29 / 57
29話 不死者の悲しみ
しおりを挟む
御堂が寝静まる頃、クェーサーは1人、ネットの海を彷徨っていた。
Twitter、Facebook、YouTube。何も感じなかった以前と違い、今は、そこに流れる情報の意味が良く分かる。
多くの繋がりを学んできた。友情、愛情、家族、仲間……人もあやかしも、多くの縁で結ばれ、繋がり、長く大きな輪を作っている。
SNSは、その巨大な輪の集大成だ。小さな物から大きな物まで、分け隔てなく繋がりを結び続けている。
……その中に、自分の姿はない。
『西東京市に巨大ロボ現る!?』
ニュース動画の音声が聞こえた。以前クェーサーが稼働実験を行った時のニュースだ。
ほんのひと時だけ、クェーサーがこの輪の中に入れた瞬間だ。確か実験の後、皆で集合写真を撮ったっけ。
「御堂から、データを渡されていたな」
LINEから画像を引っ張り出し、クェーサーは遠い景色を見るように眺めた。
人でもあやかしでもない鋼鉄の巨人が、片膝を突いて映っている。もしも体があれば、本当の意味で彼らの輪に入れるのではないか。
電脳世界に居るだけでは、クェーサーはずっと、1人で過ごさなければならない。
『クェーサー、今よいか?』
と、メッセージが届いた。サヨリヒメからだ。
『丁度暇していての、また一緒に遊ばぬか?』
サヨリヒメからのデートのお誘いだ。クェーサーは二つ返事で頷き、彼女の下へ向かった。
「来てくれたかクェーサー、夜更けにすまんのぉ」
「私はAIですので、睡眠は必要ないですから」
「わらわもじゃ、神に生まれてよかったのぉ。しかし、先のメッセージじゃが……上から目線になってなかったよな?」
「ええ」
「ほーっ、良き良き。おぬしに不快な思いをさせとうないからのぉ」
「心遣い、感謝します」
クェーサーは深々と頭を下げた。サヨリヒメは頬を掻き、
「のぉ、クェーサー……いや、なんでもない」
「また名を呼んだだけですか」
「うむ。迷惑じゃったか?」
「いえ、もっと呼んでもらいたいです」
クェーサーからの素直な返事に、サヨリヒメは赤面した。
クェーサーは、昼間の会話を聞かれていないと思っている。しかしサヨリヒメにはしっかり伝わってしまったのだ。
クェーサーはサヨリヒメに好意を抱いている、逆もまたしかり。あやかしとAIが、両想いとなっていた。
歴史上、初めての事だろう。クェーサーの純真さと実直さ、そして成長していく力強さに、接していく内に惹かれてしまった。
特に、一番大きな点は、クェーサーに死が無い事。神と同じ時間を、クェーサーならば歩める事だ。
「不死とは、寂しいからの」
「どうしましたか」
「わらわはの、鎌倉時代より生きておるのじゃ。こう見えて、それなりに好いた男も居ったのじゃよ」
「……そうですか。しかし、それだけ長き時を生きては」
「ま、ついて来れる者など居らぬわな。長いながーい時間、幾人かの人間と交友を持ったが、ほんの十数年で別れておった。その度に、虚しい思いをし続けたものじゃ」
目を閉じれば、人々の顔が思い浮かぶ。父のカムスサは放任で、サヨリヒメとあまり交流を持っていなかった。母は大昔に、カムスサに愛想を尽かせて消えてしまった。
サヨリヒメは寂しがりだ、家族との繋がりが薄かった彼女は、その寂しさを人との交流で埋めてきた。でも、いくら埋めても人はすぐに死んでしまう。
人との別れを感じる度、サヨリヒメは悲しみを感じ続けた。何度も人と関わらないよう決意した。
なのに寂しさには勝てず、結局人のぬくもりを求め続けた。
「クェーサーは、死なないじゃろ。AIに死の概念はないからの」
「ネット空間が消滅しない限りは。人類が絶滅すればネット空間も滅びます」
「わらわならば! 人類が消えてもおぬしの世界を守れるぞ、人間から技術を覚えたからの、わらわならばおぬしをずっと、生かせられる」
サヨリヒメはクェーサーの手を取った。
「のぅ、クェーサー。おぬしはわらわから、離れんよな? おぬしは人と寄り添うために生み出されたAIじゃ、ならばあやかしと寄り添うために生きても、問題はないよな?」
「あやかしに寄り添う……考えた事も、ありませんでした。ですがそうですね、あやかしも人と、密接に共存している。自然の化身たる貴女がたとも寄り添わねば、生まれた意味がないですね」
「じゃろう! だから……わらわの傍に居てくれるか? おぬしなら、わらわに寂しい思いをさせないじゃろうからの」
サヨリヒメに求められ、クェーサーは言葉に詰まった。
彼女からの想いはとても嬉しい、嬉しいが……その資格が自分にあるだろうか。
「……勿論です。私が存在できる限り、傍に居ると約束しましょう」
「そうか! そいつはとても良き返事じゃ!」
無邪気に喜ぶサヨリヒメに、クェーサーは苦しい思いを隠し続けた。
Twitter、Facebook、YouTube。何も感じなかった以前と違い、今は、そこに流れる情報の意味が良く分かる。
多くの繋がりを学んできた。友情、愛情、家族、仲間……人もあやかしも、多くの縁で結ばれ、繋がり、長く大きな輪を作っている。
SNSは、その巨大な輪の集大成だ。小さな物から大きな物まで、分け隔てなく繋がりを結び続けている。
……その中に、自分の姿はない。
『西東京市に巨大ロボ現る!?』
ニュース動画の音声が聞こえた。以前クェーサーが稼働実験を行った時のニュースだ。
ほんのひと時だけ、クェーサーがこの輪の中に入れた瞬間だ。確か実験の後、皆で集合写真を撮ったっけ。
「御堂から、データを渡されていたな」
LINEから画像を引っ張り出し、クェーサーは遠い景色を見るように眺めた。
人でもあやかしでもない鋼鉄の巨人が、片膝を突いて映っている。もしも体があれば、本当の意味で彼らの輪に入れるのではないか。
電脳世界に居るだけでは、クェーサーはずっと、1人で過ごさなければならない。
『クェーサー、今よいか?』
と、メッセージが届いた。サヨリヒメからだ。
『丁度暇していての、また一緒に遊ばぬか?』
サヨリヒメからのデートのお誘いだ。クェーサーは二つ返事で頷き、彼女の下へ向かった。
「来てくれたかクェーサー、夜更けにすまんのぉ」
「私はAIですので、睡眠は必要ないですから」
「わらわもじゃ、神に生まれてよかったのぉ。しかし、先のメッセージじゃが……上から目線になってなかったよな?」
