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3部
189話 実戦形式の教え
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翌日、マンチェスター夫妻見守りの下、リナルドとミコの組手が行われた。
木刀を激しくぶつけ合い、蹴りや拳を交えて、実戦さながらの乱打戦が繰り広げられる。二人が教えているのは競技用ではなく、実用的な戦闘術だ。
実戦では剣術だけでは生き抜けない。格闘術や罠に魔法、その他道具を駆使して、何としても生き残らなければならない。
だからこの組手も、「最終的に立っていた方の勝ち」と言う、ルール無用の形式となっていた。
ミコの方がリナルドよりも強く、義息子は押され気味だ。今までリナルドは、ミコに一度も勝った事がない。単純な力勝負では、まだ勝てない。
ならどうするのか、昨日ハローから、方法を教わっていた。
「この……怪力ゴリラ女!」
「んな!? だぁれがゴリラだ馬鹿ぁ!」
単純な悪口で怒り、ミコが一瞬冷静さを欠いた。その隙を逃さず、リナルドは木刀を彼女の足にぶん投げた。
思い切り脛に当たり、ミコが痛みに悶絶する。リナルドはミコを押し倒すと、拳を突き上げた。
「うん、リナルドの勝ちだね」
「えー!? 今のずるくない? 悪口言って私怒らせた所を狙ったんだよ?」
「この組手は勝てれば何をしてもいいのがルールだ。盤外戦術はむしろ基本、それに乗ったミコが悪い」
「納得できなーい!」
ナルガはぶーたれるミコをあやし、組手の反省に入った。
リナルドもハローとマンツーマンで指導してもらい、まずは初勝利を称えてもらった。
「風呂で教えた事、ちゃんとやれたな」
「うん。でも卑怯な方法だから、なんか微妙な感じ」
「確かにな。けど卑怯だろうと、結局死んだら終わりだ。悲しいかな、この世は綺麗じゃない。村の外には、息をするように嘘を吐く奴や話の通じないケダモノ……沢山の危険が存在している。そいつらから身を守るには、正々堂々なんて言ってられない。外道な方法だろうと、あらゆる手段を使って勝たなきゃならないんだ」
元勇者が教えるには、あまりにもダーティな戦い方である。
でも世界は理不尽で、正論だけでは生き抜けない。時には手を汚す覚悟も必要なのだ。
「今度、二人には罠の作り方も教えておくよ。それと投げナイフとか、小技も時期を見て覚えていこう」
「それよりもさぁ、魔法の使い方教えてほしいかなー」
「あ、僕も思った。そっち教えてよ」
「魔法か。確かに武術の基礎は出来始めているが、どう思う」
「うーん……まぁ、頃合いと言えば頃合いか」
魔法に関しては、武術の基礎を覚えてから教えるつもりだった。いっぺんに教えてしまうと、二人が混乱してしまうから。
「でも俺、魔法は感覚で使ってるから、教えられる自信ないんだよね」
「実を言うと、私もだ。理屈や原理は理解しているのだが……魔法に関しては「こうやってこう」としか教えられん」
「なんで?」
「人には向き不向きがあるという事だ。となれば、奴に頼るか」
そんなわけで一行が向かった先は。
「って事で、二人に魔法を教えてくれないかな」
「なんでだよ」
診療所である。回復魔法は緻密な魔力操作を要求する技術、それを使いこなせるエドウィンは、二人よりも魔法の使い方を熟知していた。
「なんで困ったらすぐ僕の所に来るんだ、せめて病気か怪我をしてから来い」
「馬鹿も病気の一種って事で」
「治せないから対象外だアホ。医者に暇な時間なんざあるわけないだろ、とっとと帰れ」
「ふむ、そうか。残念だ、まぁ当の本人に自信が無いのならば仕方ない。エドが上手く教えられないのであれば、我々でどうにかするしかあるまい」
「別に上手く教えられないとは言ってないだろ。単に面倒なだけだ」
「口だけでは何とでも言えるからなぁ。単に教えられなくて日和ってるだけかと」
「いーだろうやってやるよ! そこまで言われて黙ってられるかばっきゃろぉ!」
エドの使い方、上手くなったなぁ。妻についてしみじみ思う夫であった。
木刀を激しくぶつけ合い、蹴りや拳を交えて、実戦さながらの乱打戦が繰り広げられる。二人が教えているのは競技用ではなく、実用的な戦闘術だ。
実戦では剣術だけでは生き抜けない。格闘術や罠に魔法、その他道具を駆使して、何としても生き残らなければならない。
だからこの組手も、「最終的に立っていた方の勝ち」と言う、ルール無用の形式となっていた。
ミコの方がリナルドよりも強く、義息子は押され気味だ。今までリナルドは、ミコに一度も勝った事がない。単純な力勝負では、まだ勝てない。
ならどうするのか、昨日ハローから、方法を教わっていた。
「この……怪力ゴリラ女!」
「んな!? だぁれがゴリラだ馬鹿ぁ!」
単純な悪口で怒り、ミコが一瞬冷静さを欠いた。その隙を逃さず、リナルドは木刀を彼女の足にぶん投げた。
思い切り脛に当たり、ミコが痛みに悶絶する。リナルドはミコを押し倒すと、拳を突き上げた。
「うん、リナルドの勝ちだね」
「えー!? 今のずるくない? 悪口言って私怒らせた所を狙ったんだよ?」
「この組手は勝てれば何をしてもいいのがルールだ。盤外戦術はむしろ基本、それに乗ったミコが悪い」
「納得できなーい!」
ナルガはぶーたれるミコをあやし、組手の反省に入った。
リナルドもハローとマンツーマンで指導してもらい、まずは初勝利を称えてもらった。
「風呂で教えた事、ちゃんとやれたな」
「うん。でも卑怯な方法だから、なんか微妙な感じ」
「確かにな。けど卑怯だろうと、結局死んだら終わりだ。悲しいかな、この世は綺麗じゃない。村の外には、息をするように嘘を吐く奴や話の通じないケダモノ……沢山の危険が存在している。そいつらから身を守るには、正々堂々なんて言ってられない。外道な方法だろうと、あらゆる手段を使って勝たなきゃならないんだ」
元勇者が教えるには、あまりにもダーティな戦い方である。
でも世界は理不尽で、正論だけでは生き抜けない。時には手を汚す覚悟も必要なのだ。
「今度、二人には罠の作り方も教えておくよ。それと投げナイフとか、小技も時期を見て覚えていこう」
「それよりもさぁ、魔法の使い方教えてほしいかなー」
「あ、僕も思った。そっち教えてよ」
「魔法か。確かに武術の基礎は出来始めているが、どう思う」
「うーん……まぁ、頃合いと言えば頃合いか」
魔法に関しては、武術の基礎を覚えてから教えるつもりだった。いっぺんに教えてしまうと、二人が混乱してしまうから。
「でも俺、魔法は感覚で使ってるから、教えられる自信ないんだよね」
「実を言うと、私もだ。理屈や原理は理解しているのだが……魔法に関しては「こうやってこう」としか教えられん」
「なんで?」
「人には向き不向きがあるという事だ。となれば、奴に頼るか」
そんなわけで一行が向かった先は。
「って事で、二人に魔法を教えてくれないかな」
「なんでだよ」
診療所である。回復魔法は緻密な魔力操作を要求する技術、それを使いこなせるエドウィンは、二人よりも魔法の使い方を熟知していた。
「なんで困ったらすぐ僕の所に来るんだ、せめて病気か怪我をしてから来い」
「馬鹿も病気の一種って事で」
「治せないから対象外だアホ。医者に暇な時間なんざあるわけないだろ、とっとと帰れ」
「ふむ、そうか。残念だ、まぁ当の本人に自信が無いのならば仕方ない。エドが上手く教えられないのであれば、我々でどうにかするしかあるまい」
「別に上手く教えられないとは言ってないだろ。単に面倒なだけだ」
「口だけでは何とでも言えるからなぁ。単に教えられなくて日和ってるだけかと」
「いーだろうやってやるよ! そこまで言われて黙ってられるかばっきゃろぉ!」
エドの使い方、上手くなったなぁ。妻についてしみじみ思う夫であった。
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