アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
163 / 207
3部

164話 冬のある日

しおりを挟む
 今年の冬は寒く、朝の薪割は中々に辛い作業だ。ハローはそう思いながら、夜明け前の薄闇の中で薪割をしていた。
 春が近づいているはずなのに、中々寒さが引かないな。
 かじかむ手を息で温めながら、家族が凍えないよう、暖炉にくべる薪を作っていく。斧を振るっている間に体も温まり、ハローは半袖になった。寒いと言っていたのはなんだったのか。

 日が昇り、空が白んでいくのを見ていると、ナルガが起きて来た。ハローは彼女に駆け寄り、にこやかに「おはよう」と伝えた。

「今日も寒いな。ちゃんと上着を着なよ」
「説得力がない恰好で言われてもな。リナルドが真似したらどうする、風邪ひくぞ」
「今の所見られてないから大丈夫だよ。それと、君もおはよう」

 ハローはナルガのお腹を撫でた。ナルガの腹部は臨月で、すっかり大きくなっている。新しい家族と会えるのも、もうすぐだ。
 と、撫でている手に胎動が伝わった。なぜかハローはじんとし、顔をほころばせた。

「すぐ朝飯作るよ、ナルガは顔を拭いて来て」
「食事くらいはやらせろと言っているだろう」
「俺がやりたい気分なんだ。なんか、やる気が出ちゃって」
「産まれる前からこれでは、先が思いやられるな」

 ナルガは苦笑した。そしたらもぞもぞと、寝ていたリナルドも動き出す。ナルガは義息子に歩み寄って、頭を撫でた。

「リナルドも起きたか、寒くないか」
「ん……んぅ~……?」

 リナルドは寝ぼけていて、ナルガの手にすり寄った。ナルガがベッドに腰かけるなり、膝に乗っかって二度寝してしまう。
 甘えたがりなリナルドが愛しく、ナルガは毛布をかぶせた。これでは暫く動けない。

「リナルドの相手をしていていいか?」
「勿論さ。よぅし、リナルドが起きるまでに、作っちまうかぁ」

 ハローは指を鳴らし、料理に取り掛かった。
 いい匂いが満ちてくる頃に、リナルドも目が覚めてくる。ゆっくり頭を起こし、ナルガを見上げ、目を擦った。

「……おはよ、ござます」
「ああおはよう。もうすぐ朝餉が出来る、顔を拭いて来い」
「ふぁ~い……」

 ぽけっとしながら、リナルドは温めたタオルで顔を拭う。自分のことは自分でやる、ハローとナルガの決めたルールだ。
 リナルドの躾は、ナルガが子供の頃、魔王が彼女にしていた事を参考にしている。こうして子育ては継承されていくのだろう。

「魔王が立派なお父さんだったから助かるよ、俺、親からまともな躾を受けた事ないから、こういうの分からなくてさ」
「甘えさせるのと甘やかしは違う、そうおっしゃっていたんだ。他にも礼儀礼節やマナー、作法。リナルドに教えねばならぬ事は多いな」
「全部俺の知らない事ばっかりだなぁ……よく俺、勇者やれてたもんだ」

「周りがフォローしていたから問題ないだろう? 完璧な奴より、多少欠点がある奴は愛嬌がある。そっちの方が私は好きだぞ」
「いやぁ、なんか照れるな。よぅし、お父さん頑張っちゃうぞ!」

 ハロー家の一日は、こうやって始まるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...