33 / 57
33話 最早後には引けない
しおりを挟む
「ええい、どこに行きおった」
カムスサはヤマタノオロチを探していた。妖気を集めていたら、隠し場所から逃げていたのだ。
まだヤマタノオロチは完全ではない、万一見つかれば、人間でも容易く駆除できてしまう。
くまなく探すと、白蛇を見つけた。8つある頭の内、1つが欠けていた。
「お前、首はどうした? まさか人間に切られたか」
心配したのも束の間、1匹の白蛇が現れて、ヤマタノオロチと同化する。元通り8つの頭になり、カムスサはほっとした。
首を分断して、個別に動かせるようだ。
「ひやひやさせおって、どこに行っておった」
残念ながら、ヤマタノオロチに会話できる知能はない。カムスサはため息を吐いた。
……今日も街であやかしを狩ってきた。大儀のため、あやかしの未来のため。自分に何度も言い聞かせ、非道を働く度に、心がひび割れていくのを感じた。
人間社会に溶け込んでいるあやかし達を眺めている内に、自分のやっている事が本当に正義なのか、分からなくなってくる。
あやかし達は本気で人間を愛し、人間もまたあやかし達へ愛を注いでいる。驚くことに、友や意中の相手があやかしだと知っても、想いを変えぬ人間が多数居たのだ。
人間はあやかしを見下していたのではなかったのか? それでは自分のやっている事は、無意味なのではないか?
あやかしだけの世界を作ろうとするのは、同胞から愛する者達を奪う事に繋がってしまうのではないか?
それどころか、人間を追い払うために、同胞に手を下している自分は……単なる悪なのではないか?
今からでも、人間との共存に動くべきではないのか?
「……今さら、後に引けるものか」
行動には常に責任が伴う、例え過ちだとしても、後戻りなど許されない。
人間を排斥しなければ、あやかし達から力を貰わねば。どんなに間違っていても、始めた以上は止まれないのだ。
「すまぬ……だが、許せよ……」
必ずや、あやかし達の、理想の世界を、造らねばならぬ。
ヤマタノオロチを飼っていて分かったが、こいつは力を付ければ付ける程制御が難しくなる。意のままに操るには、強力な妖力を持ったあやかしを核とする必要があるようだ。
しかしそんな妖力を持ったあやかしなど、そうそう居るわけではない。
「……おい、お前……なぜお前から、サヨを感じる」
ヤマタノオロチに触れると、サヨリヒメの力を感じた。こいつ、まさか仁王まで赴き、サヨリヒメの妖力を食ったのか?
「……そうか、サヨか。あいつを、核にすれば……!」
カムスサの考えは、親として絶対に踏み超えてはならない一線だった。
だけど……焦りもあってカムスサは……迷わずそれを超えようとしていた。
カムスサはヤマタノオロチを探していた。妖気を集めていたら、隠し場所から逃げていたのだ。
まだヤマタノオロチは完全ではない、万一見つかれば、人間でも容易く駆除できてしまう。
くまなく探すと、白蛇を見つけた。8つある頭の内、1つが欠けていた。
「お前、首はどうした? まさか人間に切られたか」
心配したのも束の間、1匹の白蛇が現れて、ヤマタノオロチと同化する。元通り8つの頭になり、カムスサはほっとした。
首を分断して、個別に動かせるようだ。
「ひやひやさせおって、どこに行っておった」
残念ながら、ヤマタノオロチに会話できる知能はない。カムスサはため息を吐いた。
……今日も街であやかしを狩ってきた。大儀のため、あやかしの未来のため。自分に何度も言い聞かせ、非道を働く度に、心がひび割れていくのを感じた。
人間社会に溶け込んでいるあやかし達を眺めている内に、自分のやっている事が本当に正義なのか、分からなくなってくる。
あやかし達は本気で人間を愛し、人間もまたあやかし達へ愛を注いでいる。驚くことに、友や意中の相手があやかしだと知っても、想いを変えぬ人間が多数居たのだ。
人間はあやかしを見下していたのではなかったのか? それでは自分のやっている事は、無意味なのではないか?
あやかしだけの世界を作ろうとするのは、同胞から愛する者達を奪う事に繋がってしまうのではないか?
それどころか、人間を追い払うために、同胞に手を下している自分は……単なる悪なのではないか?
今からでも、人間との共存に動くべきではないのか?
「……今さら、後に引けるものか」
行動には常に責任が伴う、例え過ちだとしても、後戻りなど許されない。
人間を排斥しなければ、あやかし達から力を貰わねば。どんなに間違っていても、始めた以上は止まれないのだ。
「すまぬ……だが、許せよ……」
必ずや、あやかし達の、理想の世界を、造らねばならぬ。
ヤマタノオロチを飼っていて分かったが、こいつは力を付ければ付ける程制御が難しくなる。意のままに操るには、強力な妖力を持ったあやかしを核とする必要があるようだ。
しかしそんな妖力を持ったあやかしなど、そうそう居るわけではない。
「……おい、お前……なぜお前から、サヨを感じる」
ヤマタノオロチに触れると、サヨリヒメの力を感じた。こいつ、まさか仁王まで赴き、サヨリヒメの妖力を食ったのか?
「……そうか、サヨか。あいつを、核にすれば……!」
カムスサの考えは、親として絶対に踏み超えてはならない一線だった。
だけど……焦りもあってカムスサは……迷わずそれを超えようとしていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】おれたちはサクラ色の青春
藤香いつき
キャラ文芸
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子?
『おれは、この学園で青春する!』
新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。
騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。
桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。
《青春小説×ボカロPカップ8位》
応援ありがとうございました。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~
綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。
SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。
ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。
平日は現役女子高生。間宮香絵。
裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。
無愛想なイチ。
頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。
仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。
世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。
元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!
警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~
完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。
~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
『そして、別れの時』〜『猫たちの時間』13〜
segakiyui
キャラ文芸
俺、滝志郎。人に言わせれば『厄介事吸引器』。
俺には実の両親が現れ、周一郎には当主としての役割が待つ。
さようなら、を言ってくれ、周一郎……。
時は今、別れを告げる。
長らくご愛顧ありがとうございました。
シリーズ14に至るまでのお話です。これでシリーズは終了となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~
相田 彩太
キャラ文芸
東京の中心より西に外れた八王子、さらにその片隅に一軒のひなびた酒場がある。
「酒処 七王子」
そこは一見、普通の酒場であるが、霊感の鋭い人は気づくであろう。
そこが人ならざるモノがあつまる怪異酒場である事を。
これは酒場を切り盛りする7人の兄弟王子と、そこを訪れる奇怪なあやかしたち、そしてそこの料理人である人間の女の子の物語。
◇◇◇◇
オムニバス形式で送る、”あやかし”とのトラブルを料理で解決する快刀乱麻で七転八倒の物語です。
基本的にコメディ路線、たまにシリアス。
小説家になろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる