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3部

197話 奪われる家族

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 エドウィンの威嚇射撃により、敵の手が止まった。
 ハローは目の前の光景に驚き、言葉が出なかった。あのオクトが敵に捕縛され、聖剣まで奪われている。魔法陣から強烈な魔力を感じ、ハローは息を呑んだ。
 あの魔法陣……沢山の命を生贄に発動している。オクト一人を捕まえるのに、どれだけの犠牲を払ったと言うのだ。

「それに、君達は……シンギで会った」
「あん時の奴らか。まさか勇者と戦おうなんて狂った連中とは思わなかったよ」
「……お前達」

 と、ナルガが呆然とした表情でつぶやいた。

「……ガンバ、ミック……?」
「な、ルガ……様? ナルガ、様!?」

 男……ガンバは明らかに動揺した。ハローもようやく男の正体に気付き、

「ガンバって、ナルガの副官だった人か!?」
「本物の、ナルガ様……い、生きていたんですか……!」

 ミックは手を口に当て、目を見開いていた。両者ともに驚き、硬直してしまう。
 エドウィンはあえて一発、空に銃声を響かせた。号砲に皆の思考が正常に戻る。

「状況を整理するぞ。お前らは魔王軍の残党、でもって決死の作戦でオクトと戦い、聖剣を奪った。オクト! 概ね合ってるな?」
「は、はい……この魔法陣、相当な力で、私とシェリーを縛り付けていて……動けないんです……!」
「だとよハロー、僕達のやる事はオクトの解放と聖剣の奪取だ! ぼさっとせずにとっととやるぞ!」
「ハロー……? ハロー・マンチェスター……!?」

 再びガンバがうろたえた。その隙にハローは距離を詰め、聖剣に手を伸ばした。
 ハローを遠ざけるべく、ガンバは咄嗟に聖剣を振った。すると聖剣から魔力が放出され、ハローは吹っ飛ばされた。

「聖剣の力を使える!? なんで!」
「た、多分シェリーの意志が封じられているせいで……制御できない状態になっているのかと……」
「くっ……ガンバ! 話を聞かせてもらうぞ!」
「ナルガ様……ミック、撤退するぞ、ナルガ様と共に!」
「お、おう!?」

 ガンバにとって、想定外が起こりすぎていた。混乱の最中でも最善手を取れるのは、彼が戦士だからだろう。
 聖剣を構えたガンバに対し、ハローとナルガは得物を抜いた。彼が動く前に止めなければ!
 ハローの前にミックが立ちふさがり、ナイフを受け止めた。ナルガはガンバと鍔競り合いになり、刀身に火花を散らす。

「どいてくれ!」
「嫌だ! ガンバには近づけさせない!」
「聖剣を返せガンバ! それはお前が持っていい物ではない!」
「それは出来ない命ですナルガ様、我らが大儀のため、必要な物なのです!」

 ガンバはナルガを押しのけ、猟犬を召喚した。
 体勢を崩したナルガは対応できず、剣を奪われる。ハローは咄嗟に、魔剣を投げ渡した。
 ナルガは折れた刀身を振り下ろし、ガンバの肩を叩きつける。激痛にガンバは呻くも、刀身がボロボロのおかげで、大事に至らなかった。

「無礼をお許しくださいっ!」

 ナルガのみぞおちに一撃を与え、動きを止めた。ミックに目配せしたガンバは、聖剣で地面を破壊し、大量の土埃を舞わせた。
 視界を防がれ、ハロー達は怯んだ。煙幕が晴れる頃には既に遅く、ナルガはガンバによって、攫われた後だった。
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