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45話 人間・あやかし交流会

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 森の奥には開けた場所があり、そこでは大勢のあやかし達が待っていた。

 野点のように傘や畳、毛氈が用意され、沢山の食べ物まで準備している。まさに宴の会場だ。
 羽山工業の社員達は一様に驚いている。まさかここまで歓迎ムードだとは……。

「なぁ、サヨリヒメ。こんなに歓迎されていいのか、俺達……」
「ろんもちじゃ。何をそんな委縮しておる」
「ほら、山に住むあやかしを題材にした漫画やアニメって、人間を毛嫌いしてる事多いから。君達ならともかく、彼らが私達を歓迎してるのがちょっと信じられなくて」
「そいつは所詮演出じゃ、第一それならばおぬしら2人はここに居らんじゃろう」

 人とあやかしのハーフを見て、社員達は成程と頷いた。
 皆が席に着くと、狸のあやかしがクェーサーを見るなり駆け寄ってきた。

「おや、おややや。そこのからくり人形さんはもしかして、以前子供達を助けてくれた方では?」
「そんな事もありましたね、助けたのは救ですが」
「あの時あなたが倒木を止めなければ、子供達は死んでいました。改めてお礼を言わせてください」
「ですからあれは救が」
「ほら! 坊や達もこの方にお礼を言いなさい」

 狸の子供がクェーサーに集まり、一斉に頭を下げてくる。あの時クェーサーは、救が居なければ動けなかったのだが……。

「素直に受けとけよ、あれはお前の手柄だ」
「わかりました……仕方ありません」
「ははっ、クェーサーが最初に助けたのがあやかしか。これは社長冥利に尽きるね」

 羽山が朗らかに笑うと、あやかし達が怯えてしまった。狸の子供もクェーサーの背中に隠れてしまう。

「社長、申し訳ありませんがポーカーフェイスでお願いします」
「うん……社交場は犬養君に任せるよ……」
「落ち込むでない、おぬしが優しいのは分かっておるから。美味い物を沢山用意しておるから、遠慮なく食ってくれ」
「おっと、私らも持ってきたんだ。流石に手ぶらってのも申し訳ないしね」
「飲み物も沢山あるぞ、酒もあるからな!」

 救と白瀬がお重やコンビニ袋を掲げた。人とあやかしが入り混じっての宴会が始まり、思い思いに交流を図っていく。
 クェーサーは皆が飲み食いする様子を眺めつつ、あやかしの子供達の相手をしていた。ヒーローのような外見のロボットのため、特に男子から人気になっていた。

「この山はサヨリヒメの物だよな、大家さんみたいな感じなのか?」
「そんな大層なものではないのぉ。ここは団地みたいなものじゃ、誰が偉いとかはないぞ」
「人間に近い社会構成をしているのか、興味深いね」
「そりゃおぬしらから便利な生活を教わったからの、生活が似通うのは当たり前じゃ。しかし、酒が恋しいのぉ……」
「帰りも運転がありますので、ノンアルで飲んだ気分だけでもどうぞ」

 クェーサーに注がれたノンアルビールを煽り、サヨリヒメは焼き鳥に手を伸ばして、ふと思いついた。

「のうクェーサー、おぬしが食わせてくれぬか」
「構いません。口を開けてください」
「あ~~~」

 クェーサーに食べさせてもらい、サヨリヒメはご満悦だ。救と御堂がにやにやしながら茶化してくる。

「先ほど、稲荷が言っていましたが、おかえりなさいとはどのような意味ですか」
「そんな聞くようなことか?」
「我々を出迎えるならば、「いらっしゃいませ」が普通かと。不自然な発言ですので、気になりました」
「言われてみれば確かに、私とした事が見落としてしまったよ」
「うんまぁ、そうじゃな。随分昔じゃが、ここにも集落があったんじゃよ。人間と共に生活していた時代もあった、んじゃが……追い出してしまっての」
「追い出した? サヨリヒメがですか?」
「わらわではない、父上じゃ」

 サヨリヒメは寂し気に目を伏せ、

「そうじゃの、ついでじゃから来てくれるか。ちょっとした昔話でもしようかの」
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