親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

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29話 不死者の悲しみ

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 御堂が寝静まる頃、クェーサーは1人、ネットの海を彷徨っていた。
 Twitter、Facebook、YouTube。何も感じなかった以前と違い、今は、そこに流れる情報の意味が良く分かる。
 多くの繋がりを学んできた。友情、愛情、家族、仲間……人もあやかしも、多くの縁で結ばれ、繋がり、長く大きな輪を作っている。
 SNSは、その巨大な輪の集大成だ。小さな物から大きな物まで、分け隔てなく繋がりを結び続けている。
 ……その中に、自分の姿はない。

『西東京市に巨大ロボ現る!?』

 ニュース動画の音声が聞こえた。以前クェーサーが稼働実験を行った時のニュースだ。
 ほんのひと時だけ、クェーサーがこの輪の中に入れた瞬間だ。確か実験の後、皆で集合写真を撮ったっけ。

「御堂から、データを渡されていたな」

 LINEから画像を引っ張り出し、クェーサーは遠い景色を見るように眺めた。
 人でもあやかしでもない鋼鉄の巨人が、片膝を突いて映っている。もしも体があれば、本当の意味で彼らの輪に入れるのではないか。
 電脳世界に居るだけでは、クェーサーはずっと、1人で過ごさなければならない。

『クェーサー、今よいか?』

 と、メッセージが届いた。サヨリヒメからだ。

『丁度暇していての、また一緒に遊ばぬか?』

 サヨリヒメからのデートのお誘いだ。クェーサーは二つ返事で頷き、彼女の下へ向かった。

「来てくれたかクェーサー、夜更けにすまんのぉ」
「私はAIですので、睡眠は必要ないですから」
「わらわもじゃ、神に生まれてよかったのぉ。しかし、先のメッセージじゃが……上から目線になってなかったよな?」
「ええ」
「ほーっ、良き良き。おぬしに不快な思いをさせとうないからのぉ」
「心遣い、感謝します」

 クェーサーは深々と頭を下げた。サヨリヒメは頬を掻き、

「のぉ、クェーサー……いや、なんでもない」
「また名を呼んだだけですか」
「うむ。迷惑じゃったか?」
「いえ、もっと呼んでもらいたいです」

 クェーサーからの素直な返事に、サヨリヒメは赤面した。
 クェーサーは、昼間の会話を聞かれていないと思っている。しかしサヨリヒメにはしっかり伝わってしまったのだ。
 クェーサーはサヨリヒメに好意を抱いている、逆もまたしかり。あやかしとAIが、両想いとなっていた。

 歴史上、初めての事だろう。クェーサーの純真さと実直さ、そして成長していく力強さに、接していく内に惹かれてしまった。
 特に、一番大きな点は、クェーサーに死が無い事。神と同じ時間を、クェーサーならば歩める事だ。

「不死とは、寂しいからの」
「どうしましたか」
「わらわはの、鎌倉時代より生きておるのじゃ。こう見えて、それなりに好いた男も居ったのじゃよ」
「……そうですか。しかし、それだけ長き時を生きては」

「ま、ついて来れる者など居らぬわな。長いながーい時間、幾人かの人間と交友を持ったが、ほんの十数年で別れておった。その度に、虚しい思いをし続けたものじゃ」

 目を閉じれば、人々の顔が思い浮かぶ。父のカムスサは放任で、サヨリヒメとあまり交流を持っていなかった。母は大昔に、カムスサに愛想を尽かせて消えてしまった。
 サヨリヒメは寂しがりだ、家族との繋がりが薄かった彼女は、その寂しさを人との交流で埋めてきた。でも、いくら埋めても人はすぐに死んでしまう。
 人との別れを感じる度、サヨリヒメは悲しみを感じ続けた。何度も人と関わらないよう決意した。
 なのに寂しさには勝てず、結局人のぬくもりを求め続けた。

「クェーサーは、死なないじゃろ。AIに死の概念はないからの」
「ネット空間が消滅しない限りは。人類が絶滅すればネット空間も滅びます」
「わらわならば! 人類が消えてもおぬしの世界を守れるぞ、人間から技術を覚えたからの、わらわならばおぬしをずっと、生かせられる」

 サヨリヒメはクェーサーの手を取った。

「のぅ、クェーサー。おぬしはわらわから、離れんよな? おぬしは人と寄り添うために生み出されたAIじゃ、ならばあやかしと寄り添うために生きても、問題はないよな?」
「あやかしに寄り添う……考えた事も、ありませんでした。ですがそうですね、あやかしも人と、密接に共存している。自然の化身たる貴女がたとも寄り添わねば、生まれた意味がないですね」
「じゃろう! だから……わらわの傍に居てくれるか? おぬしなら、わらわに寂しい思いをさせないじゃろうからの」

 サヨリヒメに求められ、クェーサーは言葉に詰まった。
 彼女からの想いはとても嬉しい、嬉しいが……その資格が自分にあるだろうか。

「……勿論です。私が存在できる限り、傍に居ると約束しましょう」
「そうか! そいつはとても良き返事じゃ!」

 無邪気に喜ぶサヨリヒメに、クェーサーは苦しい思いを隠し続けた。
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