく生きているもんだ、やはり首を切り落とさないとダメなようだな」
シェイプは腕を剣に変え、悠々と歩んでくる。それに対し、ガレオンは動かない。大穴の開いた胸を押さえ、シェイプを睨んでいた。
「新月になると力が半減する、こうまで明確な弱点があるなんて思わなかった。同業者がこれを知っていれば、もっと楽に仕事が出来ただろうにな」
「俺をよく調べ上げたもんだ、褒めてやる。こちらこそ、お前ほどの手練れは部下に欲しいくらいだ。だが」
「生憎受けた仕事は最後までやり通す主義でね。買収は聞かない、代わりにその首寄越せ!」
シェイプがガレオンの首に刃を振り下ろした。セレヴィを背にしているから、彼は動けない。避ければ、セレヴィが斬殺される。
ふと、両親の最期がよぎる。二人と同じように、ガレオンが理不尽な暴力によって奪われようとしている。
やめろ! セレヴィが叫ぶと、ガレオンは。
「話は最後まで聞くべきだぞ、スライム野郎」
シェイプの刃を、片手で受け止めた。
しっかりと握りしめられ、動かない。驚愕するシェイプに、ガレオンは不敵に笑った。
「力が半減したとしても、お前が強くなったわけじゃないだろう」
「え……? がふっ!?」
シェイプの腹に木刀がめり込んだ。あまりの衝撃に、余波で壁にひびが入った。
シェイプは体を溶かして木刀から逃げ、セレヴィの背後に回る。だけどガレオンは奴より早く動き、木刀で横殴りにした。
十トンの木塊が直撃し、シェイプが吹き飛ばされる……前にガレオンは背後へ回り込み、木刀で殴打・連打・滅多打ち。弱体化しているとは思えない暴れ方だ。
しかも、ガレオンは自身の魔法で、セレヴィに被害が行かないようにしている。
彼が得意としているのは……「速さを操作する」魔法なのだ。自身は勿論、他の生物や物体の速度を自在に操る高度な魔法である。
セレヴィへ向かう攻撃の余波は極度に減速し、彼女に届くことはない。シェイプは動きを止められてしまう。
セレヴィを狙っても、悉くガレオンに跳ね返される。シェイプは手も足も出ず、ガレオンに蹂躙されていた。
「仮に、お前が1万の力を持っていたとしよう。他の魔王共も大体それくらいの力を持っているだろうから、大したもんだ。それに対し俺の持つ力はどれくらいだと思う? ……答えは100万以上だ!」
「ひゃっ……!?」
「新月で半減になったとして、お前如きに全力を出すまでもないんだよ!」
止めの殴打が直撃し、言葉通り、ガレオンは圧倒的な力を持って、強引にシェイプをねじ伏せた。
新月に加え、セレヴィと言うハンデを背負っても、易々と障害を乗り越えてしまった。セレヴィは胸に手を当て、ガレオンの背を見上げた。
「なんたる……力だ……! 俺もあんな奴より、お前のような男に、仕事を受けたかったよ……残念だ、本当に残念だよ……」
「ガレオン領が消えるのがそんなに不安なのか? 確かに、シトリーが用意した陸上戦艦は大したもんだ」
「は……?」
「お前で俺を殺し、混乱に乗じて陸上戦艦で蹂躙する。仮にお前が失敗しても、俺が狙われた混乱に乗じて攻撃すれば、指揮系統が乱れて攻め込む隙が生まれる。あの小心者にしてはまずまずの作戦だな、後で褒めてやるとするか」
「……なぜ、全部知っている?」
「結論から言ってやる、お前が侵入していたのは最初から気付いていたよ。だがこうなる事を見越してあえて放置していた。わざわざ、こいつに演技をしてもらってな」
シェイプの目がセレヴィに向かう。セレヴィは頷き、
「全部お前を誘い込むための罠だ。お前の気配を感じて、警戒していただろう。あれは、私に注意を向かわせるためだったんだ。ガレオンに気付かない気配を私だけが感じる。そうすれば必ず、私に警戒して、何かしらの仕込みをするだろうから。私を無力化した上で盾にし、ガレオンを殺すための武器にする。ここまで予想通りになるとは、思わなかったがな」
「何!?」
「私に毒は効かない、ガレオンがそんな体にしたから。風邪をひいてしまったのは、本当に偶々なんだ……」
「お前の不摂生が原因だ、ちゃんと反省しろ」
「はい……」
「待て! 全部知った上で、シトリーの策に乗ったのか? ならなぜ最初から俺を取り押さえなかった!?」
「俺の策にお前が必要だからだ。説得するには、俺自身の力を示すのが手っ取り早いからな。それに、お前ほどの実力者をみすみす見逃すのは、もったいなさすぎる」
ガレオンはニヤリとし、シェイプに手を伸ばした。
月が消える夜、ガレオンの力は半減する。倦怠感にさいなまれ、体が思うように動かなくなるそうだ。
