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5話 無理矢理に奴隷契約を結ばせ、虐待を本格化していく

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 城下町をくまなく散策したが、結論は「ガレオンは非常に安定した政治を行っている」で終わってしまった。
 インフラ関係もリティシア王国以上に整っており、上下水道の完備を始め、公共施設の無料化等、圧倒的に生活しやすい環境だ。
 というかなんで奴隷にこんな優しくしてるんだ、というか奴隷って言えるんだろうか。

「引き回しは終わりだ、どうだ、俺の領土は最高だろう」
「肯定せざるを得ないが、これが引き回しと呼べるのか」
「俺が引き回しだと言ったら引き回しだ、ではそろそろ、お前の処遇を決めないとな」

 セレヴィははっとした。そうだ、魔界には自分の居場所がない。
 まさか、人間界から来た私は、過酷な労働を課せられるのではないか。
 きっとそうだ。クリーンな奴なんてありえない、こいつは魔王だぞ。絶対私を地下の奥底へ閉じ込めて、強制労働を強いるに違いない。

 そんな場所へ落とされれば、人間界への帰還は夢のまた夢。なんとしても早急に脱出経路を探り、元の世界へ戻らなければ。
 通されたのは、ガレオンの執務室だ。そこでセレヴィは、紙切れを渡される。

「こいつにサインしろ、お前に拒否権はない」
「くっ……!」

 奴隷契約書だ。これにサインしたら最後、永遠の苦痛に堕とされてしまう。
 覚悟し、セレヴィは内容を確認した。

「勤務時間8:45~17:00(休憩1h)
 超過勤務の際は時間に応じて規定額支払い
 年間休日125日 希望休月3日まで可
 試用期間3ヵ月経過後有休15日付与

 ……なんだこれは」

「奴隷契約書だ」
「労働契約書だろどう見ても!」
「引き回しで職場の雰囲気はつかめただろう」
「あれ引き回しじゃなくて職場見学だったんかい!」

 しかも基本給が騎士時代より高い上、交通費全額支給、ボーナス夏冬合計8ヶ月の大盤振る舞いだ。

「何これ!? 相当破格な条件なんだが、私は何をすればいいんだ!?」
「俺の秘書だ。先月前任が寿退職してな、後任を募集していたから丁度良いと思った」
「元敵を秘書に抜擢!?」
「別に能力があるから構わないだろう、ラーゼフォン家令嬢、いいや、当主と呼ぶべきか」

 思わず息が詰まった。

「僅か十七歳でラーゼフォン家の当主となり、二年間領地を運営していたそうじゃないか。実務能力は充分、俺の秘書程度こなせるだろう」

 ガレオンがキスした時、セレヴィの記憶や知識を覗いたのだろう。つまりガレオンは、セレヴィの全てを知っている。

「どこまでだ、どこまで私の事を知った」
「さぁな、言う義理はないし、お前の事情もどうでもいい。俺は秘書が必要だからお前を連れてきただけだ、俺に歯向かう胆力、潔い心根、部下への思いやり。剣を交える中で伝わったぞ。十分な能力があると判断した」
「お前私との戦闘を採用面接扱いしてただろ、というかそれなら魔族にする必要ないじゃないか!」
「人間界と魔界の境界を越えるのに、人間のままじゃ負荷に耐えられないんだよ」
「だからと言って、本人の同意を得ないでこんな」
「殺せと言ったのはお前だ、望み通り「人間として」のお前を殺してやったぞ。そしてお前は自ら命を捨て去った、拾った命をどう扱おうが俺の勝手、違うか?」
「ぐ……屁理屈ばかり」
「言っただろう、お前の命は俺の物、俺の物は俺の物だ。わかったらとっととサインしろ」

 選択肢はない。サインするなり契約書は消え、奴隷のマークが光った。

「契約成立だ、もう客扱いはしない。明後日から業務についてもらうぞ、今日は帰れ、お前の部屋はあそこでいいだろう。好きに使え」
「寮付きなのかこの職場」

 まさかの通勤時間ゼロ分である。おまけに家賃も魔王側が負担してくれるとの事、どんだけ至れり尽くせりだ。

  ◇◇◇

 部屋に戻るなり、セレヴィはため息をついた。
 魔界へ連れてこられて丸一日。怒涛の展開の連続で疲れ切り、頭が痛くなってきた。
 魔王の秘書にされるとは。ラーゼフォン家を束ねる私が、魔王の手伝いをするのか。
 ガレオンのめちゃくちゃ具合を考えると、大変な仕事になりそうだ。というかそんなのやってて人間界に戻れるのか。というかやっていいのか秘書なんて。何をすりゃいいのか全く分からない、研修とかあるのか。

「はぁ……」
「ため息吐くと幸せ逃げるっすよー」
「マステマ、せめてノックしてくれ」
「あーすいやせーん、でもいいでしょ細かい事だしー」
「メイド長なのに作法がなってないな、そもそも私の付き人なんかしていていいのか? メイド長なら仕事も立て込んで」
「あー、とりあえずそこはあーしてこーしてそーしてくれっす」
『かしこまりましたメイド長』

 メイド長は通信魔法でリモートワークを実施していた。

「とまぁこんな感じで仕事してるんで問題ねーっす」
「ファンタジックに最新鋭だな」
「ま、あーしみたいなのでも知り合いが居れば心強くねーっすか。同僚になった事だし仲良くやりやしょーや。明日は研修あるから遅れないように気を付けるっすよ」
「わかったわかった……今は少し休ませてくれ」
「うーっす、なんか用があったらいつでも呼んでくれっす」

「じゃあレモン水を貰っても「あすいやせーん、今休憩時間なんで後でいっすか?」帰れ貴様!」

 マステマを蹴り飛ばし、肩を落とす。こんなんでやっていけるのだろうか、ガレオンはどんな仕事を回すのだろうか。
 唇に触れ、セレヴィは目を閉じる。あの感触が、生々しく蘇った。

「……初めて、だったんだがな」

  ◇◇◇

 ノックもなしに、マステマが執務室に入ってくる。主であるガレオンに無礼なのはいつもの事で、もう慣れてしまった。

「うーっす、戻ったっす」
「あいつはどんな感じだ?」
「からかいがいがあるっすねー、いじりがいがあるっす、あれ結構ドエムっすよ? なんなら主様好みにあーしが調教しても「黙れド阿呆」

 睨まれたマステマが青ざめる、ガレオンからの壮絶な威圧感に耐えられなかったのだ。
 セクハラ御法度の職場なのである。一応今は業務中、立場上厳重注意しなければ。

「ぱ、パワハラっすよ主様……」
「教育的指導だ。どうやら、多少は調子を戻したようだな」

 ガレオンは髪を撫でつけ、襟を正した。
 セレヴィの抱いている闇は深い。人間界で拾わずとも、いずれ自ら命を絶っていたはずだ。
 どうせ死にゆく命ならば、拾い上げてもいいだろう。命は最大の資源だ。特にセレヴィは正義感に溢れ、人種に関わらず手を差し伸べる胆力もある。秘書として相応しい人材だ。

 命を大切にしない奴は、このガレオンが断じて許さない。罰としてセレヴィには魔王の奴隷として、死ぬまで働き続けてもらうとしよう。
 これから彼女に行うのは、そう。








 虐待だ。
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