26 / 57
26話 あやかし夜行
しおりを挟む
深夜にサヨリヒメは、羽山工業に忍び込んだ。
クェーサーを見上げ、ため息を吐く。たかがAIのために自分は何をしているのだろうか。
あの夜に受けた想いは、映画に当てられただけだ。決してクェーサーに、特別な感情など抱いていない。
「やれやれ、わらわも焼きが回ったかのぉ」
人に恋した事は、何度かある。でもその度にサヨリヒメは諦めた。
悠久の時を生きる彼女にとって、人間の一生など瞬くほどに短い。いつしか人間に恋しないよう心掛けるようになった。
でもAIは、人工知能は違う。あやかしと同じように長い時間を生きられる。命に終わりがないから、サヨリヒメといつまでも、添い遂げられるだろう。
「おぉーいヒメ、入るよぉ」
物思いにふけっていたら、呼んでいたあやかし達がやってきた。
だいだらぼっちに鬼、雪女、アマビエ。クェーサーを強化するための助っ人だ。
「よく来てくれたのぉ、是非ともおぬしらの知恵を借りたいのじゃ」
「LINE見たよ、このロボットを改良したいんだってねぇ。しかしニュースで見たけど、凄い機体だよねぇ」
アマビエは感嘆とクェーサーを見上げた。クェーサーと同じ体躯のだいだらぼっちは、ペタペタと機体に触れた。
「ほぉほぉ、なるなる。関節部に弱点を抱えているようだの。摩擦係数が高くて運動性の低下につながっておるのだな」
「流石はでいだらじゃ。伊達に中島飛行機で働いていたわけではないようじゃの」
二次大戦中、ゼロ戦を製造していた会社である。このだいだらぼっち、人間に扮してゼロ戦の製造に携わっていたのだ。
それだけでなく、アマビエは鉄道省でデゴイチを設計し、鬼は呉で大和を製造し、雪女はミニ四駆の世界大会4連覇を成し遂げた、メカニックのスペシャリスト達だ。
現在でも各地にて物作りに携わっており、優れた技術力で人々の生活を支えているあやかし達である。
「ゼロも良い機体だったが、そいつを上回る逸品だ。いやはや、人間の技術力は底がないの」
「それもこんな町工場でだよ。大企業が作るならまだ分かるけど……サヨリヒメの加護のおかげかな? 俺もここで働きたかったなぁ」
鬼は感心した様子で腕を組んだ。雪女もクェーサーに興奮を隠せない様子だが。
「でも、勝手にやっていいのかい? ここの社長さんに一言かけた方が」
「後でわらわからこっそりかけておく。あやかしの力を借りると言って、信じてくれるわけがないからの」
「それもそうか。あたしらの手を借りるって事は、手詰まりになってるってわけだろ。だったら任せな、必ずこいつの弱点を克服してやるよ」
「いやー、ロボットの製造に関われるなんて最高だよ。大和以来の興奮だ」
「こいつを新たな日本の誉れ、第二のゼロに仕上げてやろう。ま、今日の所は下見になるがの」
助っ人あやかし達はクェーサーを徹底的に調べ上げ、構造上の欠点を洗い出した。歴戦の武士にとって、巨大ロボの製造は滾る物があるのだろう。四人とも凄く楽しそうだ。
「よし、では後日対策を用意してこよう。楽しみにしておれ」
「うむ、くるしゅうない」
「あ、そうだぁ。ねぇヒメ、最近あやかし達が襲われているの、知ってる?」
「あやかし達が?」
アマビエは頷き、スマホを見せた。
「狸が大量に衰弱、烏……天狗が泡をふいて墜落。それにいくつかの通り魔事件の被害者は、全員あやかしじゃ……」
「ああ、それね。襲われた連中は、全員妖気を抜かれていたんだ。それこそ干乾しになるくらいにね。あたしのダチもやられたよ、夜道を歩いていたらいきなりやられたんだと」
「しかも、全員犯人の顔どころか、事件の記憶がないんだと。変な事件だの」
「幸い、皆命に別状はないんだけどねぇ。ヒメも気を付けた方がいいよぉ」
「うむ……」
何故か、胸騒ぎがした。
妖気を抜かれているから、犯人は間違いなくあやかしだ。でも、これだけの規模の事件を、姿を見せずに行うのは不可能だ。
となれば、記憶を操って証拠を消しているのだろうが……そんな事が出来るのは、サヨリヒメのような神しかいない。
……嫌な予感がする。
クェーサーを見上げ、ため息を吐く。たかがAIのために自分は何をしているのだろうか。
あの夜に受けた想いは、映画に当てられただけだ。決してクェーサーに、特別な感情など抱いていない。
「やれやれ、わらわも焼きが回ったかのぉ」
人に恋した事は、何度かある。でもその度にサヨリヒメは諦めた。
悠久の時を生きる彼女にとって、人間の一生など瞬くほどに短い。いつしか人間に恋しないよう心掛けるようになった。
でもAIは、人工知能は違う。あやかしと同じように長い時間を生きられる。命に終わりがないから、サヨリヒメといつまでも、添い遂げられるだろう。
「おぉーいヒメ、入るよぉ」
物思いにふけっていたら、呼んでいたあやかし達がやってきた。
だいだらぼっちに鬼、雪女、アマビエ。クェーサーを強化するための助っ人だ。
「よく来てくれたのぉ、是非ともおぬしらの知恵を借りたいのじゃ」
「LINE見たよ、このロボットを改良したいんだってねぇ。しかしニュースで見たけど、凄い機体だよねぇ」
アマビエは感嘆とクェーサーを見上げた。クェーサーと同じ体躯のだいだらぼっちは、ペタペタと機体に触れた。
「ほぉほぉ、なるなる。関節部に弱点を抱えているようだの。摩擦係数が高くて運動性の低下につながっておるのだな」
「流石はでいだらじゃ。伊達に中島飛行機で働いていたわけではないようじゃの」
二次大戦中、ゼロ戦を製造していた会社である。このだいだらぼっち、人間に扮してゼロ戦の製造に携わっていたのだ。
それだけでなく、アマビエは鉄道省でデゴイチを設計し、鬼は呉で大和を製造し、雪女はミニ四駆の世界大会4連覇を成し遂げた、メカニックのスペシャリスト達だ。
現在でも各地にて物作りに携わっており、優れた技術力で人々の生活を支えているあやかし達である。
「ゼロも良い機体だったが、そいつを上回る逸品だ。いやはや、人間の技術力は底がないの」
