46 / 57
46話 人が去った後のあやかしの住処は……
しおりを挟む
「昔はこの辺りにも人が住んでいたのじゃ。小さい村がいくつか点在していての、里山を手入れしながら暮らしておった」
サヨリヒメはぽつぽつ話しながら、山の奥へ歩いていた。
救と御堂、そしてクェーサーは、荒れた山道に苦戦しつつついて行く。奥へ行くたび、森の中は荒れていって、密集した木々に日航がさえぎられて暗くなっていった。
「この道もな、昔はもっと整備されていたのじゃよ。人が居なくなってからは、すっかり獣道になってしもうたがの」
「里山は人の手が離れるとあっという間に壊れていくからね、くそ、スニーカーだと滑るな」
「なんだって人は居なくなっちまったんだ? やっぱあれか、都心部の方に流れていったのか」
「いいや、原因は別にある。お、見えて来たぞ」
サヨリヒメが案内したのは、ボロボロになった集落跡だ。
木の中に埋もれ、殆どの建物が崩れ落ちている。唯一生き残っている平屋に入ると、彼女は古ぼけた神棚を持ってきた。
「これは、羽山にある神棚と同じ物じゃ。もうおんぼろじゃから力は失せておるがの」
「では、サヨリヒメはここで祀られていたのですね」
「うむ。この山の者達はわらわを信仰しておってな、熱心に毎日祈りを捧げてくれたものじゃ。しかしの……戦後日本が高度成長期に入り、自然が一気に伐採され始めた。見る間に森は削れ、街が発展し始めた頃……わらわの父上が、それに激怒されたのじゃ。
名はカムスサ、この近辺の守護神でおられる方じゃ。今では人の前から姿を消して、名など残っておらぬがの」
「その守護神様が激怒したって事は、人を追い払いでもしたのかい?」
「……まぁの。祟りを起こし、災害で村を埋め、人間をこの地から叩き出した。わらわは何度も止めたが、父上は聞き入れんかった。気持ちは分かるのじゃ、わらわ達にとってこの地は家も同然、それが突然壊されて納得がいくはずもなかろう」
「サヨリヒメは、どう感じたのです」
「わらわは……なんというかの、ワクワクしておった。大きな変化は新たな始まりでもある、特にわらわは人が好きじゃからのぉ、おぬしらが何をするのか、むしろ楽しみにしておった。それに森が切り崩されるのは、自然の摂理でもある。おぬし達人間も自然の一部、そこより派生した文化文明もその延長。肝要なのは否定するのではなく、受け入れ適応する事じゃ。わらわ達あやかしはそうして生きてきたからの」
「ですが、全てのあやかしが納得できるわけではないかと。大がかりな変化を前に……心、はついて行きません」
クェーサーは言い淀んだ。機械が心を語るなど、おこがましい。
「おぬしの申す通りじゃ。あやかしにも父上のように受け入れられぬ者は確かに居る。そうした者達は暴風雨を呼んだり、地滑りを起こすなどして、人間に戦いを挑んでおるよ。近年で特に大がかりなのは、過去に二度あった大地震か。過激派のあやかし達によって引き起こされ、未曾有の被害が出たからの」
「あの地震あやかしの仕業なのかよ!?」
「それどころか自然災害の大半も……しかし、そんな事をしたら人間達と暮らすあやかし達も危険だろう。彼らの事は?」
「考えておらんよ、革命に犠牲はつきものと考えておるのじゃろう」
「そんなものは革命と呼びません、ただのテロリズムです。……サヨリヒメ、我々をここへ招いて、大丈夫なのですか。ここへ人を招いた事が知られては、危険なのでは」
「問題ないじゃろう、父上は今遠くへ出かけておるからの。それに、わらわは羽山の者達が大好きじゃ。大事な人達に、わらわの住む場所を知ってもらいたかった。特にクェーサーに、わらわの世界を覚えてもらいたかったのじゃ」
サヨリヒメはにこりとし、
「大丈夫、おぬしらはわらわが守るから安心せい。なにしろわらわは、神なのじゃからな」
自信なさげなサヨリヒメに、クェーサーは歯がゆい思いを感じた。
サヨリヒメはぽつぽつ話しながら、山の奥へ歩いていた。
救と御堂、そしてクェーサーは、荒れた山道に苦戦しつつついて行く。奥へ行くたび、森の中は荒れていって、密集した木々に日航がさえぎられて暗くなっていった。
「この道もな、昔はもっと整備されていたのじゃよ。人が居なくなってからは、すっかり獣道になってしもうたがの」
「里山は人の手が離れるとあっという間に壊れていくからね、くそ、スニーカーだと滑るな」
「なんだって人は居なくなっちまったんだ? やっぱあれか、都心部の方に流れていったのか」
「いいや、原因は別にある。お、見えて来たぞ」
サヨリヒメが案内したのは、ボロボロになった集落跡だ。
木の中に埋もれ、殆どの建物が崩れ落ちている。唯一生き残っている平屋に入ると、彼女は古ぼけた神棚を持ってきた。
「これは、羽山にある神棚と同じ物じゃ。もうおんぼろじゃから力は失せておるがの」
「では、サヨリヒメはここで祀られていたのですね」
「うむ。この山の者達はわらわを信仰しておってな、熱心に毎日祈りを捧げてくれたものじゃ。しかしの……戦後日本が高度成長期に入り、自然が一気に伐採され始めた。見る間に森は削れ、街が発展し始めた頃……わらわの父上が、それに激怒されたのじゃ。
名はカムスサ、この近辺の守護神でおられる方じゃ。今では人の前から姿を消して、名など残っておらぬがの」
「その守護神様が激怒したって事は、人を追い払いでもしたのかい?」
「……まぁの。祟りを起こし、災害で村を埋め、人間をこの地から叩き出した。わらわは何度も止めたが、父上は聞き入れんかった。気持ちは分かるのじゃ、わらわ達にとってこの地は家も同然、それが突然壊されて納得がいくはずもなかろう」
「サヨリヒメは、どう感じたのです」
「わらわは……なんというかの、ワクワクしておった。大きな変化は新たな始まりでもある、特にわらわは人が好きじゃからのぉ、おぬしらが何をするのか、むしろ楽しみにしておった。それに森が切り崩されるのは、自然の摂理でもある。おぬし達人間も自然の一部、そこより派生した文化文明もその延長。肝要なのは否定するのではなく、受け入れ適応する事じゃ。わらわ達あやかしはそうして生きてきたからの」
「ですが、全てのあやかしが納得できるわけではないかと。大がかりな変化を前に……心、はついて行きません」
クェーサーは言い淀んだ。機械が心を語るなど、おこがましい。
「おぬしの申す通りじゃ。あやかしにも父上のように受け入れられぬ者は確かに居る。そうした者達は暴風雨を呼んだり、地滑りを起こすなどして、人間に戦いを挑んでおるよ。近年で特に大がかりなのは、過去に二度あった大地震か。過激派のあやかし達によって引き起こされ、未曾有の被害が出たからの」
「あの地震あやかしの仕業なのかよ!?」
「それどころか自然災害の大半も……しかし、そんな事をしたら人間達と暮らすあやかし達も危険だろう。彼らの事は?」
「考えておらんよ、革命に犠牲はつきものと考えておるのじゃろう」
「そんなものは革命と呼びません、ただのテロリズムです。……サヨリヒメ、我々をここへ招いて、大丈夫なのですか。ここへ人を招いた事が知られては、危険なのでは」
「問題ないじゃろう、父上は今遠くへ出かけておるからの。それに、わらわは羽山の者達が大好きじゃ。大事な人達に、わらわの住む場所を知ってもらいたかった。特にクェーサーに、わらわの世界を覚えてもらいたかったのじゃ」
サヨリヒメはにこりとし、
「大丈夫、おぬしらはわらわが守るから安心せい。なにしろわらわは、神なのじゃからな」
自信なさげなサヨリヒメに、クェーサーは歯がゆい思いを感じた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】おれたちはサクラ色の青春
藤香いつき
キャラ文芸
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子?
『おれは、この学園で青春する!』
新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。
騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。
桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。
《青春小説×ボカロPカップ8位》
応援ありがとうございました。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~
綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。
SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。
ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。
平日は現役女子高生。間宮香絵。
裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。
無愛想なイチ。
頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。
仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。
世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。
元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!
警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~
完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。
~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
『そして、別れの時』〜『猫たちの時間』13〜
segakiyui
キャラ文芸
俺、滝志郎。人に言わせれば『厄介事吸引器』。
俺には実の両親が現れ、周一郎には当主としての役割が待つ。
さようなら、を言ってくれ、周一郎……。
時は今、別れを告げる。
長らくご愛顧ありがとうございました。
シリーズ14に至るまでのお話です。これでシリーズは終了となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~
相田 彩太
キャラ文芸
東京の中心より西に外れた八王子、さらにその片隅に一軒のひなびた酒場がある。
「酒処 七王子」
そこは一見、普通の酒場であるが、霊感の鋭い人は気づくであろう。
そこが人ならざるモノがあつまる怪異酒場である事を。
これは酒場を切り盛りする7人の兄弟王子と、そこを訪れる奇怪なあやかしたち、そしてそこの料理人である人間の女の子の物語。
◇◇◇◇
オムニバス形式で送る、”あやかし”とのトラブルを料理で解決する快刀乱麻で七転八倒の物語です。
基本的にコメディ路線、たまにシリアス。
小説家になろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる