親AIなるあやかし様~神様が人工知能に恋するのは駄目でしょうか?~

歩く、歩く。

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4話 命を救う男

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 羽山工業の仕事は朝礼から始まる。本日の予定とノルマを示した後、サヨリヒメの神棚に向けて一礼してから業務開始だ。
 救達制作チームは工場へ、御堂達事務チームはオフィスにてそれぞれの仕事を始める。今回クェーサーは救のスマホに入り、工場にて人間観察をしていた。
 救達は黙々と部品を造っている。製造速度は非常に早く、2時にはノルマを達成しそうな勢いだ。
 他の工場を調べてみるが、ここの稼働速度は常軌を逸している。人間業ではまずなしえない程の効率だ。
 使用機材が優れていたりとか、特別な要因はない。どうしてこんなにも効率よく仕事が出来るんだろう。

『それもわらわが居るからじゃよ』

 救の隣に件の女性が現れ、しーっと口に指を当てた。
 クェーサーは救に教えようとして、止めた。どうも彼女はクェーサー以外には見えないようなのだ。

「救! そっちの進捗は?」
「問題なしだぜ姐さん。むしろ予定より早く終わりそうだ」

 救は汗を拭きつつ、白瀬綾香にそう答えた。
 白瀬は救と同じ制作チームの女性だ。茶色に染めた髪をアップに纏め、筋肉質な体つきが印象的だ。
 男よりも男らしい女性だが、人間の世界ではそうした発言は性差別に当たる。黙っていた方がいいだろう。

『おぬしは成長が早いのぉ』

 女性はクェーサーに微笑むと消えてしまった。

「んじゃ、ちょっと早めにアレを造れそうだね。つかあんた、ツナギほつれてるよ。繕ってやるから後で貸しな」
「うぃっす! お世話になるっす!」

 救は敬礼し、白瀬も投げキッスを返した。社員間の仲が非常に良くて、円滑に仕事が出来る環境だ。
 作業は30分も早く終わり、職員達は気合を入れるように手を叩いた。工場の奥にある、体育館のような作業場へ集まっていく。

「そういやクェーサーにはまだ見せてなかったな、将来のお前の体だ、しっかり覚えておけよ」
「私の体とは」
「言葉の通りさ、見ろ!」

 救が見せたのは、全長6メートルもある、直立型二足歩行ロボットだった。
 姿はクェーサーに酷似しており、太い手足が目を引く、マッシブなボディを持っている。シルバーに赤と青の塗装を施した、ヒロイックなデザインだ。

 世間に出回っている二足型ロボットは膝を曲げたフォルムをしているが、この機体は背中に人間の背骨のようなパーツを取り付けてバランスを取り、膝をしっかり伸ばした直立姿勢を取っていた。
 フレームは人間と同じ動きが出来るよう柔軟な構成となっていて、負荷に耐えられるよう関節部が非常に力強く作られている。救は軽い身のこなしで胸部に向かうと、ハッチを開いた。

 人一人が入る小さなコックピットだ。まだ未完成のようで、部品がむき出しになっている。
 こんな小さな町工場で、これだけ大掛かりな物を造っているのか。しかも完成度が異常に高い。

「実はクェーサーと同時並行で、二足歩行ロボットの試作もしているんだよ。次のコンペで、お前と一緒に出す目玉製品だ」
「見た所、OSがまだのようですが」
「そのOSにお前を使うんだとさ。要するにこれ、クェーサーの体なんだよ」
「私の」

「お前が乗ればOSの更新もスムーズにできるようになるからコストをカットできるんだと。凄いよな御堂って、俺にはそんな事思いつきも、実際にやったりも出来ないしな」

 AI搭載の搭乗型二足歩行ロボット……要するに、意志を持った巨大ロボを造ろうとしているのか。非効率的だ。

「なぜ二足歩行ロボットを製造するのですか。維持コストに法整備、クリアする条件が多すぎます」
「そりゃお前、夢は追い求める物だろ。俺の夢はさ、ロボットが自家用車として普及する社会を作る事なんだ。昔っからロボットアニメが大好きでね、ロボットに乗って当たり前に街を歩く、そんな世界に生きるのが夢だったんだ」

 29歳の男が語るにはあまりに幼い夢である。はっきり言って馬鹿げている、くだらない夢だ。

「お前の言う通り、実現は凄く難しいだろう。けど非効率だの無駄が多いだの、うだうだ言ってたら何にも出来ないだろ? 社長はさ、このロボットを造って新しい社会の仕組みを作ろうとしてるんだってよ。俺バカだからさ、難しい事は分からねぇ。でも自分達が新しい社会の仕組みを作って、沢山の人を笑顔に出来たら……すっごく嬉しくないか?」

 救は眩いばかりの笑顔を見せた。二足歩行ロボットの実用化など、到底現実的な夢ではない。他の人が聞いたら笑ってしまうだろう。
 だと言うのに救は、一部の迷いもなく、夢物語のような目標に向かって走り続けている。

『頭は悪いが、夢に向かってひたむきな人間はかっこいいじゃろう。こやつの熱意は羽山に必要じゃ、わらわの目に狂いはなかったの』

 救の隣で女性が頷いている。救もまた、彼女に誘われたのか。

『貴女は、何者ですか?』

 救に気付かれぬよう、メモ機能を使って尋ねた。
 彼女は悪戯っぽく笑い、

『神じゃよ。羽山に居座る、とーってもいい神様じゃ』
「神?」
「ん? 紙なんて何に使うんだ……!」

 突然救はコックピットから飛び降りた。5メートルもの高さから無傷で降りるなり、道路へ飛び出していく。

「間に合えっ!」

 車が間近に迫る、その瞬間。救は何かを抱えて転がった。
 それは、子猫だった。三毛猫を掲げ、救は勝どきを上げている。御堂は車の運転手に謝り、救に駆け寄った。

「何してるんだよ先輩! いきなり飛び出して、危ないじゃないか!」
「猫が轢かれそうになってたからな、助けねぇとだめだろ」
「それより、異常な運動能力でしたが」
「ガキの頃からさ。俺、人よりちょっと運動神経がいいんだよ」

 それだけで説明できるものではなかった。だって、100メートルを数秒で駆け抜けたのだから。

「でも俺の力が誰かのためになる、相手が猫だろうと助けになる。そう思うとさ、なんか俺すげぇってならないか? ロボットが社会に当たり前に溶け込む社会に俺達の力で出来たら、凄くワクワクしないか? 人ってのは、そんな生き物なんだ。ワクワクしたいから夢を見るんだよ」
「よく、分かりません」

 夢を語るのがどれだけ素晴らしい事か、クェーサーは理解できなかった。
 でも救の表情はとても活き活きしている。自分が社会を変えるんだと、強い意思を感じる。
 言葉足らずで、頭も悪い男だが……彼女の言う通り、羽山工業には救の熱が必要だ。
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