204 / 207
3部
205話 勇者ハロー・マンチェスター
しおりを挟む
聖剣は魔神の奥底に閉じ込められていた。白銀だった刃は折れ、光を失い、鈍色にくすんでしまっている。
ところが、ハローの声が届くなり、突然輝き出した。
魔神を振り切り、主の下へ飛んでいく。巨体を突き破って、掲げられた右手へと。
「ね、来たでしょ」
ハローはシェリーに頷いた。核となる子は失ったが、聖剣にはもう一人の魂が封じられている。
『お前と会うのも久方ぶりか。シェリーと共に、ずっとお前達を見ていたぞ』
「こっちこそ、挨拶が大分遅れてすいません。義父さん」
手を触れた瞬間に分かった。聖剣の中に魔王が宿っていると。その魔王が聖剣の主導権を握り、自身の命を燃やして力を与えていた。
「魔王アラハバキ……成程、五年前にシェリーが、魂を聖剣に入れていたわけですか。どうりでアルター化が起こったわけだ」
『オクトか、お前とも久しいな。負けはしたが、おかげでリナルドを解放出来た。それでよしとしよう。ハローよ、ガンバを止めたくば急げ。聖剣は我が欠片によって、一時的に力を取り戻しただけだ。そう長くは使えぬぞ』
「大丈夫、俺に任せてください。義父さんのご厚意、絶対に活かしてみせます」
『義父か。婿からそう呼ばれるのは、嬉しくもあり寂しくもあるものだな……』
魔王の意識が薄れていく。消える前に彼は、
『さらばだナルガ。ハローを通し、孫達の顔を見せてもらったぞ。どうか皆に、あらん限りの幸福を授けてくれ』
「ええ、必ず」
ナルガは頷いた。
魔王が消え去り、ハローは聖剣を担いだ。
彼の背を見て、ナルガ達は懐かしさを感じた。
聖剣がこれほど似合う男など、世界にたった一人しか居ない。
勇者ハロー・マンチェスター。今ここに復活せり。
―ハロォォォォォォォォォォぉぉぉぉぉ!
ガンバが咆哮を上げた。ハローは上段に聖剣を構え、どっしりと腰を落とした。
―お前さえ! お前さえ居なければ俺は……! お前が!!! 邪魔だ!!!!
魔神の拳が振り下ろされる。ハローは真っ向から聖剣を振り抜き、腕を吹っ飛ばした。
だけど、腕は驚異的な速さで再生してしまう。驚くハローに、もう片方の拳が打ちおろされた。
巨体に似合わぬスピードで、ハローはもろに食らってしまう。だけど彼は倒れない、歯を食いしばって拳を受け止め、耐えていた。
拳を押しのけ、ハローの斬撃が魔神の腹を抉った。欠損した部位を再生させ、ガンバは激昂した。
―この死にぞこないがぁ!
魔神が乱打を繰り出すと、ハローも負けじと連撃で押し返した。
大地が揺れ、大気がひび割れ、この世の終わりのような光景が広がる。両者ともにペースが上がり、激しい殴り合いが続いた。
ハローが圧倒的に不利な戦いである。余力がある魔神に対し、ハローの聖剣は時間と共に力が落ちていく。彼に勝ち目のない殴り合い、にも関わらず。
―なんで俺が……押されている!!??
魔神の再生力が間に合わないほど、ハローの斬撃が激しくなっている。嵐のごとき斬撃に魔神の表皮が抉れ、肉を裂かれ、骨を砕かれる。
―なぜだ! 俺は魔神の力を得た! 魔神と一つになった! なのになぜ! こんな落ちぶれた勇者一人に敵わない!?
「俺が、お父さんだからさ」
ハローの濁りなき瞳が、魔神を捉えた。ハローと目が合ったガンバは、彼の透き通った心を感じ取る。
「お父さんは、家族皆の勇者なんだ。だから、強いんだよ」
―ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
泣きながら打ち下ろされたガンバの右拳を、ハローは剣一振りで粉砕した。
再生する間に、左足を破壊する。膝立ちになったら、再生したばかりの右腕を。左足を再生したら今度は右足を。そしたら左腕を。再生速度を上回る速さで、魔神を壊していく。
魔神の再生力が自分を上回るのならば、それ以上の力を出せばいい。ガンバの憎しみがハローを超えると言うのなら、彼以上の意思を出せばいい。
ガンバのような相手にどうすればいいのか、アルターとの戦いで学習していた。こういった相手に搦め手など不要。
真っ向勝負の力押し、徹底的なごり押しで、相手の意思を粉砕するのが、唯一の作戦だ。
食いしばった歯に罅が入り、全身の骨が悲鳴を上げる。限界を超えた力を出した筋肉があちこちちぎれ、ハローの体が耐えきれず、口から血が流れ出た。
でも、家族の前で無様な姿はさらせない。お父さんは常に、家族のヒーローでなければならないんだ。
「俺は勇者でなければ……ならないんだ!!!!」
とうとう魔神の力を上回り、嵐のような斬撃が魔神の体を削ぎ尽くした。
後に残るは、露出した核と、それを大事に抱えるガンバのみ。ハローは跳躍し、魔神の核へ拳骨をぶつけた。
核は硬くて、勇者になったばかりの、何も背負っていなかったハローでは、壊せなかった。
「ぶっ……壊れろぉぉぉぉぉぉ!」
でも今の、多くの想いを背負ったハローは。
親父の拳で、核を無理やり殴り壊した。
核の破片は散り散りになり、霞の様に消滅していく。ハローはガンバを抱きかかえ、着地した。
同時に聖剣から光が消えた。魔王が遺してくれた力を使い果たし、役目を終えたのだ。
「さようなら、相棒」
