アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
188 / 207
3部

189話 実戦形式の教え

しおりを挟む
 翌日、マンチェスター夫妻見守りの下、リナルドとミコの組手が行われた。
 木刀を激しくぶつけ合い、蹴りや拳を交えて、実戦さながらの乱打戦が繰り広げられる。二人が教えているのは競技用ではなく、実用的な戦闘術だ。
 実戦では剣術だけでは生き抜けない。格闘術や罠に魔法、その他道具を駆使して、何としても生き残らなければならない。

 だからこの組手も、「最終的に立っていた方の勝ち」と言う、ルール無用の形式となっていた。
 ミコの方がリナルドよりも強く、義息子は押され気味だ。今までリナルドは、ミコに一度も勝った事がない。単純な力勝負では、まだ勝てない。
 ならどうするのか、昨日ハローから、方法を教わっていた。

「この……怪力ゴリラ女!」
「んな!? だぁれがゴリラだ馬鹿ぁ!」

 単純な悪口で怒り、ミコが一瞬冷静さを欠いた。その隙を逃さず、リナルドは木刀を彼女の足にぶん投げた。
 思い切り脛に当たり、ミコが痛みに悶絶する。リナルドはミコを押し倒すと、拳を突き上げた。

「うん、リナルドの勝ちだね」
「えー!? 今のずるくない? 悪口言って私怒らせた所を狙ったんだよ?」
「この組手は勝てれば何をしてもいいのがルールだ。盤外戦術はむしろ基本、それに乗ったミコが悪い」
「納得できなーい!」

 ナルガはぶーたれるミコをあやし、組手の反省に入った。
 リナルドもハローとマンツーマンで指導してもらい、まずは初勝利を称えてもらった。

「風呂で教えた事、ちゃんとやれたな」
「うん。でも卑怯な方法だから、なんか微妙な感じ」

「確かにな。けど卑怯だろうと、結局死んだら終わりだ。悲しいかな、この世は綺麗じゃない。村の外には、息をするように嘘を吐く奴や話の通じないケダモノ……沢山の危険が存在している。そいつらから身を守るには、正々堂々なんて言ってられない。外道な方法だろうと、あらゆる手段を使って勝たなきゃならないんだ」

 元勇者が教えるには、あまりにもダーティな戦い方である。
 でも世界は理不尽で、正論だけでは生き抜けない。時には手を汚す覚悟も必要なのだ。

「今度、二人には罠の作り方も教えておくよ。それと投げナイフとか、小技も時期を見て覚えていこう」
「それよりもさぁ、魔法の使い方教えてほしいかなー」
「あ、僕も思った。そっち教えてよ」
「魔法か。確かに武術の基礎は出来始めているが、どう思う」
「うーん……まぁ、頃合いと言えば頃合いか」

 魔法に関しては、武術の基礎を覚えてから教えるつもりだった。いっぺんに教えてしまうと、二人が混乱してしまうから。

「でも俺、魔法は感覚で使ってるから、教えられる自信ないんだよね」
「実を言うと、私もだ。理屈や原理は理解しているのだが……魔法に関しては「こうやってこう」としか教えられん」
「なんで?」
「人には向き不向きがあるという事だ。となれば、奴に頼るか」

 そんなわけで一行が向かった先は。

「って事で、二人に魔法を教えてくれないかな」
「なんでだよ」

 診療所である。回復魔法は緻密な魔力操作を要求する技術、それを使いこなせるエドウィンは、二人よりも魔法の使い方を熟知していた。

「なんで困ったらすぐ僕の所に来るんだ、せめて病気か怪我をしてから来い」
「馬鹿も病気の一種って事で」
「治せないから対象外だアホ。医者に暇な時間なんざあるわけないだろ、とっとと帰れ」
「ふむ、そうか。残念だ、まぁ当の本人に自信が無いのならば仕方ない。エドが上手く教えられないのであれば、我々でどうにかするしかあるまい」

「別に上手く教えられないとは言ってないだろ。単に面倒なだけだ」
「口だけでは何とでも言えるからなぁ。単に教えられなくて日和ってるだけかと」
「いーだろうやってやるよ! そこまで言われて黙ってられるかばっきゃろぉ!」

 エドの使い方、上手くなったなぁ。妻についてしみじみ思う夫であった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...