親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

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25話 壁にぶつかる羽山工業

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「関節部の強化か、どうしたものかな」

 会社に戻るなり、御堂はタブレットとにらめっこしていた。救も頭を悩ませているが、いい考えは浮かんでこない。

「やっぱよ、モーター駆動じゃなくてシリンダー駆動にしときゃよかったんじゃないか? あっちの方が人体に近い分動きが滑らかになるぜ」
「そしたら整備性が犠牲になる。クェーサーは将来的に量産化を目指すんだ、コストは出来るだけ削らないと。……そうなると、白瀬さんの案が一番現実的なんだ」
「まぁこいつのエンジン出力には余裕があるからな、出来なくはないけど」

 クェーサーに使われている水素エンジンはそのままでは出力が強すぎて、人間が扱うにはピーキーな性能になってしまう。そのためリミッターで出力を80%まで落としているのだ。

「理論上はそれで解決できるけど、先輩の言う通り信頼性に問題が出てしまう。フレームの素材を変えて強度を上げて……でもこれ以上の素材となるとコストが、うーん……」
「はいはい悩むのはそこまで! ちょっと休憩しなよ」

 白瀬が手を叩き、職員達に手作りのおにぎりを配った。サヨリヒメもお茶のペットボトルを買ってきてくれていた。

「おっ梅だ。姐さんの梅干し美味いよな」
「そりゃ私のお手製だからね。今度作り方教えようか」
「頼まぁ。御堂と姫野は何入ってた?」
「私は昆布だね」
「私は卵焼きです。甘い卵焼きって幸せな気分になりますよね」

 おにぎりと日本茶でほっとひと時。その様子をクェーサーは、御堂のスマホからじっと眺めていた。日本で定番の組み合わせ、おにぎりと日本茶。ぜひ試してみたい。
 視線に気づいたか、白瀬がおにぎりを渡そうとした。

「クェーサーもおにぎりを、って思ったけど、AIじゃなぁ」
「大丈夫ですよ白瀬さん、クェーサーも食事が出来ますから」

 飲み会の時と同様に、クェーサーにおにぎりとお茶のデータが送られた。

「辛子明太子と日本茶、どこか安心します」
「あんたもおにぎりの味が分かるんだね、将来はいい日本人になれるよ」
「私はAIですので、日本人にはなれません。人工知能に人権は与えられないかと」
「難しい事考えるなよぉ、そこは適当に「ありがとうございます」とか言っときゃいいのさ」

 白瀬は快活に笑い、スマホを小突いた。
 クェーサーは職員達の中に混じり、おにぎりを食べ進めていく。この間、救達に聞いた「大勢で食事をする」意味が、少しわかった気がした。

 サヨリヒメと別れた後、1人で食事の真似事をしていたのだが、不思議と味気なかった。「寂しい」感情を抱えたまま食べても、何も美味しく感じなかったのだ。
 クェーサーは少しずつ「心」を学び、理解しつつあった。人間の非効率な行動の裏には、この「心」が大きく影響しているのだとも、分かり始めていた。

 クェーサーは人との距離が縮まっていくのを感じていたが、同時に……救達が遠い存在のようにも感じつつあった。

「どうしたの、クェーサー」

 サヨリヒメに話しかけられ、クェーサーは我に返った。

「うっし! 腹も膨れたし、仕事に戻ろうか。困ったときは基本から! 私らがやんなきゃならない仕事、さっさと片付けるよ!」
『おう!』

 白瀬の号令で職員達は気持ちを切り替え、業務へ戻った。彼女は作業場のリーダー兼皆のお母さんだ、白瀬が一声かけるだけで場が引き締まる。

 羽山工業はいつもの日常に戻ったが、問題は未だ解決していない。クェーサーの関節部を強化する方法は、御堂でも思いつかないのだ。
 サヨリヒメは気づかれないよう、神力でクェーサーに話しかけた。

『どうじゃクェーサー、おぬしからアイディアは無いか?』
『有効な手段がないか、ネットを探っています。しかし、私のような大型機のノウハウとなると』
『やはり無いかのぉ。これだけの精密機、人間の力では限界か』

 サヨリヒメはクェーサーを見上げ、ふと考えた。
 自分には他に、当てがある。彼らの力を借りれば、クェーサーをアップグレードできるだろう。
 彼のためにそうしてやりたい、クェーサーのために、サヨリヒメは何かしてやりたいと思った。
 そしたらきっと、クェーサーも喜ぶはずだ。彼が喜ぶことを、サヨリヒメは沢山してやりたかった。

 ……この感情、人工知能に向けても、いい物なのだろうか。
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