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16話 世界の姿
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仁王市は東京の中でも田舎だが、仁王駅周辺は栄えている。
駅直結型百貨店を中心に、居酒屋やカラオケ、ホテルと言った施設が軒を連ねている。遊ぶのに不自由しない街だ。
サヨリヒメはジーンズにポロシャツのラフな姿で、待ち合わせ場所に到着した。
「さーて、羽を伸ばすとしようかのぉ、クェーサー」
サヨリヒメは伸びをしながら、胸ポケットのスマホに話しかけた。
彼女のスマホに入っているクェーサーは、街を見渡していた。
「あやかしの世界を見せると言いましたが、どこに居るのですか」
「すぐに見せる。おぬしにわらわの神力を与えれば分かるぞ」
サヨリヒメがスマホを突く。するとクェーサーの世界が一新した。
街を歩く人々の実に半数が、異形の姿に変わったのだ。スーツ姿の河童が人間の部下を叱っていたり、八尺の保育士が子供達と散歩をしていたり、一反木綿がトラックを運転していたり……数多の妖怪、否、あやかし達が人間と同じように、人間と共に生活しているのだ。
「電線のカラスが天狗になりました」
「烏天狗じゃからの」
「窓掃除の人間が、巨大な舌で窓を舐めていますが」
「あかなめじゃ。水垢も垢じゃろ?」
「虎やサルの、キメラのような生き物が百貨店で働いていますが」
「鵺じゃ。源頼政にこっぴどくやられたが、本来は寂しがりでの。人の多い場所で働いておる」
想像以上の世界が広がっていた。こんな現実、どれだけ調べても見つからなかった。
「本来の姿では、人間社会で暮らしていけんからの。普段は妖力を用いて姿を人や別の動物に見せておるのじゃ」
「そうまでしてなぜ、人と生活を」
「何度も言うが、人も自然の一つじゃ。わらわ達あやかしはいわば、意思を持った自然環境。ならば時代時代の環境に適応し、姿や生活を変える。常識じゃろ?」
人間社会の常識をようやく理解したクェーサーには、あまりにも逸した常識である。
でもこれが本来の、世界の姿なのだ。人とあやかしは、間違いなく共存している。
クェーサーが驚いていると、救と御堂がやってきた。
「おっ、早いな姫野。悪いな、遅刻しちまった」
「先輩が遅いんだ。全く、私が迎えに行かなければずっと寝ていただろう」
「朝5時に人の家押しかけて来て何言ってんだ。第一遅れたのは御堂がカフェでパンケーキ3皿も食ってたからだろ、俺何度も止めたぞ」
「早起きしたからお腹空いていたんだ」
相変わらず言い争いをしている二人だが、クェーサーはそれどころではなかった。
二人の影が異形の姿に変わっている。姿こそ人間なのに、足元の影は……救はおぞましい老婆の、御堂は頭が大きい老人のそれになっていたからだ。
「これは、一体……!?」
「どうしたんだいクェーサー、私達に何かついているかい?」
「……なんでもありません」
言っても信じないだろう。昨日まで、普通の影だったはずなのに……。
驚きっぱなしのクェーサーをよそに、サヨリヒメは手を叩いて二人に近づいた。
「今日は私のためにありがとうございます! 御堂さんもすいません、クェーサーを貸してくれと我儘を言ってしまって」
「全く構わないよ、私としても、クェーサーに新しい刺激を与えたかった所だしね」
「んな堅苦しい挨拶は抜きにして、行こうぜ。カラオケ予約してるんだろ?」
サヨリヒメを先頭に、雑居ビルへ向かっていく。あやかしと人が交差する街を眺めつつ、クェーサーは尋ねた。
「あの二人は、何者ですか?」
「ハーフじゃよ、人とあやかしのな」
「人とあやかしの間に子供が出来るのですか」
「当然じゃ、共存しているのじゃからの」
「身体的特徴が見受けられません」
「まぁ基本、人間の肉体が優先されるからの。じゃが能力は別じゃ、救の人間離れした身体能力は山姥の、御堂の異質な知能はぬらりひょんの力を引き継いでいるからじゃ。二人は特にあやかしの力が強く発現した者でのぉ、たまに居るのじゃよそういう人間が。トーマス・アルヴァ・エジソンやハンス・ウルリッヒ・ルーデルとかが代表例じゃ」
「海外にもあやかしが居るのですか」
「そりゃ居るじゃろ、ヴァルキリーとかグレムリンとかのぉ」
「偉人達はあやかしの血を引いているのですか」
「殆どな」
クェーサーは衝撃を受けた。人類史に大きな影響を与えているなんて、しかも世界規模で。
