アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

３部

１９６話 命削りの特攻

　同志が一人、また一人と潰えていく。
　オクトの圧倒的な力を前に、ガンバの戦力は次々とそぎ落とされた。相手は単なる鉄の剣しか使っていないのに……かすり傷一つすら付けられないでいた。
　屈辱だ、どれだけ全力で挑んでも、オクトにとっては児戯に過ぎないなんて。

「堪えろガンバ、もう少し、もう少しでポイントだ」

　ミックが傍に寄り、励ましてくれた。まずはオクトに聖剣を使わせる、そのためにも、事前に用意していた罠へ、誘い込まなければ。

　召喚術を使って、ひたすらに猟犬を出し続ける。オクトは呆れたように猟犬を斬っていき、ガンバを追いかけた。
　猟犬は囮だ、ガンバは気づかれないよう、オクトを誘導していた。
　数多の犠牲を踏み台にした、対オクト用の秘策。それを発動するポイントへと。

「解除！」

　オクトの足元に、巨大な魔法陣が出現した。
　魔法陣から大量の鎖が放出され、オクトの手足が縛り上げられる。勇者である彼女の動きが封じられ、魔力も使えなくなってしまう。

「誘い込まれましたか……でも、この程度で勇者が、このオクトが。止められるとでも？」

　オクトは聖剣を呼んだ。雷鳴のごとき音と共に、彼女の手に白銀に輝く剣が飛んでくる。

「今だ！」

　瞬間、ガンバの号令と共に、後詰の部隊が出現した。
　彼らは魔法陣に手を当て、自身の命を捧げ、消滅した。
　この魔法陣は、数多の命を生贄にする事で、魔力を封じる効果を持つ。理論上、どれだけ強大な力を持った物であろうと、封印できる。
　皮肉にもその仕組みは、シェリーを縛り付ける封印と似通っていた。

「ああっ！？」

　初めてオクトの表情に焦りが産まれた。聖剣の力が封じられ、身動きが取れなくなってしまったのだ。
　ガンバが払った代償は大きく、残った仲間はミックだけ。だが、それに見合った成果だ。

「貰うぞ、聖剣」

　オクトから聖剣を奪い取り、ガンバは嗤った。
　賭けに勝った、オクトから、剣を手に入れた。
　もしも、魔王が部下を大事に思わぬ男だったなら、魔王城の決戦の結果はこうなっていた。魔王の敗因は、優しすぎた事だ。聖剣を奪うために、数多の部下を生贄にしなければならないからだ。
　だからガンバは非情になった。どんな犠牲も厭わず、オクトを葬る選択をした。

「よし、ずらかるよ！　……ちょっと？　何ぼさっとしてるのさ。それ奪ったら逃げる算段だろ」
「……その前に、こいつの処刑が先だ」

　オクトはナルガから左足を奪った。それ以上の苦痛をこいつにも与えてやる。

「四肢を斬り落としてやる！　あの人を奪った報いを受けろ！」

　ガンバは聖剣を振り被った。その刹那、殺気を感じて身を翻した。
　銃声と共に足元へ弾丸が飛び、ガンバとミックは顔を上げた。
　そこに居たのは……。
　顔に大きな傷がある男と。
　左足が義足の女だった。