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3部

190話 剣の子を想う

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「ただいま戻りました。あら、皆さんお揃いですね」

 子供達と一緒に出かけていたミネバが診療所に戻ると、エドウィンがリナルドとミコに魔法を教えていた。
 ナルガから事情を教えてもらうと、ミネバはくすりとし、

「教え上手なの、ちゃんと証明しないとですね」
「喧し。くそ、まんまと乗せられた……」
「二人とも、これが盤外戦術の例だよ。参考にしてね」
「なんで僕を教科書代わりにしてんだアホたれ!」
「ちょっとエド兄、ちゃんと教えてよー」
「……僕、その内ストレスで頭の血管切れるんじゃないかな……!」

 とはいえ、やると言った以上ちゃんと責任を果たすのがエドウィンだ。二人に魔法について、懇切丁寧に教えてくれた。
 患者が来てしまったため、途中で打ち止めになってしまったが、ミコとリナルドは小さな火を灯せる魔法が使えるようになっていた。

「本当に出来た! エド兄凄い!」
「言っとくが、これ以上は教えないからな。僕だって暇じゃないんだから」
「でもありがとう、お医者さん」

 深々と礼をするリナルドに、エドウィンはひらひらと手を振った。

「ねーねー母様、わたしもお医者さんにまほう教わりたい」
「ふむ、ではアマトがもう少し大きくなったら頼もうか」
「だからなんでだよっ」
「まままま、ここは俺の顔に免じて」
「なんでお前の顔を免罪符にせにゃならんのだ!」

 ツッコミに大忙しのエドウィンである。なまじ人が良いせいで、弄られ役が板についたようだ。

「頼まれていた薬草です、確認お願いします」
「ようやくチェックできるよ……いいか、二度と余計な仕事を持ってくるんじゃあないぞ。次頼まれても僕はやらないからな、絶対だからな!」

 これは後日談になるが、エドウィンはその後もちょくちょく二人の魔法指導を行う事になるのだった。
 診療所を後にし、帰路に着く間も、リナルドとミコは覚えたての魔法を使って遊んでいた。エドウィンから教わった、火を使って文字を作る遊びである。魔力の使い方を覚えるには、これが一番手っ取り早いとの事。

「使いすぎると魔力切れで倒れるからな、気を付けろ」
「はーい。見て見てアリス、私の名前作ってみた」
「ほらアマト、アマトの大好きな鳥さんだぞ」
「わぁ! 兄様じょうず!」

 二人とも飲み込みが早く、すでに火を自由に操れるようになっている。大した才能の持ち主だ。
 ミコは門限のため別れ、帰宅したリナルドは一人魔法の練習に励んだ。ハローは隣で見守りながら、アマトを膝に乗せて相手をした。

「今日はちょっと詰め込みすぎたかな、疲れただろ」
「ううん、むしろ楽しかった。ずっと使ってみたかったんだ、魔法。でも、僕って無尽蔵の魔力持ってるんだよね? なのに思ったより上手く出来なかったのが悔しいな」
「エドが言うには、あくまで魔力の入れ物が大きいだけで、増幅や放出をする器官は普通の人と変わりないそうだよ。魔力切れが無いから、無意味ではないんだけども」
「ちゃんと使えるようになるには練習するしかないのか。美味い話ってないもんだね」
「世の中上手く出来てるって事さ」

 リナルドは俯いた。

「……僕も魔法を使えるようになったら、姉さんを助けられるようになるかな」
「なるさ。そういや、もうリナルドの方が年上になってたか」

 剣に封じられている間、肉体年齢は止まる。シェリーの時は八歳の時点で止まったままだ。
 ……三年前、夢の中で話してから、シェリーの声は聞こえなくなった。多分、ハロー達に気を遣っているのだろう。
 迷惑だなんて思ってないのに。俺達ともっと、話をしていいんだぞ。

「いつか、姉さんを助け出したら、今度は僕が守るんだ。姉さんにはずっと守ってもらったから、次は僕の番なんだ」
「いい心がけだよ。来週オクトが来るから、シェリーに挨拶しとかないとな」
「オクト叔母様が来るんだ。おみやげ持ってくるかな」

 都のお菓子を期待したのか、アマトは足をぱたぱたさせた。
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