「ええ」
「ほーっ、良き良き。おぬしに不快な思いをさせとうないからのぉ」
「心遣い、感謝します」
クェーサーは深々と頭を下げた。サヨリヒメは頬を掻き、
「のぉ、クェーサー……いや、なんでもない」
「また名を呼んだだけですか」
「うむ。迷惑じゃったか?」
「いえ、もっと呼んでもらいたいです」
クェーサーからの素直な返事に、サヨリヒメは赤面した。
クェーサーは、昼間の会話を聞かれていないと思っている。しかしサヨリヒメにはしっかり伝わってしまったのだ。
クェーサーはサヨリヒメに好意を抱いている、逆もまたしかり。あやかしとAIが、両想いとなっていた。
歴史上、初めての事だろう。クェーサーの純真さと実直さ、そして成長していく力強さに、接していく内に惹かれてしまった。
特に、一番大きな点は、クェーサーに死が無い事。神と同じ時間を、クェーサーならば歩める事だ。
「不死とは、寂しいからの」
「どうしましたか」
「わらわはの、鎌倉時代より生きておるのじゃ。こう見えて、それなりに好いた男も居ったのじゃよ」
「……そうですか。しかし、それだけ長き時を生きては」
「ま、ついて来れる者など居らぬわな。長いながーい時間、幾人かの人間と交友を持ったが、ほんの十数年で別れておった。その度に、虚しい思いをし続けたものじゃ」
目を閉じれば、人々の顔が思い浮かぶ。父のカムスサは放任で、サヨリヒメとあまり交流を持っていなかった。母は大昔に、カムスサに愛想を尽かせて消えてしまった。
サヨリヒメは寂しがりだ、家族との繋がりが薄かった彼女は、その寂しさを人との交流で埋めてきた。でも、いくら埋めても人はすぐに死んでしまう。
人との別れを感じる度、サヨリヒメは悲しみを感じ続けた。何度も人と関わらないよう決意した。
なのに寂しさには勝てず、結局人のぬくもりを求め続けた。
「クェーサーは、死なないじゃろ。AIに死の概念はないからの」
「ネット空間が消滅しない限りは。人類が絶滅すればネット空間も滅びます」
「わらわならば! 人類が消えてもおぬしの世界を守れるぞ、人間から技術を覚えたからの、わらわならばおぬしをずっと、生かせられる」
サヨリヒメはクェーサーの手を取った。
「のぅ、クェーサー。おぬしはわらわから、離れんよな? おぬしは人と寄り添うために生み出されたAIじゃ、ならばあやかしと寄り添うために生きても、問題はないよな?」
「あやかしに寄り添う……考えた事も、ありませんでした。ですがそうですね、あやかしも人と、密接に共存している。自然の化身たる貴女がたとも寄り添わねば、生まれた意味がないですね」
「じゃろう! だから……わらわの傍に居てくれるか? おぬしなら、わらわに寂しい思いをさせないじゃろうからの」
サヨリヒメに求められ、クェーサーは言葉に詰まった。
彼女からの想いはとても嬉しい、嬉しいが……その資格が自分にあるだろうか。
「……勿論です。私が存在できる限り、傍に居ると約束しましょう」
「そうか! そいつはとても良き返事じゃ!」
無邪気に喜ぶサヨリヒメに、クェーサーは苦しい思いを隠し続けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。
ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。
でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。
結婚したくない腐女子が結婚しました
折原さゆみ
キャラ文芸
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。
仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。
本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは?
※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。
主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。
※番外編を随時更新中。
限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです
釈 余白(しやく)
キャラ文芸
現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。
妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。
この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。
※外伝
・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298
※当作品は完全なフィクションです。
登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。
事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。
当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
妖夢幻影
陰東 愛香音
キャラ文芸
「現世と前世の交差する百鬼夜行の夜は、阿鼻叫喚に染まる終末の始まり。世に悪鬼たちを解き放つ白銀の人狼を狙い打て」
そう言い伝えられて約一千年。田舎にひっそりと佇む妖封寺では、その伝承を現在にも受け継いでいる。血縁者だけがほそぼそと受け継いできたこの神社の後継者である神宮寺冴歌は、スーパームーンとブルームーン、そして皆既月食が重なる珍しい月夜に立ち竦む。
スーパーブルーブラッドムーンと名付けられた珍しい満月が昇る晩、冴歌は伝承に記された百鬼夜行に遭遇する。
華宮弥の力を受け継ぐ冴歌は、銀狼と対峙する運命を自覚する。だが、思わぬ方向へと事態が変わり……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる