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148話 空前のベビーブーム

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 翌日、ナルガはリナルドを連れ添い、診療所を訪れた。
 若い農婦の先客が居り、エドウィンの診察を受けている。エドウィンは頬杖を突くと、

「おめでとさん、ご懐妊だ」
「本当ですか!?」

 農婦は喜び、足早に出ていく。エドウィンは肩を竦め、ため息を吐いた。

「全く、どいつもこいつも盛ってんじゃないよ。こっちの仕事が増えるだろうが」
「子供が増えるのはいい事ではないか」
「それ取り上げるの全部僕なんだけどな。お前らが原因だぞ、ったく」
「なぜだ?」

「お前らに当てられて、村の若い奴らが一斉に結婚し始めたんだよ。僕の事考えずに何してんだか」
「そう言うエドも結婚したではないか」
「そうですよ、エドさん」

 奥からミネバが顔を出した。自分もハローに当てられた側なので、エドウィンは何も言えない。

「いらっしゃいませナルガ様。体調はいかがです?」
「それなりだ。経過の診察、頼めるか」
「へいへい。元から予約してたしな」

 早速診察してもらい、すぐに「良好」と診断される。ナルガはほっとし、リナルドを抱え上げた。

「んで、リナルドはどうだ。ついでに聞いてやるよ」
「痛い所とかはないか?」
「う、うん、大丈夫」

 リナルドはナルガに縋った。リナルドはエドウィンが苦手なようで、顔を合わせる度距離を取られている。エドウィンは面倒そうにかぶりを振った。

「あのな、取って食おうなんて考えてないから、そう恐がるんじゃないよ」
「エドの言葉遣いが荒いからだろう。人から誤解されやすいのだから、少しは改めろ」
「うるせいやい」

 ナルガとエドウィンは気安く会話している。ミネバは二人の様子を眺め、小さく笑った。

「どうして笑ってるの?」
「いえ、なんだか嬉しいんです。お二人がそうしているのを見ると、そう思ってしまって」
「まー、僕自身も未だ信じられないからな。ナルガとこう、顔突き合わせて話すなんて、若い頃は想像もしてなかったよ」

「私も同じだ。悪い気はしないがな」
「はん、一応同意しといてやるよ」
「お母さんとお医者さん、喧嘩してたの?」

「まぁ、ちょっとな。リナルドがもう少し大きくなったら話そう。で、そっちはどうなんだ?」
「何が」
「子供だよ。予定はないのか?」
「人の家庭事情に首突っ込むなよ、余計なお世話。子供作るのだけが幸せってわけじゃないんだし」
「ご心配なさらずとも、ちゃんと考えていますから」

 ミネバはまた微笑み、エドウィンは赤ら顔で舌打ちした。
 どうやら、村人がまた近いうちに増えそうだ。
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