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3部
177話 「な、ど!」
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ミネバの予後は順調で、双子の健康状態も問題なし。エドウィンも肩の荷が下りた様子だった。
出産後のミネバは、ナルガが手伝った。その甲斐あってミネバはすぐに回復した。
「いきなりの双子で大変だろう、困った時は遠慮なく呼ぶといい」
「助かります、とても頼もしいです」
「お互い様だからな。これからも良き関係を築いていこう」
赤子を抱っこし、ミネバの顔は緩みっぱなしだ。エドウィンもぎこちない手つきで子を抱き、
「いざ抱いてみると、なんか恐いな……壊れやしないだろうな」
「おいおい、これまで何人も取り上げて来たのだろう」
「取り上げただけだ。その後の世話なんてした事ないからな、まだ慣れないんだよ」
「いずれ慣れる。あのハローもちゃんと父親の役目をはたしているのだ、エドに出来ぬ道理などあるまい」
「……確かに、あのハナタレに出来てるんだから、僕もできるか」
随分な言いようである。
ナルガが帰宅すると、そのハローはアマトとリナルドの面倒を見ていた。
「あ、おかえり。ねぇ見てナルガ」
「アマトがどうかしたのか?」
アマトの顔を覗き込むと、娘はナルガに手を伸ばし、もの言いたげに口を動かしている。
もしかして、言葉を発そうとしているのか?
「ずーっと俺とリナルドを見て、口をぱくぱくさせてるんだ。何か言おうとしているのかも」
「なんと……おいアマト、私が誰か分かるな? ママだぞ、マ、マ」
自分を呼んでほしくて、ナルガは自身を指さした。ハローも期待を込めてアマトを見つめている。
アマトはきょろきょろしてから、ふと、リナルドと目が合った。
きょとんとするリナルドに対し、アマトはにぱっと笑って、手を伸ばす。
「な、ど。な、ど!」
「え、僕?」
「な、ど!」
アマトはきゃっきゃと笑い、リナルドの指を握って、何度も「などなど」繰り返す。両親よりも、兄の名を呼んだのだ。
「ほう、リナルドを最初に呼ぶとは。いつも面倒を見てくれているのが分かるのだろう」
「ははっ、良かったなリナルド。アマトが「お兄ちゃん」って呼んでるぞ」
「お兄ちゃん」、蠱惑的な響きだ。リナルドはポッと頬を桜色に染めた。
アマトに握られた指を見つめ、リナルドはふと、シェリーを思い浮かべた。
ずっと疑問だったのだ、姉がどうして自分を守ってくれていたのか。
アマトに指を握られた時、途方もない愛おしさが湧いてきた。守ってあげたいと、本能的に思った。
きっと姉も同じ気持ちだったのだろう、リナルドを愛してくれたから、シェリーは命がけで助けてくれたのだ。
アマトを守らねば、兄として、妹のために強くならねば。
「お父さん、お母さん。お願いがあるの」
元勇者と、元魔王四天王。師匠として、これほどの人物は居ない。
「僕に、剣術を教えて」
アマトのために、強くなるんだ。
出産後のミネバは、ナルガが手伝った。その甲斐あってミネバはすぐに回復した。
「いきなりの双子で大変だろう、困った時は遠慮なく呼ぶといい」
「助かります、とても頼もしいです」
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赤子を抱っこし、ミネバの顔は緩みっぱなしだ。エドウィンもぎこちない手つきで子を抱き、
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「おいおい、これまで何人も取り上げて来たのだろう」
「取り上げただけだ。その後の世話なんてした事ないからな、まだ慣れないんだよ」
「いずれ慣れる。あのハローもちゃんと父親の役目をはたしているのだ、エドに出来ぬ道理などあるまい」
「……確かに、あのハナタレに出来てるんだから、僕もできるか」
随分な言いようである。
ナルガが帰宅すると、そのハローはアマトとリナルドの面倒を見ていた。
「あ、おかえり。ねぇ見てナルガ」
「アマトがどうかしたのか?」
アマトの顔を覗き込むと、娘はナルガに手を伸ばし、もの言いたげに口を動かしている。
もしかして、言葉を発そうとしているのか?
「ずーっと俺とリナルドを見て、口をぱくぱくさせてるんだ。何か言おうとしているのかも」
「なんと……おいアマト、私が誰か分かるな? ママだぞ、マ、マ」
自分を呼んでほしくて、ナルガは自身を指さした。ハローも期待を込めてアマトを見つめている。
アマトはきょろきょろしてから、ふと、リナルドと目が合った。
きょとんとするリナルドに対し、アマトはにぱっと笑って、手を伸ばす。
「な、ど。な、ど!」
「え、僕?」
「な、ど!」
アマトはきゃっきゃと笑い、リナルドの指を握って、何度も「などなど」繰り返す。両親よりも、兄の名を呼んだのだ。
「ほう、リナルドを最初に呼ぶとは。いつも面倒を見てくれているのが分かるのだろう」
「ははっ、良かったなリナルド。アマトが「お兄ちゃん」って呼んでるぞ」
「お兄ちゃん」、蠱惑的な響きだ。リナルドはポッと頬を桜色に染めた。
アマトに握られた指を見つめ、リナルドはふと、シェリーを思い浮かべた。
ずっと疑問だったのだ、姉がどうして自分を守ってくれていたのか。
アマトに指を握られた時、途方もない愛おしさが湧いてきた。守ってあげたいと、本能的に思った。
きっと姉も同じ気持ちだったのだろう、リナルドを愛してくれたから、シェリーは命がけで助けてくれたのだ。
アマトを守らねば、兄として、妹のために強くならねば。
「お父さん、お母さん。お願いがあるの」
元勇者と、元魔王四天王。師匠として、これほどの人物は居ない。
「僕に、剣術を教えて」
アマトのために、強くなるんだ。
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