アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
186 / 207
3部

187話 母の、父の教え

しおりを挟む
 娯楽の少ないラコ村にとって、入浴日は最高の娯楽である。
 子供達は大喜びで湯船に浸かり、体を洗いっこした。アマトとガイの背中を流すミコを眺めながら、ナルガは長い息を吐いた。

「疲れが取れますね」
「全くだ。おい、風呂場で走るなよ。滑って転ぶぞ」
「気を付けまーす。母様こっち来て、わたしがお背中流しますね」
「そうか、では遠慮なく、頼まれるとしよう」

 ナルガは湯船から出ると、這うようにアマトへ向かった。義足を付けないと、思うように移動が出来ない。

「普段普通に歩いてらっしゃるから、意識しませんけど……やはり不便ですね」
「仕方あるまい、無くした物はもう戻らんからな。それに慣れた、今さらどうって事はない」
「ねぇ母様、どうして母様はこっちの足が無いの?」

 アマトの質問にミネバは息を呑む。ナルガは微笑を浮かべ、

「食いしん坊の熊さんにあげたのさ」
「そっかぁ、熊さんお腹空かせてたんだね」
「ああ、とてもな」

 上手い返し方だ。ミネバはほっとした。

「……いつかは、真実をお話されるのですか?」
「いいや、子供達には余計な憎しみや不安を抱かせたくない」

 ナルガの左足は、リナルドとミコにも事実を伏せている。自分が受けた苦痛を、後の世代まで引き継がせる必要はない。
 子供達が、同じ過ちを犯さぬよう見守るのが、親の務めなのだ。





「よーし流すぞー」

 一方の男湯。ハローはリナルドにお湯をかけ、髪を流した。
 義息子はぶるぶると頭を振って雫を払い、前髪をかき上げる。ハローに髪を洗ってもらい、リナルドは満足げだ。
 隣では、エドウィンがヴァンの髪を洗っていた。

「とーちゃん! おれもおれも!」
「へいへい、鼻つまめよー」

 父親にたっぷりとお湯をかけてもらい、ヴァンは嬉しそうだ。息子に懐かれるのは、父親として嬉しいものである。

「ねぇ父さん、僕はいつ剣を持てるの?」

 湯船に浸かっていたら、リナルドからそう聞かれた。
 ハローとナルガは、まだ二人に木刀しか持たせていない。子供らはそれが不満らしく、ぶーぶー文句を言っているのだが。

「二人が持つにはまだ早い」
「でもさっきの見ただろ? 僕だって魔物を倒せるようになったんだ。剣を持ったって……」
「その剣がどんな道具か、分からないわけはないよな」
「……人を殺す道具」

 魔剣の頃を思い返したか、リナルドは青ざめた。
 魔剣に居た頃、リナルドは大勢の生き血を吸ってきた。魔剣も聖剣と同等の力を持った武具、ひとたび持てば、多くの命を奪う物だ。

「剣術なんて格好つけた言い方しても、俺達が教えているのは殺し方だ。リナルドは魔物を倒せると得意げに語ったけど、言い換えれば人を容易に殺せるのを自慢してるようなもの。ああいう言い方をしている間は、剣を渡せないな」

 普段は甘いハローでも、時には厳しい一面を見せる。
 命を奪う行為は、人の心を壊す。自身が通った道だからこそ、リナルドには同じ過ちを繰り返させてはならないのだ。
 アルターと約束した、多くの命を奪った男が果たすべき責任だ。

「リナルドが得た力の意味、重み、それらを理解した時に、改めて剣を渡すよ。子供のうちは、持つべき物じゃない」
「ま、同感だな。心ぶっ壊したら僕でも治せないんだ、自分から患者になるような真似はするなよ」
「……はい」

 地獄を潜り抜けた二人の言葉は、リナルドに深く伝わっていた。
 彼は、大切な人を守るために力を付けている。だが実行するには、相応の覚悟も必要とする。
 リナルドが覚悟を受け止められた時には、とびきりの一振りを渡してあげよう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...