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34話 私は誰だ?
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あやかし達と共同戦線を組んでから、羽山工業の業績は大きく上がり始めた。
長い時間を生きてきた彼らを介し、大企業と大口の契約を取れたり、優秀なあやかしの職員を連れてきてくれたり、作業機械を改良して性能を上げてくれたり。あやかし達が大手を振るって協力してくれるおかげで、会社の環境が大幅に良くなっていた。
優秀なあやかしスタッフの加入によって、クェーサーの開発も一気に進んでいた。
「へいへいブレイキンブレイキン! イェア!」
数ヶ月後に行われた、二度目の稼働実験にて、救はクェーサーで見事なブレイクダンスを披露していた。
あやかし達の技術が加わった事で、クェーサーはより人間に近い動きが出来るようになっていた。6メートルの巨体でバック転を始めとしたパルクールまで可能になり、まるでロボットアニメが現実に飛び出してきたような光景だ。
「救! 次俺な!」
「おうよ!」
鬼に運転が変わり、空手の演武が始まる。パイロットが変わっても、クェーサーが瞬時に搭乗者に合わせてOSをチューニングし、適切な動作が出来るように調整してくれる。
そのため、誰が乗っても肌感覚に合わせた操縦が可能となり、訓練期間の大幅な短縮が望めるのだ。
「いやはや、あやかし達の技術は素晴らしいな。クェーサーが見違えるような性能になっているよ」
「まさしく日本の誉れに相応しき機体、第二のゼロよ。奴が日の丸を背負う日も近いの」
犬養とだいだらぼっちがうんうんと頷いている。御堂とサヨリヒメもクェーサーの可動データを眺め、満足気だ。
「先輩! 次はパックを使っての実験をしましょう!」
「新しいバックパックのお披露目だな」
クェーサーの新しい装備は、巨大なウインチが四つ付いた、ワイヤーパックと名付けた物だ。
その名の通り50メートルのワイヤーが納められたバックパックで、主にクェーサーを固定したり、上下移動を行うのに用いられる装備である。
大雨によって河川が氾濫した場合、クェーサーも濁流によってバランスを崩す恐れがある。それを防ぐため、アンカー付きのワイヤーで機体を支えるのだ。
「我らが長年を培い生み出した、特殊合金製ワイヤーだの。しなやかで粘りがあり、それでいて硬い。クェーサー程度ならば容易く支えられるの」
「スパイダーマンみたいな立体機動とかもできそうだな」
『接続部の強度が不足しています。数分が限界かと』
「極短時間なら出来るって事か。んまぁ、そんな状況あるわけないけどな」
「でも接続部を強化するのは必要じゃないかい? 万一パックが外れりゃクェーサーが流されるよ」
白瀬の指摘に救達は頷き、課題に加えた。
人とあやかしが額を合わせて議論する光景を、サヨリヒメは嬉しそうに眺めていた。
『楽しそうですね』
「まぁの。普段人に紛れているあやかしが、人と堂々と混じっている姿がなんとも新鮮じゃ」
『自律思考するAIが傍に居るからこそ受け入れられたのかと。私の存在自体ファンタジーのような物ですし』
「かもしれんなぁ。クェーサーはまるで架け橋のようじゃ、人とあやかしを繋ぐ光じゃ」
『人とあやかしを繋ぐ?』
「おぬしが生まれたから、こうして人とあやかしが手を結んだ。おぬしが居らねば、この光景は実現せんかったじゃろう。おぬしは、人とあやかしにとっての希望じゃ」
『……そうでしょうか』
サヨリヒメからそう言われたのは、何よりも嬉しい。
でも、電脳空間に居る自分では、サヨリヒメを助けられなかった。
人の手を借りねば、現実世界で思うように動くことすらできない。
こんな不自由な、実体を持たない思考だけの存在が、本当に人とあやかしの架け橋だと言うのか?