「苦しいなら無理をしなくても……私なら、大丈夫……」
「なら手を離せ」
「……寂しい」
「どっちが無理をしているか分からないな、夜になったら余計弱くなったもんだ」
「仕方ないだろう、心細いのだから……こんなに一人が恐いのは、初めてだ」
それに騎士として、ガレオンの傍に居られないのも情けない。不調の主を守らねばならないのに、役目を全うできないなんて。
何のための剣、何のための騎士道だ。主に守られっぱなしなんて、騎士失格だ。
「……沢山迷惑かけて、ごめんなさい……もう仕事持ち帰ったりしない、ちゃんと休む……」
「賢明な判断だ、俺に仕えるのが嬉しいのは分かるがな」
一息ついたところで、セレヴィはふと扉を見やった。
漠然とした気配を感じる……決して好意的な物ではない、嫌な気配だ。悪意ある何者かが、こっちに近づいてきているような、そんな予感を感じた。
ガレオンを見ても変化はない、彼は何も感じていないのだろうか。
それとも……。そこまで考えた時に、扉がノックされた。
「すみません、セレヴィさんはいらっしゃいますか?」
「ブラフマン様? はい……」
ガレオンに目配せすると、小さく頷いた。
ブラフマンは果物の盛り合わせを床頭台に置いた。セレヴィは怪訝な顔で彼を見上げ、警戒心を強めた。
「あの、なぜここへ」
「セレヴィさんが風邪を召したと伺いまして、ぜひお見舞いをと。具合はいかがですか?」
「……問題はありません」
「それはよかった、ガレオン様が看病をされていたのですね」
「ああ、お前こそ何しに来たんだ? 見舞いはするなと昼に伝えたはずだが」
「そうなのですが、なにぶん心配になりまして。私共のために頑張っていらしてましたから、そのせいで風邪を召してしまったかと思うと、申し訳ない気持ちになりまして」
「なるほどな、確かにお前らしい言い分ではある。だが、俺の奴隷が俺のルールを無視する言い分にはならないな」
ガレオンは木刀を出し、ブラフマンに突き付けた。
「な、何をされるのですか?」
「俺の城は四時半以降、部外者が入るのを禁止している。お前と言えど例外じゃない。それに、俺の奴隷は俺の命令に絶対服従するよう、証で制御している。俺が来るなと言えば、何があろうとここへ足を運ぶはできないんだが……なんでお前はここまで入り込めたんだ?」
「…………」
「お前、ブラフマンじゃないだろう」
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「かしこまりました、この通り、負けを認めますよ」
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ガレオンは兵を呼びつつ、ブラフマンの喉元に木刀を押し付けた。
「お前は何者だ、誰の差し金でここへ来たんだ?」
「それは仕事なんで言えないな、職業に関しては察してくれると思うが」
「まぁ幾度も差し向けられていたからな。大方どこぞの魔王が雇った、腕自慢の殺し屋か」
「ご名答。流石は魔界一の魔王様、襲われ慣れているようで。最近はあんたを襲う奴も減って、退屈していたんじゃないか? 何しろ完全無欠、絶対無敵の魔王様を狙おうなんて、命が幾つあっても足りやしない」
「随分とおしゃべりだが、何を言いたい」
「別に? ただ俺にばかり注目していて、大丈夫なのかと思ってな」
ブラフマンが不敵に笑った瞬間、床頭台が爆発した。
果物籠が粘性の液体に変わったかと思うと、無数の刃に変体してセレヴィに襲い掛かる。反応しきれず、セレヴィは硬直した。
やられる! 目を閉じた瞬間、顔に生暖かい液体がかかった。
恐る恐る目を開けると……
「が、れおん……!?」
ガレオンが、胸を深々と貫かれていた。
ブラフマンは高笑いをすると、変身を解いた。
奴の正体は灰色の体を持ったスライムだった。ガレオンを貫いた刃を体へ戻し、スライムは感触を確かめるように動かした。
自分に注意を向けて、果物籠に擬態させた体で奇襲する。見事な手腕だった。ガレオンに傷をつけるなんて、こいつ、相当な力を持っている。
「んー、いい感触だ。やはり庇ったな、その女を。この数ヶ月、ずっとお前を見続けていた。その女にご執心なようだったから、利用させてもらったよ。その女を弱らせれば、お前なら必ず傍から離れないだろうからな」
「その口調、やはりこいつに何か仕込みを入れたようだな」
セレヴィはハッとする。昨日、八百屋が渡したリンゴを食べた。あの八百屋はこいつが化けた姿だったのだ。
「改めて自己紹介しておこう、俺はシェイプ。スライムのシェイプ。名を聞いた事は?」
