親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

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52話 ヤマタノオロチ、出現

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 8つの頭を持つ巨大な白蛇を見上げ、サヨリヒメは戦慄した。
 奈良時代、サヨリヒメが生まれるよりも昔に、人間とあやかしを脅かした悪鬼羅刹、ヤマタノオロチだ。
 太古の昔に封じられたはずの怪物が、なぜこんな所に居る。

「父上……ですか? こやつの封印を解いたのは……!」
「そうだ! 人間を排除するにはこれしかない、ヤマタノオロチを持って仁王市から人間を追い払い、あやかしだけの国を造る! あやかしの未来のために必要な武力なのだ!」
「怪物を呼び出すために同胞を踏み躙ったのですか!?」
「言っただろう、誰かが血に染まらねばならぬと」

 クェーサーにも、ヤマタノオロチの恐ろしさが伝わってくる。これほどの怪物、カムスサと言えど操れるはずがない。

「おやめください父上! こんな怪物を放ったら、人間どころかあやかし達まで危険です!」
「知った事か、言っただろう、我はもう引き返せぬのだ」

 カムスサはサヨリヒメを掴んだ。

「だがこやつはまだ完成ではない、ヤマタノオロチを制御するには、強大なあやかしを核にする必要がある。サヨ、お前は以前、ヤマタノオロチに妖気を食われていたな」
「あの白蛇……や、やめ……!」

 カムスサのやろうとする事が分かり、クェーサーは飛び出した。
 だけどだめだ、電脳世界から出られない!

「カムスサ! その手を放せ! そんな事をしたらお前は……正真正銘のケダモノに成り下がるぞ!」
「既にケダモノだよ」

 カムスサはスマホを払いのけ、ヤマタノオロチに自身の娘を食わせた。
 クェーサーの悲鳴が響き渡る中、カムスサは諸手を掲げた。

「さぁヤマタノオロチよ! 我が命を聞き入れよ! 人間どもを打ち払い、仁王を再びあやかしの世とするのだ!」

 これで犠牲が報われる、あやかしの復権の魁の始まりだ。
 そう思うカムスサを、ヤマタノオロチは尾で叩き潰した。

「ぐおっ! な、なぜだ……!? なぜ言う事を聞かぬ!?」

 ヤマタノオロチは答えない。サヨリヒメを核に妖気を高め、見る間に巨大化していく。
 驚愕するカムスサの横で、クェーサーはかぶりを振った。

「……誘導していたんだ、お前が神を、自身の娘を生贄に捧げるように……かつてより大きな力を得るために、お前を操っていたんだ……」
「馬鹿な……我は、奴の掌の上で、踊らされていただと……? 我はあやかしの神ぞ! それがあんな、蛇ごときに……!?」
「……ケダモノ相手に言い訳が通用するわけがないだろう!」

 クェーサーの一喝に、カムスサは委縮した。

「貴様は違えたんだ、神だろうが何だろうが、己が娘を怪物に捧げる愚か者がどこに居る! 自分勝手な妄想を振りかざした結果がこれだ! こんな悪鬼羅刹から生まれる理想など、あやかし達は望んでなどいない!」

 クェーサーは初めて「怒り」の感情を感じていた。AIの怒号に、神たるカムスサは反論できない。
 ヤマタノオロチはまるで遊ぶかのように、山を破壊し始めた。圧倒的な暴力にあやかし達は巻き込まれ、多くの怪我人で溢れていく。
 このままでは、サヨリヒメの大切な物が全て、壊されてしまう。

『羽山工業の皆、サヨリヒメの森へ急いでください!』

 クェーサーは、羽山の皆に連絡を取った。スマホに囚われた自分では、あやかしを助けるどころか、触れる事すらできない。
 彼らしか、頼れる者は居ないんだ。

「! カムスサ、逃げろ!」

 ヤマタノオロチによる攻撃で倒木が発生し、カムスサに迫っていく。カムスサはショックのあまり、身動きが取れずにいた。

 駄目だ、潰される!

 瞬間、カムスサとクェーサーを救った者が居た。2人を抱え、倒木から助けてくれたのは……。

「間一髪って所か? 待たせたなクェーサー!」

 知りうる限り、最も頼りになる男。救命だった。
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