193 / 207
3部
194話 作戦開始
しおりを挟む
オクトは鼻歌交りに馬を駆り、ラコ村へ向かっていた。
ようやく休みをもぎ取れた。年々休日が取りづらくなっているから嫌なものだ。
ハローに会えるのは嬉しい反面、複雑でもある。ハローとナルガの娘を見ると、非常に悔しい気持ちが湧いてしまうから。本来なら、彼との子を設けるのは自分のはずだったのに。
でもアマトはとても素直で愛らしく、オクトを慕ってくれている。天使の笑顔を見るだけで心は晴れ、何もかもどうでもよくなってしまうのだ。
早くアマトに会いたいな。
「貴方もそう思うでしょう?」
シェリーに想いを馳せ、オクトは目を伏せた。
……先日、エドウィンからの手紙に、魔剣の構造が解明できたとあった。オクトが得た情報と合わせれば、シェリーを解放する目途が立つかもしれない。
シェリーの解放は、オクトとしても望むところだ。彼女は性格こそ良くないが、心根自体は善人寄りである。
聖剣は勿論、過去の鍛冶師の手記を読み解いて、シェリーを解放する術を探り続けた。その甲斐あって、糸口となるヒントを得られたのだ。
ハローを見守ってくれた同志でもあるし、助けてあげなければ。
「ん?」
森に入るなり、オクトは殺気を感じ取った。
複数人の視線を感じる。野盗かと思ったが、それにしては統率が取れていて、練度も高い。相当な訓練も受けていると見た。
警戒しながら、オクトは柄に手を触れた。折角の休暇に、この子の刃を汚したくはないのだが。
「手を出さないなら、見なかった事にしましょう。命の保証があるうちに、退避するのを薦めます」
警告するのは、オクトなりの優しさだ。大抵はオクトの警告に怯んで下がっていくのだが、相手は殺気を消そうとしない。
木々の間から、フードを目深に被った連中が現れた。オクトはため息をつき、馬から下りた。
やれやれ、シェリーに汚い物を見せる羽目になりそうだ。
剣を抜くと同時に、茂みから敵が飛び出してきた。五頭の猟犬だ。オクトは容赦なく切り伏せ、猟犬が出て来た方へ投石した。
肉がはぜる音と共に血しぶきが飛び、首から上が消えた遺体が倒れる。敵は木々に身を隠しながら移動し、死角から猟犬を放ってくる。
成程、召喚術で猟犬を出しているようですね。オクトは冷静に分析しながら、敵の指揮系統を観察した。
敵の動きから、リーダーを特定する。そいつが潜んでいるであろう場所へ走ると、盾になるように敵が二人飛び出した。
迷わず剣を振り抜き、首を斬り落とす。肉壁のせいでリーダーを仕留め損ねてしまった。
でもまぁ、死ぬ時間が少し遅れるだけだ。小競り合いの結果が変わるわけではない。
「大人しく投降すれば、苦しませずに殺してさしあげますが?」
「ほざけ! 上から目線で、偉そうに語るな!」
男はフードを脱いだ。犬耳の獣人で、血走った眼に深い憎しみをたたえている。
男の顔は初めて見るが、そんな憎しみを向けられるようなことをしただろうか。記憶を遡ると、ふと思い当たる節が。
「もしかして、魔王軍残党の方ですか?」
「そうだ! 名はガンバ! 貴様に誇りと尊厳を奪われた者だ!」
ガンバは召喚術を使い、再び猟犬をけしかけた。
一体何匹の猟犬を呼び出せるのやら。でもいくら出そうが、オクトには傷一つ与えられない。
成程、魔王の弔い合戦ってわけか。オクトは肩を竦めた。
ハローと違い、オクトの選択肢に対話は無い。「鳴かぬなら、殺してしまえ」が彼女の主義、自分とハローに歯向かう者は、容赦なく抹殺するだけだ。
ナルガを呼べば止めてくれるかもしれないけど、あの人に借りを作るのも嫌だし、面倒くさいし……殺した方が早いな。
「早く先代に会いたいので、すぐに終わらせるとしましょう」
