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3部
161話 天国への報告
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帰るなり、リナルドは眠ってしまった。
ミコにたっぷりと引き回されて疲れたのだろう、ナルガは安らかな寝顔を撫で、窓から景色を眺めた。
涼しい風が入ってきて、ナルガは目を閉じた。明日から気温は下がり、冬がやってくる。お腹の子を冷やさないようにしないと。
「そうだ、これ。この間の魔物を使って作ったんだ」
そう思うなり、ハローが新しい上着を出してきた。少し大きくて、お腹が大きくなったナルガでも問題なく着れる。
「前に使ってた上着、へたってたしね。これなら赤ちゃんもさむがらなくてすむよ」
「助かる。この子が産まれるのは、恐らく春の入り口か」
「暖かくて、いい時期になりそうだね。赤ちゃんの門出にぴったりだ」
ナルガは頷き、ハローの隣に座った。
そのまま肩にもたれかかる。ハローはうろたえ、赤らんだ。
「珍しいね、甘えてくるなんて」
「私にも寄りかかりたい時くらいある。リナルドも寝入った事だし、遠慮しないぞ。それとも、迷惑だったか」
「いやいや! むしろもっと甘えてきてほしいかな」
「ならば、肩を抱いてもらおうか」
ハローはおずおずと、妻を抱き寄せた。ナルガは安心し、ハローに頬を擦りつけた。
ナルガはハローの温かさが好きだ。彼に包まれるのが、何よりの至福である。子を宿した影響なのか、ハローが前よりも愛おしく思えた。
―あなたも今、幸せなんだね。
ふと、女の子の声が聞こえた。ナルガは顔を上げ、辺りを見渡した。
「今、誰か何か言ったか?」
「ああ、多分聖剣の声かな。俺に触れているから聞こえたのかもね」
「聖剣……まさか、シェリーか?」
「うん。手放してからも、俺と繋がってるのは知ってるでしょ? そのせいなのか、たまにシェリーが話しかけてくる時があるんだ。会話は出来なくて、一方通行なんだけどね」
「そうなのか、シェリーはどんな事を話してくる?」
「色々だよ。「私はこれ嫌い」とか、「ここの景色綺麗」とか、一言ずつ。俺を通して世界を見ているみたいでさ、勇者だった頃、凄く楽しそうにしてた記憶がある」
「……シェリーも解放してやりたいな。その上で、娘として引き取りたいものだ」
「そうだね……シェリーはどんな顔をしてるんだろう。リナルドのお姉さんだから、似てるのかな」
「ならば整った容姿をしているだろうな。リナルドの話を聞く限り、性格も良さそうだしな。ミコとも仲良くなれそうだ」
「ふふ、ワクワクが止まらないね」
―私も、二人の子供になりたいな。
またシェリーの声が聞こえた。ナルガは微笑み、お腹を撫でた。
……父上、私は今、とても幸せです。
剣を捨てる生活は充実していて、毎日心が満たされていきます。それに、私が母親になるなど、今でも信じられぬ思いです。
唯一の心残りは、貴方に孫の顔を見せられぬ事ですが……父上ならば、天国より見てくださっているでしょう。
「必ず、丈夫な子を産みます……」
「魔王に報告してたの?」
「ああ。今度手紙でも書いてみるか、天国に向けてのな」
「じゃあ俺も、一緒に綴ろうかな。ナルガを救ってくれてありがとうって伝えたいや」
「そうしてくれ、父上も喜ぶだろう」
夫婦のひと時を堪能しつつ、ナルガは空を見上げた。
群青の空に星々が、浮かび始めていた。
ミコにたっぷりと引き回されて疲れたのだろう、ナルガは安らかな寝顔を撫で、窓から景色を眺めた。
涼しい風が入ってきて、ナルガは目を閉じた。明日から気温は下がり、冬がやってくる。お腹の子を冷やさないようにしないと。
「そうだ、これ。この間の魔物を使って作ったんだ」
そう思うなり、ハローが新しい上着を出してきた。少し大きくて、お腹が大きくなったナルガでも問題なく着れる。
「前に使ってた上着、へたってたしね。これなら赤ちゃんもさむがらなくてすむよ」
「助かる。この子が産まれるのは、恐らく春の入り口か」
「暖かくて、いい時期になりそうだね。赤ちゃんの門出にぴったりだ」
ナルガは頷き、ハローの隣に座った。
そのまま肩にもたれかかる。ハローはうろたえ、赤らんだ。
「珍しいね、甘えてくるなんて」
「私にも寄りかかりたい時くらいある。リナルドも寝入った事だし、遠慮しないぞ。それとも、迷惑だったか」
「いやいや! むしろもっと甘えてきてほしいかな」
「ならば、肩を抱いてもらおうか」
ハローはおずおずと、妻を抱き寄せた。ナルガは安心し、ハローに頬を擦りつけた。
ナルガはハローの温かさが好きだ。彼に包まれるのが、何よりの至福である。子を宿した影響なのか、ハローが前よりも愛おしく思えた。
―あなたも今、幸せなんだね。
ふと、女の子の声が聞こえた。ナルガは顔を上げ、辺りを見渡した。
「今、誰か何か言ったか?」
「ああ、多分聖剣の声かな。俺に触れているから聞こえたのかもね」
「聖剣……まさか、シェリーか?」
「うん。手放してからも、俺と繋がってるのは知ってるでしょ? そのせいなのか、たまにシェリーが話しかけてくる時があるんだ。会話は出来なくて、一方通行なんだけどね」
「そうなのか、シェリーはどんな事を話してくる?」
「色々だよ。「私はこれ嫌い」とか、「ここの景色綺麗」とか、一言ずつ。俺を通して世界を見ているみたいでさ、勇者だった頃、凄く楽しそうにしてた記憶がある」
「……シェリーも解放してやりたいな。その上で、娘として引き取りたいものだ」
「そうだね……シェリーはどんな顔をしてるんだろう。リナルドのお姉さんだから、似てるのかな」
「ならば整った容姿をしているだろうな。リナルドの話を聞く限り、性格も良さそうだしな。ミコとも仲良くなれそうだ」
「ふふ、ワクワクが止まらないね」
―私も、二人の子供になりたいな。
またシェリーの声が聞こえた。ナルガは微笑み、お腹を撫でた。
……父上、私は今、とても幸せです。
剣を捨てる生活は充実していて、毎日心が満たされていきます。それに、私が母親になるなど、今でも信じられぬ思いです。
唯一の心残りは、貴方に孫の顔を見せられぬ事ですが……父上ならば、天国より見てくださっているでしょう。
「必ず、丈夫な子を産みます……」
「魔王に報告してたの?」
「ああ。今度手紙でも書いてみるか、天国に向けてのな」
「じゃあ俺も、一緒に綴ろうかな。ナルガを救ってくれてありがとうって伝えたいや」
「そうしてくれ、父上も喜ぶだろう」
夫婦のひと時を堪能しつつ、ナルガは空を見上げた。
群青の空に星々が、浮かび始めていた。
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