親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
10 / 57

10話 ロボットにとっては小さな一歩だが、人類には大きな一歩である

しおりを挟む
 その日は朝から、空気がひりついていた。
 朝礼の後、全職員がロボットの格納庫へ集まっている。皆緊張の面持ちでクェーサーのボディを見上げ、祈るように手を握りしめている。

「では救君、よろしく頼むよ」
「了解っす」

 羽山からヘルメットを受け取り、救は敬礼した。社員の中で、救は最も丈夫な体つきをしている。そのため満場一致でロボットのパイロットに任命されているのだ。
 コックピットに乗り込み、一つ一つ指さし確認しながら、シートベルトを締めていく。クェーサーはその様子を、コンソール越しに眺めていた。

「よろしく頼むぜクェーサー、お前の体なんだ、動くかどうかお前にかかってるからよ」
『わかりました』

 今日はロボットの稼働実験である。製造から一年、いよいよ試験の段階へ突入したのだ。
 このロボットは歩くだけでなく、走ったり、ジャンプしたり、道具を使って作業したりと、6メートル級のボディで人体と同じ動きを再現するのを目的としている。
 そんな繊細な稼働を行うためには、AIによるリアルタイム制御が不可欠になる。常に現場を把握し、適切な動作プログラムをアップデートするのが、クェーサーの役目だ。

『有人機にする意味が分かりません。安全性を考慮するならば無人機にするべきです』
「理屈じゃないんだよ、羽山工業の社訓は「ロマンを遊びつくせ」だ。人間遊び心が無くなったらおしまいなのさ」
「外から私もサポートするからさ、大船に乗ったつもりでいてくれよ先輩、クェーサー」

 御堂がパソコンの前に陣取った。サヨリヒメは息を呑み、

「大丈夫じゃ、わらわが居る。神の加護があるおぬしらに、不可能などない……!」

 皆が、クェーサーの成功を祈っていた。
 ハッチを閉じ、モニターが起動した。スロットルを握り、救は目を閉じた。
 小さな声で、「行ける、絶対に」と、何度も言い聞かせていた。クェーサーは自身の体と繋がり、サポート体制に移った。

「救命、クェーサー! 行きます!」

 救がフットペダルを踏みこんだ瞬間、クェーサーがずしんと一歩、前に進んだ。
 続けて二歩、三歩。着実にロボットが歩んでいく。社員たちは歓喜し、爆発のような歓声が沸き起こった。

「よっしゃあああああああーっ!」

 救も両腕を突き上げ、声を張り上げる。あまりにうるさくてクェーサーはバグりそうになった。
 と、彼の頬に一筋の雫が零れた。

『なぜ泣いているのですか。成功したのであれば喜ぶべきでは』
「喜ぶ時にも涙は流れるもんなのさ……へへ、やったぜチクショウ……!」
『なぜ嬉しい時に涙が流れるのですか』
「心が震えるんだよ、物凄く辛い思いをして、苦労をして、もうだめだーって何度も思って……そんなのが全部報われた時に、心が物凄く震えるんだ。そんな時にさ、涙が勝手に零れちまうんだ」
『心が震えると涙が出るのですか』

 そもそも、震えるような物質がないはずなのだが。
 体のどこが震えるんだろう、頭なのか、それとも胸なのか。クェーサーは自分の体に触れてみた。内臓がないから分からないけど。
 そもそも、AIのクェーサーには涙を流せなかった。

「こいつは小さな一歩だが、どでかい前進だ! よくやったぜクェーサー!」

 ハイタッチのつもりなのだろうか、救はコンソールをばしりと叩いた。
 救は羽山工業の中でも、最も熱い心を持っている。その熱に当てられたのか、クェーサーは引っ張られるような何かを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛パパは勇者!〜悪役令嬢の私のパパが勇者だった件〜

ハルン
恋愛
最後の記憶は、消毒液の匂いと白い部屋と機械音。 月宮雫(20)は、長い闘病生活の末に死亡。 『来世があるなら何にも負けない強い身体の子供になりたい』 そう思ったお陰なのか、私は生まれ変わった。 剣と魔法の世界にティア=ムーンライドして朧げな記憶を持ちながら。 でも、相変わらずの病弱体質だった。 しかも父親は、強い身体を持つ勇者。 「確かに『強い身体の子供になりたい』。そう願ったけど、意味が全然ちがーうっ!!」 これは、とても可哀想な私の物語だ。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ
キャラ文芸
とある役人の娘は、大変見目麗しかった。 けれど美しい娘は自分の見た目が嫌で、見た目を褒めそやす人たちは嫌いだった。 そんな彼女が好きになったのは、彼女の容姿について何も言わない人。 密かに想いを寄せ続けていたけれど、想い人に好きと伝えることができず、その内にその人は宦官となって後宮に行ってしまった。 想いを告げられなかった美しい娘は、せめてその人のそばにいたいと、皇帝の妃となって後宮に入ることを決意する。 「そなたは後宮一の美姫だな」 後宮に入ると、皇帝にそう言われた。 皇帝という人物も、結局は見た目か……どんなに見た目を褒められようとも、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない。

冥官小野君のお手伝い ~ 現代から鎌倉時代まで、皆が天国へ行けるようサポートします ~

夢見楽土
キャラ文芸
 大学生の小野君は、道路に飛び出した子どもを助けようとして命を落とし、あの世で閻魔様のお手伝いをすることに。  そのお手伝いとは、様々な時代を生きた人々が無事に天国へ行けるよう、生前の幸福度を高めるというもの。  果たして小野君は、無事に皆の生前幸福度を高めることが出来るのでしょうか。  拙いお話ではありますが、どうか、小野君の頑張りを優しい目で見守ってやってください。 「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢
キャラ文芸
友達と出かけた渋谷のスクランブル交差点で運悪く通り魔事件に遭遇したあたしは、何というか、止むに止まれず犯人を投げ飛ばしちゃった。  SNSやらニュースなんかに投稿されたその動画が元で、何やら過去の因縁が蘇る。  ちょっとっ! 人に怨みを買うような記憶は……ないとは言わないけど……。 平日は現役女子高生。間宮香絵。  裏の顔は警視庁総監付き「何でも屋」。  無愛想なイチ。  頭は良いけど、ちょっと……。なジュニア。  仲間思いなのに報われないカイリ(厨二ぎみ)。  世話のやけるメンバーに悩みの絶えないリカコ。  元気でタチの悪いこの連中は、恋に仕事に学業に。毎日バタバタ騒がしい!  警視庁の特別な事情1~JKカエの場合~ 完結済みで、キャラ文芸大賞にエントリー中です。 ~JKカエの場合~共々、ぜひ投票よろしくお願いします。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...