彼らが求めているのはクェーサーではなく、クェーサーの体だ、機械だ。AIの自分が、彼らにしてやれる事など……心に寄り添えるような事など、何一つない。
……私は、誰だ。私は何のために生まれてきた。
悩みはただ、深まるばかりだ。
長い時間を生きてきた彼らを介し、大企業と大口の契約を取れたり、優秀なあやかしの職員を連れてきてくれたり、作業機械を改良して性能を上げてくれたり。あやかし達が大手を振るって協力してくれるおかげで、会社の環境が大幅に良くなっていた。
優秀なあやかしスタッフの加入によって、クェーサーの開発も一気に進んでいた。
「へいへいブレイキンブレイキン! イェア!」
数ヶ月後に行われた、二度目の稼働実験にて、救はクェーサーで見事なブレイクダンスを披露していた。
あやかし達の技術が加わった事で、クェーサーはより人間に近い動きが出来るようになっていた。6メートルの巨体でバック転を始めとしたパルクールまで可能になり、まるでロボットアニメが現実に飛び出してきたような光景だ。
「救! 次俺な!」
「おうよ!」
鬼に運転が変わり、空手の演武が始まる。パイロットが変わっても、クェーサーが瞬時に搭乗者に合わせてOSをチューニングし、適切な動作が出来るように調整してくれる。
そのため、誰が乗っても肌感覚に合わせた操縦が可能となり、訓練期間の大幅な短縮が望めるのだ。
「いやはや、あやかし達の技術は素晴らしいな。クェーサーが見違えるような性能になっているよ」
「まさしく日本の誉れに相応しき機体、第二のゼロよ。奴が日の丸を背負う日も近いの」
犬養とだいだらぼっちがうんうんと頷いている。御堂とサヨリヒメもクェーサーの可動データを眺め、満足気だ。
「先輩! 次はパックを使っての実験をしましょう!」
「新しいバックパックのお披露目だな」
クェーサーの新しい装備は、巨大なウインチが四つ付いた、ワイヤーパックと名付けた物だ。
その名の通り50メートルのワイヤーが納められたバックパックで、主にクェーサーを固定したり、上下移動を行うのに用いられる装備である。
大雨によって河川が氾濫した場合、クェーサーも濁流によってバランスを崩す恐れがある。それを防ぐため、アンカー付きのワイヤーで機体を支えるのだ。
「我らが長年を培い生み出した、特殊合金製ワイヤーだの。しなやかで粘りがあり、それでいて硬い。クェーサー程度ならば容易く支えられるの」
「スパイダーマンみたいな立体機動とかもできそうだな」
『接続部の強度が不足しています。数分が限界かと』
「極短時間なら出来るって事か。んまぁ、そんな状況あるわけないけどな」
「でも接続部を強化するのは必要じゃないかい? 万一パックが外れりゃクェーサーが流されるよ」
白瀬の指摘に救達は頷き、課題に加えた。
人とあやかしが額を合わせて議論する光景を、サヨリヒメは嬉しそうに眺めていた。
『楽しそうですね』
「まぁの。普段人に紛れているあやかしが、人と堂々と混じっている姿がなんとも新鮮じゃ」
『自律思考するAIが傍に居るからこそ受け入れられたのかと。私の存在自体ファンタジーのような物ですし』
「かもしれんなぁ。クェーサーはまるで架け橋のようじゃ、人とあやかしを繋ぐ光じゃ」
『人とあやかしを繋ぐ?』
「おぬしが生まれたから、こうして人とあやかしが手を結んだ。おぬしが居らねば、この光景は実現せんかったじゃろう。おぬしは、人とあやかしにとっての希望じゃ」
『……そうでしょうか』
サヨリヒメからそう言われたのは、何よりも嬉しい。
でも、電脳空間に居る自分では、サヨリヒメを助けられなかった。
人の手を借りねば、現実世界で思うように動くことすらできない。
こんな不自由な、実体を持たない思考だけの存在が、本当に人とあやかしの架け橋だと言うのか?
彼らが求めているのはクェーサーではなく、クェーサーの体だ、機械だ。AIの自分が、彼らにしてやれる事など……心に寄り添えるような事など、何一つない。
……私は、誰だ。私は何のために生まれてきた。
悩みはただ、深まるばかりだ。
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