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3部

194話 作戦開始

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 オクトは鼻歌交りに馬を駆り、ラコ村へ向かっていた。
 ようやく休みをもぎ取れた。年々休日が取りづらくなっているから嫌なものだ。
 ハローに会えるのは嬉しい反面、複雑でもある。ハローとナルガの娘を見ると、非常に悔しい気持ちが湧いてしまうから。本来なら、彼との子を設けるのは自分のはずだったのに。

 でもアマトはとても素直で愛らしく、オクトを慕ってくれている。天使の笑顔を見るだけで心は晴れ、何もかもどうでもよくなってしまうのだ。
 早くアマトに会いたいな。

「貴方もそう思うでしょう?」

 シェリーに想いを馳せ、オクトは目を伏せた。
 ……先日、エドウィンからの手紙に、魔剣の構造が解明できたとあった。オクトが得た情報と合わせれば、シェリーを解放する目途が立つかもしれない。

 シェリーの解放は、オクトとしても望むところだ。彼女は性格こそ良くないが、心根自体は善人寄りである。
 聖剣は勿論、過去の鍛冶師の手記を読み解いて、シェリーを解放する術を探り続けた。その甲斐あって、糸口となるヒントを得られたのだ。
 ハローを見守ってくれた同志でもあるし、助けてあげなければ。

「ん?」

 森に入るなり、オクトは殺気を感じ取った。
 複数人の視線を感じる。野盗かと思ったが、それにしては統率が取れていて、練度も高い。相当な訓練も受けていると見た。
 警戒しながら、オクトは柄に手を触れた。折角の休暇に、この子の刃を汚したくはないのだが。

「手を出さないなら、見なかった事にしましょう。命の保証があるうちに、退避するのを薦めます」

 警告するのは、オクトなりの優しさだ。大抵はオクトの警告に怯んで下がっていくのだが、相手は殺気を消そうとしない。
 木々の間から、フードを目深に被った連中が現れた。オクトはため息をつき、馬から下りた。
 やれやれ、シェリーに汚い物を見せる羽目になりそうだ。

 剣を抜くと同時に、茂みから敵が飛び出してきた。五頭の猟犬だ。オクトは容赦なく切り伏せ、猟犬が出て来た方へ投石した。
 肉がはぜる音と共に血しぶきが飛び、首から上が消えた遺体が倒れる。敵は木々に身を隠しながら移動し、死角から猟犬を放ってくる。

 成程、召喚術で猟犬を出しているようですね。オクトは冷静に分析しながら、敵の指揮系統を観察した。
 敵の動きから、リーダーを特定する。そいつが潜んでいるであろう場所へ走ると、盾になるように敵が二人飛び出した。
 迷わず剣を振り抜き、首を斬り落とす。肉壁のせいでリーダーを仕留め損ねてしまった。

 でもまぁ、死ぬ時間が少し遅れるだけだ。小競り合いの結果が変わるわけではない。

「大人しく投降すれば、苦しませずに殺してさしあげますが?」
「ほざけ! 上から目線で、偉そうに語るな!」

 男はフードを脱いだ。犬耳の獣人で、血走った眼に深い憎しみをたたえている。
 男の顔は初めて見るが、そんな憎しみを向けられるようなことをしただろうか。記憶を遡ると、ふと思い当たる節が。

「もしかして、魔王軍残党の方ですか?」
「そうだ! 名はガンバ! 貴様に誇りと尊厳を奪われた者だ!」

 ガンバは召喚術を使い、再び猟犬をけしかけた。
 一体何匹の猟犬を呼び出せるのやら。でもいくら出そうが、オクトには傷一つ与えられない。
 成程、魔王の弔い合戦ってわけか。オクトは肩を竦めた。

 ハローと違い、オクトの選択肢に対話は無い。「鳴かぬなら、殺してしまえ」が彼女の主義、自分とハローに歯向かう者は、容赦なく抹殺するだけだ。
 ナルガを呼べば止めてくれるかもしれないけど、あの人に借りを作るのも嫌だし、面倒くさいし……殺した方が早いな。

「早く先代に会いたいので、すぐに終わらせるとしましょう」
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