ようやく休みをもぎ取れた。年々休日が取りづらくなっているから嫌なものだ。
ハローに会えるのは嬉しい反面、複雑でもある。ハローとナルガの娘を見ると、非常に悔しい気持ちが湧いてしまうから。本来なら、彼との子を設けるのは自分のはずだったのに。
でもアマトはとても素直で愛らしく、オクトを慕ってくれている。天使の笑顔を見るだけで心は晴れ、何もかもどうでもよくなってしまうのだ。
早くアマトに会いたいな。
「貴方もそう思うでしょう?」
シェリーに想いを馳せ、オクトは目を伏せた。
……先日、エドウィンからの手紙に、魔剣の構造が解明できたとあった。オクトが得た情報と合わせれば、シェリーを解放する目途が立つかもしれない。
シェリーの解放は、オクトとしても望むところだ。彼女は性格こそ良くないが、心根自体は善人寄りである。
聖剣は勿論、過去の鍛冶師の手記を読み解いて、シェリーを解放する術を探り続けた。その甲斐あって、糸口となるヒントを得られたのだ。
ハローを見守ってくれた同志でもあるし、助けてあげなければ。
「ん?」
森に入るなり、オクトは殺気を感じ取った。
複数人の視線を感じる。野盗かと思ったが、それにしては統率が取れていて、練度も高い。相当な訓練も受けていると見た。
警戒しながら、オクトは柄に手を触れた。折角の休暇に、この子の刃を汚したくはないのだが。
「手を出さないなら、見なかった事にしましょう。命の保証があるうちに、退避するのを薦めます」
警告するのは、オクトなりの優しさだ。大抵はオクトの警告に怯んで下がっていくのだが、相手は殺気を消そうとしない。
木々の間から、フードを目深に被った連中が現れた。オクトはため息をつき、馬から下りた。
やれやれ、シェリーに汚い物を見せる羽目になりそうだ。
剣を抜くと同時に、茂みから敵が飛び出してきた。五頭の猟犬だ。オクトは容赦なく切り伏せ、猟犬が出て来た方へ投石した。
肉がはぜる音と共に血しぶきが飛び、首から上が消えた遺体が倒れる。敵は木々に身を隠しながら移動し、死角から猟犬を放ってくる。
成程、召喚術で猟犬を出しているようですね。オクトは冷静に分析しながら、敵の指揮系統を観察した。
敵の動きから、リーダーを特定する。そいつが潜んでいるであろう場所へ走ると、盾になるように敵が二人飛び出した。
迷わず剣を振り抜き、首を斬り落とす。肉壁のせいでリーダーを仕留め損ねてしまった。
でもまぁ、死ぬ時間が少し遅れるだけだ。小競り合いの結果が変わるわけではない。
「大人しく投降すれば、苦しませずに殺してさしあげますが?」
「ほざけ! 上から目線で、偉そうに語るな!」
男はフードを脱いだ。犬耳の獣人で、血走った眼に深い憎しみをたたえている。
男の顔は初めて見るが、そんな憎しみを向けられるようなことをしただろうか。記憶を遡ると、ふと思い当たる節が。
「もしかして、魔王軍残党の方ですか?」
「そうだ! 名はガンバ! 貴様に誇りと尊厳を奪われた者だ!」
ガンバは召喚術を使い、再び猟犬をけしかけた。
一体何匹の猟犬を呼び出せるのやら。でもいくら出そうが、オクトには傷一つ与えられない。
成程、魔王の弔い合戦ってわけか。オクトは肩を竦めた。
ハローと違い、オクトの選択肢に対話は無い。「鳴かぬなら、殺してしまえ」が彼女の主義、自分とハローに歯向かう者は、容赦なく抹殺するだけだ。
ナルガを呼べば止めてくれるかもしれないけど、あの人に借りを作るのも嫌だし、面倒くさいし……殺した方が早いな。
「早く先代に会いたいので、すぐに終わらせるとしましょう」
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる