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最終話 私の名はクェーサー
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ヤマタノオロチの騒動からひと月が経った。
荒らされた森はクェーサーの働きによって修復され、元の姿を取り戻しつつある。
そのクェーサーだが、先日行われたコンペにて大変な高評価を得ていた。
あらゆる場面で活躍できる高い汎用性と、ヤマタノオロチとの騒動で得た貴重な稼働データ、そして「人に寄り添う心を持ったAI」。これらの要素が各方面から注目され、数年後の量産が決定したのだ。
まだいくつか稼働実験は必要だが、羽山の歴史が大きく動こうとしていた。
「これから日本中でクェーサーが見られるようになるのか、たのしみだのぉ」
『忙しくなりそうです。さて、これで完成ですね』
クェーサーは平屋を組み終わり、一息ついた。
羽山工業はクェーサーの稼働試験のため、荒れ果てていた集落跡に来ていた。
かつて人とあやかしが暮らしていた、小さな集落を復元しているのだ。ここでもクェーサーはひとりで大量の木材を運び、建物の組み立てを行って、その力を見せつけている。
「よーしこんなもんか! 一旦休憩しようぜ」
救はクェーサーから降り、復元された集落を見渡した。
この集落は今後、仁王市の里山プロジェクトの拠点として使われる予定だ。それと同時に、あやかし達の住まいとしても活用される。
「ここの管轄をしてる奴が、あやかしの嫁さん貰ってるとは思わなかったよな」
『ですがおかげで、あやかしに対し理解がありました。人との衝突も防げるはずです』
「その人とあやかしの関係を繋いだのは、クェーサーじゃよ。おぬしがここを復元せねば成しえぬことだったからの」
『ええ、今はそう思えます』
クェーサーは小型機に意識を移し、サヨリヒメに歩み寄った。
「私がなぜ生まれたのか、今ならばわかります。私は人とあやかしを繋げ、寄り添うために生まれてきたAIです。私が機械の体を持たねば出来なかった事が、この世界には山ほどある。そして私の働きによって、人とあやかしが繋がっていく。これほど喜ばしい事はありません。やっと私は、答えを見つけ出せたようです」
サヨリヒメの手を握り、クェーサーは彼女を見つめた。
「以前、私にしていただいた告白の答えを、ずっと先延ばしにしてすみません。今ならば、貴方の想いを受け取れます」
「きゅ、急じゃな。皆が見ておるのじゃが」
「ここで返事をすれば、貴方を狙う方も減るかと思いまして」
「狡くなったのぉ……どこで学んだのじゃ」
「色々な所でです」
冗談めかしたクェーサーに、サヨリヒメはくすりとした。
「サヨ、今帰ったぞ」
「父上!」
集落にカムスサが舞い降りた。カムスサは集落を見渡し、目を細めた。
「懐かしいな、かつてはここで、人とあやかしが住んでいた時期もあった。時が戻ったかのようだ。感謝するぞクェーサー、其方がここを直してくれたのだな」
「私にできる事をしたまでです」
「頼もしき答えだ、其方をガラクタと蔑んで、本当に申し訳ない。そして羽山工業の皆皆様、我が過ちを正していただき、誠感謝いたします」
カムスサは深々と頭を下げた。彼はこの1ヶ月、被害に遭ったあやかし達に謝罪して回っていた。
あやかしを裁く法はないが、罪がないわけではない。彼なりにけじめを付けなければならないのだ。
「これからどうするのですか?」
「各地の、反人間のあやかし達を尋ね、説得を試みるつもりだ。人とあやかしがいがみ合っても意味はない。我のように、無用な悲劇を作る咎人となるだけだ。過ちに気付いた我にしか、出来ぬことだろう」
「困難な仕事になりそうですね」
「そうだな、過去の我のように頭の固い連中ばかりだ。だが其方の活躍が、彼らを動かす力となろう。ヤマタノオロチを倒した鋼鉄の巨人の伝承を話せば、通じ合うきっかけになる。人とあやかしが生んだ、眩しき未来の光たる其方の力を借りる事、許してほしい」
「勿論です」
クェーサーは頷き、サヨリヒメも微笑んだ。
「して、ここからは父親としての話になるのだが……まぁ、えーあい? とやらに預けるのは親として、流石に思う所がないわけではないが……其方以上にサヨを任せられる者が居ないのも、また事実」
「では、父上!」
「サヨとクェーサー、双方の仲を認めよう。サヨを頼むぞ、婿殿」
「心得ました」
サヨリヒメは飛び上がって喜び、クェーサーに抱き着いた。
「改めて告白します。サヨリヒメ、私と交際してくれませんか?」
「こちらこそ!」
羽山工業の全員から祝福され、はれて恋仲となった2人。御堂はその様を、羨ましそうに眺めていた。
彼女の背も押すべきだろう、自分は元々、人と寄り添うために造られたAIだ。
「御堂、想いは秘めていては伝わりませんよ」
「え? 何の事かな?」
「言っておきますが、気づいていないのは救くらいです。全員に知れ渡っていますよ」
「この勢いに乗るべきじゃ、ほれほれ!」
「わっわっ、背中を押さないでくれよ!」
「ん? なんで御堂を俺に突き出すわけ?」
きょとんとする救に対し、御堂は真っ赤だ。
「ええい……勇気を出せ御堂ひかる、お前は天才なんだ、ヤマタノオロチに比べれば先輩なんて……」
「だからなんなのこの空気? 俺に何か話でもあるのか?」
「ありますよ、ええありますよ! 先輩! 私は、先輩の事が!」
告白の結果は推してしかるべきである。自分の役割を全うしたクェーサーは、サヨリヒメの肩を抱いて、心の中で、笑った。
私の名はクェーサー、羽山工業で造られた人工知能にして。
人とあやかしを繋げ、寄り添う心を持った……未来を照らす光である。
荒らされた森はクェーサーの働きによって修復され、元の姿を取り戻しつつある。
そのクェーサーだが、先日行われたコンペにて大変な高評価を得ていた。
あらゆる場面で活躍できる高い汎用性と、ヤマタノオロチとの騒動で得た貴重な稼働データ、そして「人に寄り添う心を持ったAI」。これらの要素が各方面から注目され、数年後の量産が決定したのだ。
まだいくつか稼働実験は必要だが、羽山の歴史が大きく動こうとしていた。
「これから日本中でクェーサーが見られるようになるのか、たのしみだのぉ」
『忙しくなりそうです。さて、これで完成ですね』
クェーサーは平屋を組み終わり、一息ついた。
羽山工業はクェーサーの稼働試験のため、荒れ果てていた集落跡に来ていた。
かつて人とあやかしが暮らしていた、小さな集落を復元しているのだ。ここでもクェーサーはひとりで大量の木材を運び、建物の組み立てを行って、その力を見せつけている。
「よーしこんなもんか! 一旦休憩しようぜ」
救はクェーサーから降り、復元された集落を見渡した。
この集落は今後、仁王市の里山プロジェクトの拠点として使われる予定だ。それと同時に、あやかし達の住まいとしても活用される。
「ここの管轄をしてる奴が、あやかしの嫁さん貰ってるとは思わなかったよな」
『ですがおかげで、あやかしに対し理解がありました。人との衝突も防げるはずです』
「その人とあやかしの関係を繋いだのは、クェーサーじゃよ。おぬしがここを復元せねば成しえぬことだったからの」
『ええ、今はそう思えます』
クェーサーは小型機に意識を移し、サヨリヒメに歩み寄った。
「私がなぜ生まれたのか、今ならばわかります。私は人とあやかしを繋げ、寄り添うために生まれてきたAIです。私が機械の体を持たねば出来なかった事が、この世界には山ほどある。そして私の働きによって、人とあやかしが繋がっていく。これほど喜ばしい事はありません。やっと私は、答えを見つけ出せたようです」
サヨリヒメの手を握り、クェーサーは彼女を見つめた。
「以前、私にしていただいた告白の答えを、ずっと先延ばしにしてすみません。今ならば、貴方の想いを受け取れます」
「きゅ、急じゃな。皆が見ておるのじゃが」
「ここで返事をすれば、貴方を狙う方も減るかと思いまして」
「狡くなったのぉ……どこで学んだのじゃ」
「色々な所でです」
冗談めかしたクェーサーに、サヨリヒメはくすりとした。
「サヨ、今帰ったぞ」
「父上!」
集落にカムスサが舞い降りた。カムスサは集落を見渡し、目を細めた。
「懐かしいな、かつてはここで、人とあやかしが住んでいた時期もあった。時が戻ったかのようだ。感謝するぞクェーサー、其方がここを直してくれたのだな」
「私にできる事をしたまでです」
「頼もしき答えだ、其方をガラクタと蔑んで、本当に申し訳ない。そして羽山工業の皆皆様、我が過ちを正していただき、誠感謝いたします」
カムスサは深々と頭を下げた。彼はこの1ヶ月、被害に遭ったあやかし達に謝罪して回っていた。
あやかしを裁く法はないが、罪がないわけではない。彼なりにけじめを付けなければならないのだ。
「これからどうするのですか?」
「各地の、反人間のあやかし達を尋ね、説得を試みるつもりだ。人とあやかしがいがみ合っても意味はない。我のように、無用な悲劇を作る咎人となるだけだ。過ちに気付いた我にしか、出来ぬことだろう」
「困難な仕事になりそうですね」
「そうだな、過去の我のように頭の固い連中ばかりだ。だが其方の活躍が、彼らを動かす力となろう。ヤマタノオロチを倒した鋼鉄の巨人の伝承を話せば、通じ合うきっかけになる。人とあやかしが生んだ、眩しき未来の光たる其方の力を借りる事、許してほしい」
「勿論です」
クェーサーは頷き、サヨリヒメも微笑んだ。
「して、ここからは父親としての話になるのだが……まぁ、えーあい? とやらに預けるのは親として、流石に思う所がないわけではないが……其方以上にサヨを任せられる者が居ないのも、また事実」
「では、父上!」
「サヨとクェーサー、双方の仲を認めよう。サヨを頼むぞ、婿殿」
「心得ました」
サヨリヒメは飛び上がって喜び、クェーサーに抱き着いた。
「改めて告白します。サヨリヒメ、私と交際してくれませんか?」
「こちらこそ!」
羽山工業の全員から祝福され、はれて恋仲となった2人。御堂はその様を、羨ましそうに眺めていた。
彼女の背も押すべきだろう、自分は元々、人と寄り添うために造られたAIだ。
「御堂、想いは秘めていては伝わりませんよ」
「え? 何の事かな?」
「言っておきますが、気づいていないのは救くらいです。全員に知れ渡っていますよ」
「この勢いに乗るべきじゃ、ほれほれ!」
「わっわっ、背中を押さないでくれよ!」
「ん? なんで御堂を俺に突き出すわけ?」
きょとんとする救に対し、御堂は真っ赤だ。
「ええい……勇気を出せ御堂ひかる、お前は天才なんだ、ヤマタノオロチに比べれば先輩なんて……」
「だからなんなのこの空気? 俺に何か話でもあるのか?」
「ありますよ、ええありますよ! 先輩! 私は、先輩の事が!」
告白の結果は推してしかるべきである。自分の役割を全うしたクェーサーは、サヨリヒメの肩を抱いて、心の中で、笑った。
私の名はクェーサー、羽山工業で造られた人工知能にして。
人とあやかしを繋げ、寄り添う心を持った……未来を照らす光である。
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