親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
24 / 57

24話 クェーサーの伸びしろ

しおりを挟む
 河川敷に多くの人が詰めかけ、スマホを向けていた。
 彼らの視線の先には、6メートルの鉄の巨人、クェーサーが走る姿が見られた。

「うっし、次はジャンプだ!」
『了解』

 クェーサーは救の操作に合わせ、自身の動きをプログラムする。単純な垂直ジャンプから、走り幅跳び等、様々なジャンプを試していた。
 クェーサーの駆動系がほぼほぼ完成したので、荒川付近にて稼働試験を行っているのだ。

「クェーサーは問題ないですね。きちんと状況に応じてプログラムを変えてます」

 AIの状態も御堂が逐一モニタリングし、サポートしていた。
 人間のような動きを見せるロボットに人々は歓喜の声を上げていた。クェーサーの姿はSNSで拡散され、テレビ局からの取材も受けて、全国に広まっていく。

「ふふ、このために羽山工業のロゴをクェーサーの胸部に付けたんだ。これは大きな宣伝になるぞ」
「専務、強かですね」

 犬養は、見た目は優男だが策士である。
 サヨリヒメは苦笑しつつ、クェーサーを見守った。
 今度はバックパックを装備しての稼働実験だ。クェーサーはあらゆるバックパックを装備して、あらゆる任務に対応できる汎用機だ。
 工具を背負えば悪路の応急処置が、消火剤を搭載すれば消防車が入らない場所の火事に、キャリアを背負えばあらゆる場所への物資の運搬が、更にはキャンプパックと言う、簡易的な医療設備や仮設住居を組み立てられるパックも存在している。

「二足歩行だからこそ出来る装備ですね」
「ああ、クェーサーが一台でも居れば、どんな状況も打破できるようになる。多くの人の命を救い出すための、大きな光になるはずだよ」

 犬養の大きな志は、サヨリヒメの大好きな美点だ。

「よしクェーサー、一旦休憩だ。降りるぜ」
『了解』

 稼働実験を中断し、救が戻ってきた。職員達が集まり、会議が始まる。

「どうかね救君」
「大分形にはなってると思うんすけど、動きが硬いっすね。こっちの操縦に対しほんの少しずれると言うか、ラグがあるんすよ。そのせいで次の動きにつなぐのが、ちょっと遅れるっす」
「あんたの反射神経が良すぎるからじゃないかい?」
「アメコミヒーローみたいでかっこいいっすね」

 救は無邪気に笑った。

「クェーサーはどうだい? 自分の体でおかしな所はあるかな? ラグがあるなら、どこかしら問題が出ているはずだけど」
『電装系等に問題は見られません。可動部の異常なし、機体の状態は万全です』
「ふむ、僕が乗ってみよう」

 犬養が搭乗し、救と同様の操作をしてみた。救よりも操縦技能が高く、スムーズに動かしているように見えるが、どこかぎこちなさがうかがえる。
 一通り試した彼は、顎に手を当てた。

「いやぁ~、こんなに取材が来るとは思わなかったよぉ。ごめんね遅くなって」
「社長、丁度いい所に。クェーサーの課題が見えましたよ」

 羽山も交えての会議にて、犬養が出した結論はシンプルだった。

「関節部の可動摩擦面への負荷が強いんだ。これをもっと抑えないと運動性能の低下は勿論、故障もしやすくなってしまうね」
「摩擦をもっと減らせって事かい? 中々難しい注文だね、出力を上げて無理やり早く動けるようにしちゃおうか」
「姐さんそいつは乱暴すぎるぜ、クェーサーが壊れちまう。ただでさえこいつ整備しにくいんだからさ」
「先輩の言う通りです。ただ、羽山の現在の技術力ではこれ以上となると……」

 技術者たちは頭を悩ませ、クェーサーを見上げた。
 AIのクェーサーにも、現状を打破する手立てが思い浮かばなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熊野古道 神様の幻茶屋~伏拝王子が贈る寄辺桜茶~

ミラ
キャラ文芸
社会人二年目の由真はクレーマーに耐え切れず会社を逃げ出した。 「困った時は熊野へ行け」という姉の導きの元、熊野古道を歩く由真は知らぬ間に「神様茶屋」に招かれていた。 茶屋の主人、伏拝王子は寄る辺ない人間や八百万の神を涙させる特別な茶を淹れるという。 彼が茶を振舞うと、由真に異変が── 優しい神様が集う聖地、熊野の茶物語。

後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ
キャラ文芸
とある役人の娘は、大変見目麗しかった。 けれど美しい娘は自分の見た目が嫌で、見た目を褒めそやす人たちは嫌いだった。 そんな彼女が好きになったのは、彼女の容姿について何も言わない人。 密かに想いを寄せ続けていたけれど、想い人に好きと伝えることができず、その内にその人は宦官となって後宮に行ってしまった。 想いを告げられなかった美しい娘は、せめてその人のそばにいたいと、皇帝の妃となって後宮に入ることを決意する。 「そなたは後宮一の美姫だな」 後宮に入ると、皇帝にそう言われた。 皇帝という人物も、結局は見た目か……どんなに見た目を褒められようとも、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

冥官小野君のお手伝い ~ 現代から鎌倉時代まで、皆が天国へ行けるようサポートします ~

夢見楽土
キャラ文芸
 大学生の小野君は、道路に飛び出した子どもを助けようとして命を落とし、あの世で閻魔様のお手伝いをすることに。  そのお手伝いとは、様々な時代を生きた人々が無事に天国へ行けるよう、生前の幸福度を高めるというもの。  果たして小野君は、無事に皆の生前幸福度を高めることが出来るのでしょうか。  拙いお話ではありますが、どうか、小野君の頑張りを優しい目で見守ってやってください。 「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...