ところが、ハローの声が届くなり、突然輝き出した。
魔神を振り切り、主の下へ飛んでいく。巨体を突き破って、掲げられた右手へと。
「ね、来たでしょ」
ハローはシェリーに頷いた。核となる子は失ったが、聖剣にはもう一人の魂が封じられている。
『お前と会うのも久方ぶりか。シェリーと共に、ずっとお前達を見ていたぞ』
「こっちこそ、挨拶が大分遅れてすいません。義父さん」
手を触れた瞬間に分かった。聖剣の中に魔王が宿っていると。その魔王が聖剣の主導権を握り、自身の命を燃やして力を与えていた。
「魔王アラハバキ……成程、五年前にシェリーが、魂を聖剣に入れていたわけですか。どうりでアルター化が起こったわけだ」
『オクトか、お前とも久しいな。負けはしたが、おかげでリナルドを解放出来た。それでよしとしよう。ハローよ、ガンバを止めたくば急げ。聖剣は我が欠片によって、一時的に力を取り戻しただけだ。そう長くは使えぬぞ』
「大丈夫、俺に任せてください。義父さんのご厚意、絶対に活かしてみせます」
『義父か。婿からそう呼ばれるのは、嬉しくもあり寂しくもあるものだな……』
魔王の意識が薄れていく。消える前に彼は、
『さらばだナルガ。ハローを通し、孫達の顔を見せてもらったぞ。どうか皆に、あらん限りの幸福を授けてくれ』
「ええ、必ず」
ナルガは頷いた。
魔王が消え去り、ハローは聖剣を担いだ。
彼の背を見て、ナルガ達は懐かしさを感じた。
聖剣がこれほど似合う男など、世界にたった一人しか居ない。
勇者ハロー・マンチェスター。今ここに復活せり。
―ハロォォォォォォォォォォぉぉぉぉぉ!
ガンバが咆哮を上げた。ハローは上段に聖剣を構え、どっしりと腰を落とした。
―お前さえ! お前さえ居なければ俺は……! お前が!!! 邪魔だ!!!!
魔神の拳が振り下ろされる。ハローは真っ向から聖剣を振り抜き、腕を吹っ飛ばした。
だけど、腕は驚異的な速さで再生してしまう。驚くハローに、もう片方の拳が打ちおろされた。
巨体に似合わぬスピードで、ハローはもろに食らってしまう。だけど彼は倒れない、歯を食いしばって拳を受け止め、耐えていた。
拳を押しのけ、ハローの斬撃が魔神の腹を抉った。欠損した部位を再生させ、ガンバは激昂した。
―この死にぞこないがぁ!
魔神が乱打を繰り出すと、ハローも負けじと連撃で押し返した。
大地が揺れ、大気がひび割れ、この世の終わりのような光景が広がる。両者ともにペースが上がり、激しい殴り合いが続いた。
ハローが圧倒的に不利な戦いである。余力がある魔神に対し、ハローの聖剣は時間と共に力が落ちていく。彼に勝ち目のない殴り合い、にも関わらず。
―なんで俺が……押されている!!??
魔神の再生力が間に合わないほど、ハローの斬撃が激しくなっている。嵐のごとき斬撃に魔神の表皮が抉れ、肉を裂かれ、骨を砕かれる。
―なぜだ! 俺は魔神の力を得た! 魔神と一つになった! なのになぜ! こんな落ちぶれた勇者一人に敵わない!?
「俺が、お父さんだからさ」
ハローの濁りなき瞳が、魔神を捉えた。ハローと目が合ったガンバは、彼の透き通った心を感じ取る。
「お父さんは、家族皆の勇者なんだ。だから、強いんだよ」
―ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
泣きながら打ち下ろされたガンバの右拳を、ハローは剣一振りで粉砕した。
再生する間に、左足を破壊する。膝立ちになったら、再生したばかりの右腕を。左足を再生したら今度は右足を。そしたら左腕を。再生速度を上回る速さで、魔神を壊していく。
魔神の再生力が自分を上回るのならば、それ以上の力を出せばいい。ガンバの憎しみがハローを超えると言うのなら、彼以上の意思を出せばいい。
ガンバのような相手にどうすればいいのか、アルターとの戦いで学習していた。こういった相手に搦め手など不要。
真っ向勝負の力押し、徹底的なごり押しで、相手の意思を粉砕するのが、唯一の作戦だ。
食いしばった歯に罅が入り、全身の骨が悲鳴を上げる。限界を超えた力を出した筋肉があちこちちぎれ、ハローの体が耐えきれず、口から血が流れ出た。
でも、家族の前で無様な姿はさらせない。お父さんは常に、家族のヒーローでなければならないんだ。
「俺は勇者でなければ……ならないんだ!!!!」
とうとう魔神の力を上回り、嵐のような斬撃が魔神の体を削ぎ尽くした。
後に残るは、露出した核と、それを大事に抱えるガンバのみ。ハローは跳躍し、魔神の核へ拳骨をぶつけた。
核は硬くて、勇者になったばかりの、何も背負っていなかったハローでは、壊せなかった。
「ぶっ……壊れろぉぉぉぉぉぉ!」
でも今の、多くの想いを背負ったハローは。
親父の拳で、核を無理やり殴り壊した。
核の破片は散り散りになり、霞の様に消滅していく。ハローはガンバを抱きかかえ、着地した。
同時に聖剣から光が消えた。魔王が遺してくれた力を使い果たし、役目を終えたのだ。
「さようなら、相棒」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
132
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる