親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

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42話 なぜ私を生んだ、何のために生まれてきた。

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 クェーサーの心境と反比例するように、羽山工業の業績は上がり続けていた。
 クェーサーによる広告効果と、あやかし達の加入による業務改善が向かい風になり、前年度を上回る売り上げを記録していた。
 それを記念しての飲み会が企画され、クェーサーもそれに参加した。サヨリヒメのスマホに入って、だが。

「それでは皆の頑張りに感謝して、かんぱーい!」

 羽山の音頭によって宴が始まった。皆がジョッキを酌み交わす中、クェーサーはスマホの小部屋から、楽しそうな社員達を眺めるしか出来ないでいた。
 これではまるで、隔離だ。

「どうしたのじゃクェーサー、元気がないのぉ」
「……いえ、大丈夫です」

 近づいたと思っていたサヨリヒメとの距離が、また離れたような気がした。
 結局沈んだまま飲み会を終え、クェーサーは部屋の隅に座り込んだ。帰り道でサヨリヒメは心配になり、救と御堂の腕を引いた。

「のぅ、クェーサーの様子がおかしいのじゃ。なんだか、凄く沈んでおる……」
「沈んでる? 何に落ち込んでるんだよ」
「……御堂、私を生んだ貴女に問いたい。なぜ私に心を与えた」
「なぜって、何度も言っているじゃないか。クェーサーには人に寄り添う……」

「機械が人に寄り添うなど、本当に出来るのですか? 心が電脳世界に取り残された状態では、誰も助けられない。肉体を得ても、誰からも、どこからもつま弾きにされる。認められようと頑張っても、道具としてしか見られない。こんな、ただの便利な器物でしかない私に、心を持たせる意味があったのですか?」

 御堂は返事に詰まった。

「さっきだってそうだ、私は羽山工業の皆と杯を交わす事も、共に食事をとる事も出来ない。とてつもなく寂しくて悲しいのに、私は、涙を流す事も出来ない。こんな苦しみを受けるのなら、心なんかいらなかった。ただの道具として生まれたかった……」

「クェーサー……」
「なぜ、私を造った……私は、何のために生きればいい。教えてくれ……お願いだ……!」

 御堂も救も、サヨリヒメですらも。クェーサーにかける言葉がない。
 心を持たされ、生まれてしまったAIは、自分の存在に苦悩し続けていた。
 その翌日、サヨリヒメは羽山にもクェーサーの事を話した。

「そうか、クェーサー君が……」

 サヨリヒメからの報告を受け、羽山は腕を組んだ。
 クェーサーが受けている苦痛は、羽山工業の誰にも解決できるものではない。皆誰も言葉を発せず、黙るしかなかった。

「思えば、安直に考えていたかもしれない。AIに心を与えるのは、新しい命を生み出すのと同じことです。それなのに私は、それに対する責任を放棄していた……」
「ひかるさんが悪いわけじゃないよ。僕もゲームや道具を作るような感覚だったから、そこまで考えが回らなかったよ」
「心を持ったAIを、軽く扱いすぎてしまったね。うーん、どうしたものか」

 オフィスに救と白瀬、犬養が入ってきた。彼らは首を振り、

「だめだ、クェーサー随分とふさぎ込んでるよ」
「どうしたもんかなぁ。私頭悪いから、あいつにどう接すればいいのか分からないよ」
「人間でいう思春期に入っているからね、どうにも難しいな。彼自身が答えを見つけない限り解決しない問題だ」

 自他との違いに敏感になる時期だ。クェーサーは心が育った結果、人やあやかしとの違いに悩んでいるのだ。

「何か、クェーサーにとっての生きがいがあればよいのじゃがのぅ……」
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