「それもこんな町工場でだよ。大企業が作るならまだ分かるけど……サヨリヒメの加護のおかげかな? 俺もここで働きたかったなぁ」
鬼は感心した様子で腕を組んだ。雪女もクェーサーに興奮を隠せない様子だが。
「でも、勝手にやっていいのかい? ここの社長さんに一言かけた方が」
「後でわらわからこっそりかけておく。あやかしの力を借りると言って、信じてくれるわけがないからの」
「それもそうか。あたしらの手を借りるって事は、手詰まりになってるってわけだろ。だったら任せな、必ずこいつの弱点を克服してやるよ」
「いやー、ロボットの製造に関われるなんて最高だよ。大和以来の興奮だ」
「こいつを新たな日本の誉れ、第二のゼロに仕上げてやろう。ま、今日の所は下見になるがの」
助っ人あやかし達はクェーサーを徹底的に調べ上げ、構造上の欠点を洗い出した。歴戦の武士にとって、巨大ロボの製造は滾る物があるのだろう。四人とも凄く楽しそうだ。
「よし、では後日対策を用意してこよう。楽しみにしておれ」
「うむ、くるしゅうない」
「あ、そうだぁ。ねぇヒメ、最近あやかし達が襲われているの、知ってる?」
「あやかし達が?」
アマビエは頷き、スマホを見せた。
「狸が大量に衰弱、烏……天狗が泡をふいて墜落。それにいくつかの通り魔事件の被害者は、全員あやかしじゃ……」
「ああ、それね。襲われた連中は、全員妖気を抜かれていたんだ。それこそ干乾しになるくらいにね。あたしのダチもやられたよ、夜道を歩いていたらいきなりやられたんだと」
「しかも、全員犯人の顔どころか、事件の記憶がないんだと。変な事件だの」
「幸い、皆命に別状はないんだけどねぇ。ヒメも気を付けた方がいいよぉ」
「うむ……」
何故か、胸騒ぎがした。
妖気を抜かれているから、犯人は間違いなくあやかしだ。でも、これだけの規模の事件を、姿を見せずに行うのは不可能だ。
となれば、記憶を操って証拠を消しているのだろうが……そんな事が出来るのは、サヨリヒメのような神しかいない。
……嫌な予感がする。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】おれたちはサクラ色の青春
藤香いつき
キャラ文芸
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子?
『おれは、この学園で青春する!』
新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。
騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。
桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。
《青春小説×ボカロPカップ8位》
応援ありがとうございました。
迦国あやかし後宮譚
シアノ
キャラ文芸
旧題 「茉莉花の蕾は後宮で花開く 〜妃に選ばれた理由なんて私が一番知りたい〜 」
第13回恋愛大賞編集部賞受賞作
タイトルを変更し、「迦国あやかし後宮譚」として5巻まで刊行。大団円で完結となりました。
コミカライズもアルファノルンコミックスより全3巻発売中です!
妾腹の生まれのため義母から疎まれ、厳しい生活を強いられている莉珠。なんとかこの状況から抜け出したいと考えた彼女は、後宮の宮女になろうと決意をし、家を出る。だが宮女試験の場で、謎の美丈夫から「見つけた」と詰め寄られたかと思ったら、そのまま宮女を飛び越して、皇帝の妃に選ばれてしまった! わけもわからぬままに煌びやかな後宮で暮らすことになった莉珠。しかも後宮には妖たちが驚くほどたくさんいて……!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~
綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。
SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。
ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。
平日は現役女子高生。間宮香絵。
裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。
無愛想なイチ。
頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。
仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。
世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。
元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!
警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~
完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。
~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~
相田 彩太
キャラ文芸
東京の中心より西に外れた八王子、さらにその片隅に一軒のひなびた酒場がある。
「酒処 七王子」
そこは一見、普通の酒場であるが、霊感の鋭い人は気づくであろう。
そこが人ならざるモノがあつまる怪異酒場である事を。
これは酒場を切り盛りする7人の兄弟王子と、そこを訪れる奇怪なあやかしたち、そしてそこの料理人である人間の女の子の物語。
◇◇◇◇
オムニバス形式で送る、”あやかし”とのトラブルを料理で解決する快刀乱麻で七転八倒の物語です。
基本的にコメディ路線、たまにシリアス。
小説家になろうでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる