22 / 57
22話 恋と愛の違いって?
しおりを挟む
クェーサーは羽山のパソコンへ移動し、まだ手を付けていないカップを見やった。
「飲まないのですか」
「いやぁ、猫舌でね。ふーふーしても中々飲めないんだよ」
羽山は苦笑した。猫をも殺しそうな外見に反し、中身は可愛いおじさんだ。
「白瀬と専務、社長は既婚者ですね」
「うんそうだよ、妻を愛してるよ。毎日私のために弁当を作ってくれて、感謝してもしきれないくらいだ。今度温泉にでも連れて行ってあげようかなぁ」
羽山工業は夫婦仲の良い者が多い。サヨリヒメ曰く、これも自分の力のおかげなんだとか。
羽山もかなりの美人な女性と、母の血を100%受け継いだ娘2人に囲まれて温かい家庭を築いている。……つくづく、父親に似なくてよかったものだ。
弟も愛し、家族も愛し、社員も愛している。羽山ならば、クェーサーの疑問に答えられるかもしれない。
「社長、恋とはなんですか」
「おや、クェーサーも誰かを好きになったのかい?」
「分かりません。いえ、正確に言えば……私はまだ、「誰かを好きになる」と言うのを、分かっていないんです。その感情を、「愛」や「恋」と呼ぶのは調べました。しかし違いが分かりません。「愛」は多岐にわたります、しかし「恋」は分かりません。「愛」よりもずっと曖昧で、理解が出来ないのです」
「そうか。うーん、そうだね……恋か。中々難しい課題に取り組んでいるんだね」
羽山は目を閉じ、少し考えると、
「色んな意見があるだろうけど、「恋」は「愛」より特別な人に向ける物だと、私は思っているよ」
「特別な人とは」
「自分の全てを賭けてでも添い遂げたい。そう思える人だよ。私も専務も、白瀬君も。そんな人と出会えたから、今があるんだ」
「自分の全部を賭けて……それが「恋」」
「そう。たった一人だけに向ける、大切な感情だ。クェーサーが「恋」の疑問をぶつけるって事は、そんな人に出会えたって事なんだね」
「私が「恋」を、あり得ません。私はAIです。特定の誰かのみに好意を向けるのは、仕様上間違っています」
「工業製品ならばね、でも君は違う。私達は君に、人に寄り添う心を持ってほしい。だからむしろ、誰かを好きになってほしいんだ」
「……私に、特定の誰かを……」
サヨリヒメの記憶データを呼び起こす。彼女とのひと時を振り返る度、データがバグを起こしたようになる。
……これが、恋。AIの自分が、あやかしに抱いてしまった感情なのか。
「その感情で、困る事があると思う。そんな時は迷わず、私達に相談してごらん。皆何かしら、壁を乗り越えて今を生きている人達だ。クェーサーの力になってくれるよ、絶対ね」
「……わかりました」
羽山の手前、そう答えるしかなかったが……クェーサーは機械だ。誰かに「恋」するのは、良い事なのだろうか。
自分は人でもなければ、あやかしでもない。同じAIの仲間だって、居ない。世界中のどこにもカテゴライズされていない自分の力になってくれる者は、本当に居るのだろうか。
クェーサーは胸が空っぽになるような、むなしい気持ちを感じていた。
「飲まないのですか」
「いやぁ、猫舌でね。ふーふーしても中々飲めないんだよ」
羽山は苦笑した。猫をも殺しそうな外見に反し、中身は可愛いおじさんだ。
「白瀬と専務、社長は既婚者ですね」
「うんそうだよ、妻を愛してるよ。毎日私のために弁当を作ってくれて、感謝してもしきれないくらいだ。今度温泉にでも連れて行ってあげようかなぁ」
羽山工業は夫婦仲の良い者が多い。サヨリヒメ曰く、これも自分の力のおかげなんだとか。
羽山もかなりの美人な女性と、母の血を100%受け継いだ娘2人に囲まれて温かい家庭を築いている。……つくづく、父親に似なくてよかったものだ。
弟も愛し、家族も愛し、社員も愛している。羽山ならば、クェーサーの疑問に答えられるかもしれない。
「社長、恋とはなんですか」
「おや、クェーサーも誰かを好きになったのかい?」
「分かりません。いえ、正確に言えば……私はまだ、「誰かを好きになる」と言うのを、分かっていないんです。その感情を、「愛」や「恋」と呼ぶのは調べました。しかし違いが分かりません。「愛」は多岐にわたります、しかし「恋」は分かりません。「愛」よりもずっと曖昧で、理解が出来ないのです」
「そうか。うーん、そうだね……恋か。中々難しい課題に取り組んでいるんだね」
羽山は目を閉じ、少し考えると、
「色んな意見があるだろうけど、「恋」は「愛」より特別な人に向ける物だと、私は思っているよ」
「特別な人とは」