「ああ、お前がそうなのか。業界じゃトップのヒットマン、巷の噂じゃ俺を殺せる唯一の存在とか言われていたな。スライム如きが生意気な」
「心臓を貫いたのによく生きているもんだ、やはり首を切り落とさないとダメなようだな」
シェイプは腕を剣に変え、悠々と歩んでくる。それに対し、ガレオンは動かない。大穴の開いた胸を押さえ、シェイプを睨んでいた。
「新月になると力が半減する、こうまで明確な弱点があるなんて思わなかった。同業者がこれを知っていれば、もっと楽に仕事が出来ただろうにな」
「俺をよく調べ上げたもんだ、褒めてやる。こちらこそ、お前ほどの手練れは部下に欲しいくらいだ。だが」
「生憎受けた仕事は最後までやり通す主義でね。買収は聞かない、代わりにその首寄越せ!」
シェイプがガレオンの首に刃を振り下ろした。セレヴィを背にしているから、彼は動けない。避ければ、セレヴィが斬殺される。
ふと、両親の最期がよぎる。二人と同じように、ガレオンが理不尽な暴力によって奪われようとしている。
やめろ! セレヴィが叫ぶと、ガレオンは。
「話は最後まで聞くべきだぞ、スライム野郎」
シェイプの刃を、片手で受け止めた。
しっかりと握りしめられ、動かない。驚愕するシェイプに、ガレオンは不敵に笑った。
「力が半減したとしても、お前が強くなったわけじゃないだろう」
「え……? がふっ!?」
シェイプの腹に木刀がめり込んだ。あまりの衝撃に、余波で壁にひびが入った。
シェイプは体を溶かして木刀から逃げ、セレヴィの背後に回る。だけどガレオンは奴より早く動き、木刀で横殴りにした。
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彼が得意としているのは……「速さを操作する」魔法なのだ。自身は勿論、他の生物や物体の速度を自在に操る高度な魔法である。
セレヴィへ向かう攻撃の余波は極度に減速し、彼女に届くことはない。シェイプは動きを止められてしまう。
セレヴィを狙っても、悉くガレオンに跳ね返される。シェイプは手も足も出ず、ガレオンに蹂躙されていた。
「仮に、お前が1万の力を持っていたとしよう。他の魔王共も大体それくらいの力を持っているだろうから、大したもんだ。それに対し俺の持つ力はどれくらいだと思う? ……答えは100万以上だ!」
「ひゃっ……!?」
「新月で半減になったとして、お前如きに全力を出すまでもないんだよ!」
止めの殴打が直撃し、言葉通り、ガレオンは圧倒的な力を持って、強引にシェイプをねじ伏せた。
新月に加え、セレヴィと言うハンデを背負っても、易々と障害を乗り越えてしまった。セレヴィは胸に手を当て、ガレオンの背を見上げた。
「なんたる……力だ……! 俺もあんな奴より、お前のような男に、仕事を受けたかったよ……残念だ、本当に残念だよ……」
「ガレオン領が消えるのがそんなに不安なのか? 確かに、シトリーが用意した陸上戦艦は大したもんだ」
「は……?」
「お前で俺を殺し、混乱に乗じて陸上戦艦で蹂躙する。仮にお前が失敗しても、俺が狙われた混乱に乗じて攻撃すれば、指揮系統が乱れて攻め込む隙が生まれる。あの小心者にしてはまずまずの作戦だな、後で褒めてやるとするか」
「……なぜ、全部知っている?」
「結論から言ってやる、お前が侵入していたのは最初から気付いていたよ。だがこうなる事を見越してあえて放置していた。わざわざ、こいつに演技をしてもらってな」
シェイプの目がセレヴィに向かう。セレヴィは頷き、
「全部お前を誘い込むための罠だ。お前の気配を感じて、警戒していただろう。あれは、私に注意を向かわせるためだったんだ。ガレオンに気付かない気配を私だけが感じる。そうすれば必ず、私に警戒して、何かしらの仕込みをするだろうから。私を無力化した上で盾にし、ガレオンを殺すための武器にする。ここまで予想通りになるとは、思わなかったがな」
「何!?」
「私に毒は効かない、ガレオンがそんな体にしたから。風邪をひいてしまったのは、本当に偶々なんだ……」
「お前の不摂生が原因だ、ちゃんと反省しろ」
「はい……」
「待て! 全部知った上で、シトリーの策に乗ったのか? ならなぜ最初から俺を取り押さえなかった!?」
「俺の策にお前が必要だからだ。説得するには、俺自身の力を示すのが手っ取り早いからな。それに、お前ほどの実力者をみすみす見逃すのは、もったいなさすぎる」
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