25 / 57
25話 壁にぶつかる羽山工業
しおりを挟む
「関節部の強化か、どうしたものかな」
会社に戻るなり、御堂はタブレットとにらめっこしていた。救も頭を悩ませているが、いい考えは浮かんでこない。
「やっぱよ、モーター駆動じゃなくてシリンダー駆動にしときゃよかったんじゃないか? あっちの方が人体に近い分動きが滑らかになるぜ」
「そしたら整備性が犠牲になる。クェーサーは将来的に量産化を目指すんだ、コストは出来るだけ削らないと。……そうなると、白瀬さんの案が一番現実的なんだ」
「まぁこいつのエンジン出力には余裕があるからな、出来なくはないけど」
クェーサーに使われている水素エンジンはそのままでは出力が強すぎて、人間が扱うにはピーキーな性能になってしまう。そのためリミッターで出力を80%まで落としているのだ。
「理論上はそれで解決できるけど、先輩の言う通り信頼性に問題が出てしまう。フレームの素材を変えて強度を上げて……でもこれ以上の素材となるとコストが、うーん……」
「はいはい悩むのはそこまで! ちょっと休憩しなよ」
白瀬が手を叩き、職員達に手作りのおにぎりを配った。サヨリヒメもお茶のペットボトルを買ってきてくれていた。
「おっ梅だ。姐さんの梅干し美味いよな」
「そりゃ私のお手製だからね。今度作り方教えようか」
「頼まぁ。御堂と姫野は何入ってた?」
「私は昆布だね」
「私は卵焼きです。甘い卵焼きって幸せな気分になりますよね」
おにぎりと日本茶でほっとひと時。その様子をクェーサーは、御堂のスマホからじっと眺めていた。日本で定番の組み合わせ、おにぎりと日本茶。ぜひ試してみたい。
視線に気づいたか、白瀬がおにぎりを渡そうとした。
「クェーサーもおにぎりを、って思ったけど、AIじゃなぁ」
「大丈夫ですよ白瀬さん、クェーサーも食事が出来ますから」
飲み会の時と同様に、クェーサーにおにぎりとお茶のデータが送られた。
「辛子明太子と日本茶、どこか安心します」
「あんたもおにぎりの味が分かるんだね、将来はいい日本人になれるよ」
「私はAIですので、日本人にはなれません。人工知能に人権は与えられないかと」
「難しい事考えるなよぉ、そこは適当に「ありがとうございます」とか言っときゃいいのさ」
白瀬は快活に笑い、スマホを小突いた。
クェーサーは職員達の中に混じり、おにぎりを食べ進めていく。この間、救達に聞いた「大勢で食事をする」意味が、少しわかった気がした。
サヨリヒメと別れた後、1人で食事の真似事をしていたのだが、不思議と味気なかった。「寂しい」感情を抱えたまま食べても、何も美味しく感じなかったのだ。
クェーサーは少しずつ「心」を学び、理解しつつあった。人間の非効率な行動の裏には、この「心」が大きく影響しているのだとも、分かり始めていた。
クェーサーは人との距離が縮まっていくのを感じていたが、同時に……救達が遠い存在のようにも感じつつあった。
「どうしたの、クェーサー」
サヨリヒメに話しかけられ、クェーサーは我に返った。
「うっし! 腹も膨れたし、仕事に戻ろうか。困ったときは基本から! 私らがやんなきゃならない仕事、さっさと片付けるよ!」
『おう!』
白瀬の号令で職員達は気持ちを切り替え、業務へ戻った。彼女は作業場のリーダー兼皆のお母さんだ、白瀬が一声かけるだけで場が引き締まる。
羽山工業はいつもの日常に戻ったが、問題は未だ解決していない。クェーサーの関節部を強化する方法は、御堂でも思いつかないのだ。
サヨリヒメは気づかれないよう、神力でクェーサーに話しかけた。
『どうじゃクェーサー、おぬしからアイディアは無いか?』
『有効な手段がないか、ネットを探っています。しかし、私のような大型機のノウハウとなると』
『やはり無いかのぉ。これだけの精密機、人間の力では限界か』
サヨリヒメはクェーサーを見上げ、ふと考えた。
自分には他に、当てがある。彼らの力を借りれば、クェーサーをアップグレードできるだろう。
彼のためにそうしてやりたい、クェーサーのために、サヨリヒメは何かしてやりたいと思った。
そしたらきっと、クェーサーも喜ぶはずだ。彼が喜ぶことを、サヨリヒメは沢山してやりたかった。
……この感情、人工知能に向けても、いい物なのだろうか。
会社に戻るなり、御堂はタブレットとにらめっこしていた。救も頭を悩ませているが、いい考えは浮かんでこない。
「やっぱよ、モーター駆動じゃなくてシリンダー駆動にしときゃよかったんじゃないか? あっちの方が人体に近い分動きが滑らかになるぜ」
「そしたら整備性が犠牲になる。クェーサーは将来的に量産化を目指すんだ、コストは出来るだけ削らないと。……そうなると、白瀬さんの案が一番現実的なんだ」
「まぁこいつのエンジン出力には余裕があるからな、出来なくはないけど」
クェーサーに使われている水素エンジンはそのままでは出力が強すぎて、人間が扱うにはピーキーな性能になってしまう。そのためリミッターで出力を80%まで落としているのだ。
「理論上はそれで解決できるけど、先輩の言う通り信頼性に問題が出てしまう。フレームの素材を変えて強度を上げて……でもこれ以上の素材となるとコストが、うーん……」
「はいはい悩むのはそこまで! ちょっと休憩しなよ」
白瀬が手を叩き、職員達に手作りのおにぎりを配った。サヨリヒメもお茶のペットボトルを買ってきてくれていた。
「おっ梅だ。姐さんの梅干し美味いよな」
「そりゃ私のお手製だからね。今度作り方教えようか」
「頼まぁ。御堂と姫野は何入ってた?」
「私は昆布だね」
「私は卵焼きです。甘い卵焼きって幸せな気分になりますよね」
おにぎりと日本茶でほっとひと時。その様子をクェーサーは、御堂のスマホからじっと眺めていた。日本で定番の組み合わせ、おにぎりと日本茶。ぜひ試してみたい。
視線に気づいたか、白瀬がおにぎりを渡そうとした。
「クェーサーもおにぎりを、って思ったけど、AIじゃなぁ」
「大丈夫ですよ白瀬さん、クェーサーも食事が出来ますから」
飲み会の時と同様に、クェーサーにおにぎりとお茶のデータが送られた。
「辛子明太子と日本茶、どこか安心します」
「あんたもおにぎりの味が分かるんだね、将来はいい日本人になれるよ」
「私はAIですので、日本人にはなれません。人工知能に人権は与えられないかと」
「難しい事考えるなよぉ、そこは適当に「ありがとうございます」とか言っときゃいいのさ」
白瀬は快活に笑い、スマホを小突いた。
クェーサーは職員達の中に混じり、おにぎりを食べ進めていく。この間、救達に聞いた「大勢で食事をする」意味が、少しわかった気がした。
サヨリヒメと別れた後、1人で食事の真似事をしていたのだが、不思議と味気なかった。「寂しい」感情を抱えたまま食べても、何も美味しく感じなかったのだ。
クェーサーは少しずつ「心」を学び、理解しつつあった。人間の非効率な行動の裏には、この「心」が大きく影響しているのだとも、分かり始めていた。
クェーサーは人との距離が縮まっていくのを感じていたが、同時に……救達が遠い存在のようにも感じつつあった。
「どうしたの、クェーサー」
サヨリヒメに話しかけられ、クェーサーは我に返った。
「うっし! 腹も膨れたし、仕事に戻ろうか。困ったときは基本から! 私らがやんなきゃならない仕事、さっさと片付けるよ!」
『おう!』
白瀬の号令で職員達は気持ちを切り替え、業務へ戻った。彼女は作業場のリーダー兼皆のお母さんだ、白瀬が一声かけるだけで場が引き締まる。
羽山工業はいつもの日常に戻ったが、問題は未だ解決していない。クェーサーの関節部を強化する方法は、御堂でも思いつかないのだ。
サヨリヒメは気づかれないよう、神力でクェーサーに話しかけた。
『どうじゃクェーサー、おぬしからアイディアは無いか?』
『有効な手段がないか、ネットを探っています。しかし、私のような大型機のノウハウとなると』
『やはり無いかのぉ。これだけの精密機、人間の力では限界か』
サヨリヒメはクェーサーを見上げ、ふと考えた。
自分には他に、当てがある。彼らの力を借りれば、クェーサーをアップグレードできるだろう。
彼のためにそうしてやりたい、クェーサーのために、サヨリヒメは何かしてやりたいと思った。
そしたらきっと、クェーサーも喜ぶはずだ。彼が喜ぶことを、サヨリヒメは沢山してやりたかった。
……この感情、人工知能に向けても、いい物なのだろうか。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ワケあり異類婚御夫婦様、憩いの住まいはこちらでございます。
蒼真まこ
キャラ文芸
異類婚夫婦の入居を歓迎する『みなも荘』。姿かたちは違えども、そこには確かに愛がある─。
幼い頃に両親を亡くした秋山楓は、孤独感を抱えながら必死に生きてきた。幼い頃の記憶を頼りに懐かしい湖へ向かうと、銀色の髪をした不思議な男性と出会う。それは楓にとって生涯の伴侶となる男性だった。しかし彼はただの人ではなく……。
困難を乗り越えて夫婦となったふたりは、『ワケあり異類婚夫婦』の住む、みなも荘を管理していくことになる。 様々な異類婚夫婦たちが紡ぐ、ほっこり日常、夫婦愛、家族の物語。
第一章は物語の始まり。楓と信の出会いと再会。 シリアスな部分も含みます。 第二章より様々な異類婚夫婦たちが登場します。 場面によっては、シリアスで切ない展開も含みます。 よろしくお願い致します。
☆旧題『いるいこん! ~あやかし長屋夫婦ものがたり~』
を改稿改題した作品となります。
放置したままとなっておりましたので、タイトルや表紙などを変更させていただきました。
話の流れなどが少し変わっていますが、設定などに大きな変更はありませんのでよろしくお願い致します。
☆すてきな表紙絵はhake様に描いていただきました。
迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜
紫音
キャラ文芸
やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。
*あらすじ*
人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。
「“ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」
どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、“猫神様”の居場所はわからない。
迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。
そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。
彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~
綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。
SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。
ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。
平日は現役女子高生。間宮香絵。
裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。
無愛想なイチ。
頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。
仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。
世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。
元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!
警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~
完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。
~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる