アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

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3部

163話 雌伏の獣たち

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 国境沿いの森に隠れるように、集落が存在していた。
 村のやぐらで隣国の様子を伺っていた男は、小さなため息をつき、柵に寄りかかった。
 薄い灰色の髪をした、精悍な顔立ちの獣人である。目の下には深い隈が浮かび、表情は疲労感をにじませている。犬耳をぴくぴく動かし索敵していると、勝気そうな猫耳の女が上がって来た。

「見張りお疲れさん。どうだい?」
「今日も異常なしだ、もうそろそろ、残党狩りの心配をしなくていいかもしれないな」
「なら、ちょっとくらい気を抜いていいんじゃない? そんな気を張ってばかりじゃ疲れるよ。……ガンバ」

 ガンバと呼ばれた男は首を振った。
 この集落は、魔王軍残党が造った隠れ家だ。現在指揮を執っているのは、かつて四天王ナルガの副官を務めたガンバである。
 この集落は一部で、他に何か所も点在している。いつでも、勇者の居る国を多方面から攻められるように。
 敬愛する魔王を奪った国に復讐するため、各地で残党達は牙を研いでいた。

「ミック、他の村から連絡は?」
「とりあえず問題ないよ、皆無事さ。中には商売が上手い事行ってる所もあるみたいだ」
「本来の目的を忘れないでほしいもんだ。魔王様を亡き者にしたあの国を……ナルガ様を殺した……勇者オクトへの復讐が、俺達の目的なのだから……!」

 ガンバは拳を握りしめた。
 一年半も前、オクトによるナルガの訃報を聞いた時、ガンバは膝から崩れ落ちた。
 彼にとってナルガは、神に等しい存在だった。強く、気高く、凛々しい、彼の最も愛しい人。オクトはガンバから、生きる希望を奪った最悪の女である。
 オクトには、この上ない屈辱と絶望を与え、生き地獄を味わわせた上で殺してやる。

「殺気立つなよ、鳥が恐がる」
「あ、ああ。すまない」

 相棒の猫耳女、ミックに肩を叩かれ、ガンバは我に返った。
 今は雌伏の時だ。オクトは世界最強の女、聖剣を持った奴と真っ向から戦うなど、自殺行為でしかない。
 やぐらから降り、ガンバとミックは自宅へ戻った。

 魔王城から逃げる直前、二人は魔王の書物を持ち出していた。
 アラハバキは魔術の研究を趣味としていた。その中に、聖剣を封じるとある手段があった。
 これを使えば、オクトへの復讐が可能となる。

「オクトから聖剣を奪えれば、傾国も出来るはずだ。俺達には、切り札があるのだから」

 ガンバはちらりと、櫃を見やった。
 先代の勇者、ハローが打ち払った魔物のコアだ。ハローが火山に廃棄したはずが、噴火により火山岩と共に排出され、何の因果かガンバの手に渡ったのである。
 聖剣には、無尽蔵の魔力が封入されている。それを利用してコアを起動させれば、魔物を強化した状態で復活させられる。

 聖剣無きオクトなど、取るに足らない相手だ。猫に鈴をつけるような作戦だが、成功さえすれば、ナルガの無念を晴らせる。

「勇者を殺すため、勇者の遺品を使うか。ハローの倒した魔物を利用しなければならないとはな」

 ハローか、あいつが勇者のままだったら、ナルガ様も死なずに済んだだろうか。

「なぁ、ガンバ。本当にこいつを復活させるのか?」
「でないとオクトに勝てない。何か文句でも?」
「無いさ、無いけど……こんな無理してまで戦ってさ、魔王様やナルガ様は喜ぶのかな?」
「お前はお二人の無念を晴らさなくていいのか? 俺達の大事な人が殺されたんだぞ! お二人の未来全てを奪った奴らを俺は許せない! 許してはならないんだ!」

「分かったから、大声を出すなって。協力しないなんて言ってないだろ? 私はあんたを信じるよ、ただ……無理してほしくないだけなんだ。逃げてからずっとろくに寝てないし、笑った所だって、一度も見ていない。そんな張り詰めてたら、あんたが倒れちまうよ」
「心配かけて、悪いな。けど大丈夫だ、俺は、潰れない。ナルガ様の仇を討つまで……決して、倒れるものか」

 ガンバを支えているのは、オクトへの強大な復讐心。心にどす黒い炎を燃やし、ガンバは来るべき日を待ち続けた。
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