あやかしは切っても切れない存在として、世界の水面下に存在しているのだ。
駅直結型百貨店を中心に、居酒屋やカラオケ、ホテルと言った施設が軒を連ねている。遊ぶのに不自由しない街だ。
サヨリヒメはジーンズにポロシャツのラフな姿で、待ち合わせ場所に到着した。
「さーて、羽を伸ばすとしようかのぉ、クェーサー」
サヨリヒメは伸びをしながら、胸ポケットのスマホに話しかけた。
彼女のスマホに入っているクェーサーは、街を見渡していた。
「あやかしの世界を見せると言いましたが、どこに居るのですか」
「すぐに見せる。おぬしにわらわの神力を与えれば分かるぞ」
サヨリヒメがスマホを突く。するとクェーサーの世界が一新した。
街を歩く人々の実に半数が、異形の姿に変わったのだ。スーツ姿の河童が人間の部下を叱っていたり、八尺の保育士が子供達と散歩をしていたり、一反木綿がトラックを運転していたり……数多の妖怪、否、あやかし達が人間と同じように、人間と共に生活しているのだ。
「電線のカラスが天狗になりました」
「烏天狗じゃからの」
「窓掃除の人間が、巨大な舌で窓を舐めていますが」
「あかなめじゃ。水垢も垢じゃろ?」
「虎やサルの、キメラのような生き物が百貨店で働いていますが」
「鵺じゃ。源頼政にこっぴどくやられたが、本来は寂しがりでの。人の多い場所で働いておる」
想像以上の世界が広がっていた。こんな現実、どれだけ調べても見つからなかった。
「本来の姿では、人間社会で暮らしていけんからの。普段は妖力を用いて姿を人や別の動物に見せておるのじゃ」
「そうまでしてなぜ、人と生活を」
「何度も言うが、人も自然の一つじゃ。わらわ達あやかしはいわば、意思を持った自然環境。ならば時代時代の環境に適応し、姿や生活を変える。常識じゃろ?」
人間社会の常識をようやく理解したクェーサーには、あまりにも逸した常識である。
でもこれが本来の、世界の姿なのだ。人とあやかしは、間違いなく共存している。
クェーサーが驚いていると、救と御堂がやってきた。
「おっ、早いな姫野。悪いな、遅刻しちまった」
「先輩が遅いんだ。全く、私が迎えに行かなければずっと寝ていただろう」
「朝5時に人の家押しかけて来て何言ってんだ。第一遅れたのは御堂がカフェでパンケーキ3皿も食ってたからだろ、俺何度も止めたぞ」
「早起きしたからお腹空いていたんだ」
相変わらず言い争いをしている二人だが、クェーサーはそれどころではなかった。
二人の影が異形の姿に変わっている。姿こそ人間なのに、足元の影は……救はおぞましい老婆の、御堂は頭が大きい老人のそれになっていたからだ。
「これは、一体……!?」
「どうしたんだいクェーサー、私達に何かついているかい?」
「……なんでもありません」
言っても信じないだろう。昨日まで、普通の影だったはずなのに……。
驚きっぱなしのクェーサーをよそに、サヨリヒメは手を叩いて二人に近づいた。
「今日は私のためにありがとうございます! 御堂さんもすいません、クェーサーを貸してくれと我儘を言ってしまって」
「全く構わないよ、私としても、クェーサーに新しい刺激を与えたかった所だしね」
「んな堅苦しい挨拶は抜きにして、行こうぜ。カラオケ予約してるんだろ?」
サヨリヒメを先頭に、雑居ビルへ向かっていく。あやかしと人が交差する街を眺めつつ、クェーサーは尋ねた。
「あの二人は、何者ですか?」
「ハーフじゃよ、人とあやかしのな」
「人とあやかしの間に子供が出来るのですか」
「当然じゃ、共存しているのじゃからの」
「身体的特徴が見受けられません」
「まぁ基本、人間の肉体が優先されるからの。じゃが能力は別じゃ、救の人間離れした身体能力は山姥の、御堂の異質な知能はぬらりひょんの力を引き継いでいるからじゃ。二人は特にあやかしの力が強く発現した者でのぉ、たまに居るのじゃよそういう人間が。トーマス・アルヴァ・エジソンやハンス・ウルリッヒ・ルーデルとかが代表例じゃ」
「海外にもあやかしが居るのですか」
「そりゃ居るじゃろ、ヴァルキリーとかグレムリンとかのぉ」
「偉人達はあやかしの血を引いているのですか」
「殆どな」
クェーサーは衝撃を受けた。人類史に大きな影響を与えているなんて、しかも世界規模で。
あやかしは切っても切れない存在として、世界の水面下に存在しているのだ。
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