親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

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26話 あやかし夜行

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 深夜にサヨリヒメは、羽山工業に忍び込んだ。
 クェーサーを見上げ、ため息を吐く。たかがAIのために自分は何をしているのだろうか。
 あの夜に受けた想いは、映画に当てられただけだ。決してクェーサーに、特別な感情など抱いていない。

「やれやれ、わらわも焼きが回ったかのぉ」

 人に恋した事は、何度かある。でもその度にサヨリヒメは諦めた。
 悠久の時を生きる彼女にとって、人間の一生など瞬くほどに短い。いつしか人間に恋しないよう心掛けるようになった。
 でもAIは、人工知能は違う。あやかしと同じように長い時間を生きられる。命に終わりがないから、サヨリヒメといつまでも、添い遂げられるだろう。

「おぉーいヒメ、入るよぉ」

 物思いにふけっていたら、呼んでいたあやかし達がやってきた。
 だいだらぼっちに鬼、雪女、アマビエ。クェーサーを強化するための助っ人だ。

「よく来てくれたのぉ、是非ともおぬしらの知恵を借りたいのじゃ」
「LINE見たよ、このロボットを改良したいんだってねぇ。しかしニュースで見たけど、凄い機体だよねぇ」

 アマビエは感嘆とクェーサーを見上げた。クェーサーと同じ体躯のだいだらぼっちは、ペタペタと機体に触れた。

「ほぉほぉ、なるなる。関節部に弱点を抱えているようだの。摩擦係数が高くて運動性の低下につながっておるのだな」
「流石はでいだらじゃ。伊達に中島飛行機で働いていたわけではないようじゃの」

 二次大戦中、ゼロ戦を製造していた会社である。このだいだらぼっち、人間に扮してゼロ戦の製造に携わっていたのだ。
 それだけでなく、アマビエは鉄道省でデゴイチを設計し、鬼は呉で大和を製造し、雪女はミニ四駆の世界大会4連覇を成し遂げた、メカニックのスペシャリスト達だ。
 現在でも各地にて物作りに携わっており、優れた技術力で人々の生活を支えているあやかし達である。

「ゼロも良い機体だったが、そいつを上回る逸品だ。いやはや、人間の技術力は底がないの」
「それもこんな町工場でだよ。大企業が作るならまだ分かるけど……サヨリヒメの加護のおかげかな? 俺もここで働きたかったなぁ」

 鬼は感心した様子で腕を組んだ。雪女もクェーサーに興奮を隠せない様子だが。

「でも、勝手にやっていいのかい? ここの社長さんに一言かけた方が」
「後でわらわからこっそりかけておく。あやかしの力を借りると言って、信じてくれるわけがないからの」
「それもそうか。あたしらの手を借りるって事は、手詰まりになってるってわけだろ。だったら任せな、必ずこいつの弱点を克服してやるよ」
「いやー、ロボットの製造に関われるなんて最高だよ。大和以来の興奮だ」
「こいつを新たな日本の誉れ、第二のゼロに仕上げてやろう。ま、今日の所は下見になるがの」

 助っ人あやかし達はクェーサーを徹底的に調べ上げ、構造上の欠点を洗い出した。歴戦の武士にとって、巨大ロボの製造は滾る物があるのだろう。四人とも凄く楽しそうだ。

「よし、では後日対策を用意してこよう。楽しみにしておれ」
「うむ、くるしゅうない」
「あ、そうだぁ。ねぇヒメ、最近あやかし達が襲われているの、知ってる?」
「あやかし達が?」

 アマビエは頷き、スマホを見せた。

「狸が大量に衰弱、烏……天狗が泡をふいて墜落。それにいくつかの通り魔事件の被害者は、全員あやかしじゃ……」
「ああ、それね。襲われた連中は、全員妖気を抜かれていたんだ。それこそ干乾しになるくらいにね。あたしのダチもやられたよ、夜道を歩いていたらいきなりやられたんだと」
「しかも、全員犯人の顔どころか、事件の記憶がないんだと。変な事件だの」
「幸い、皆命に別状はないんだけどねぇ。ヒメも気を付けた方がいいよぉ」
「うむ……」

 何故か、胸騒ぎがした。
 妖気を抜かれているから、犯人は間違いなくあやかしだ。でも、これだけの規模の事件を、姿を見せずに行うのは不可能だ。
 となれば、記憶を操って証拠を消しているのだろうが……そんな事が出来るのは、サヨリヒメのような神しかいない。


 ……嫌な予感がする。
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