「自分の全てを賭けてでも添い遂げたい。そう思える人だよ。私も専務も、白瀬君も。そんな人と出会えたから、今があるんだ」
「自分の全部を賭けて……それが「恋」」
「そう。たった一人だけに向ける、大切な感情だ。クェーサーが「恋」の疑問をぶつけるって事は、そんな人に出会えたって事なんだね」
「私が「恋」を、あり得ません。私はAIです。特定の誰かのみに好意を向けるのは、仕様上間違っています」
「工業製品ならばね、でも君は違う。私達は君に、人に寄り添う心を持ってほしい。だからむしろ、誰かを好きになってほしいんだ」
「……私に、特定の誰かを……」
サヨリヒメの記憶データを呼び起こす。彼女とのひと時を振り返る度、データがバグを起こしたようになる。
……これが、恋。AIの自分が、あやかしに抱いてしまった感情なのか。
「その感情で、困る事があると思う。そんな時は迷わず、私達に相談してごらん。皆何かしら、壁を乗り越えて今を生きている人達だ。クェーサーの力になってくれるよ、絶対ね」
「……わかりました」
羽山の手前、そう答えるしかなかったが……クェーサーは機械だ。誰かに「恋」するのは、良い事なのだろうか。
自分は人でもなければ、あやかしでもない。同じAIの仲間だって、居ない。世界中のどこにもカテゴライズされていない自分の力になってくれる者は、本当に居るのだろうか。
クェーサーは胸が空っぽになるような、むなしい気持ちを感じていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
あやかし酒場と七人の王子たち ~珠子とあやかしグルメ百物語~
相田 彩太
キャラ文芸
東京の中心より西に外れた八王子、さらにその片隅に一軒のひなびた酒場がある。
「酒処 七王子」
そこは一見、普通の酒場であるが、霊感の鋭い人は気づくであろう。
そこが人ならざるモノがあつまる怪異酒場である事を。
これは酒場を切り盛りする7人の兄弟王子と、そこを訪れる奇怪なあやかしたち、そしてそこの料理人である人間の女の子の物語。
◇◇◇◇
オムニバス形式で送る、”あやかし”とのトラブルを料理で解決する快刀乱麻で七転八倒の物語です。
基本的にコメディ路線、たまにシリアス。
小説家になろうでも掲載しています。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
熊野古道 神様の幻茶屋~伏拝王子が贈る寄辺桜茶~
ミラ
キャラ文芸
社会人二年目の由真はクレーマーに耐え切れず会社を逃げ出した。
「困った時は熊野へ行け」という姉の導きの元、熊野古道を歩く由真は知らぬ間に「神様茶屋」に招かれていた。
茶屋の主人、伏拝王子は寄る辺ない人間や八百万の神を涙させる特別な茶を淹れるという。
彼が茶を振舞うと、由真に異変が──
優しい神様が集う聖地、熊野の茶物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~
綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。
SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。
ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。
平日は現役女子高生。間宮香絵。
裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。
無愛想なイチ。
頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。
仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。
世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。
元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!
警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~
完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。
~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる