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3部

145話 ハローが勇者になった日

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 地響きに驚き、シェリーは目を覚ました。
 シェリーが封じられた聖剣は、王都の教会に安置されているのだが、倒壊して崩れてしまっている。シェリーはがれきに埋もれてしまい、外では激しい地震が世界を揺らし、人々が逃げ惑い、悲鳴を上げていた。
 聖剣の中から、シェリーは人々に危機が迫っているのに気付いた。それも聖剣の所有者、勇者でなければ対処できないほどの危機が、だ。

 今この国には勇者が居ない、シェリーが相応しいと思う人は、もう何十年も現れていないのだ。
 聖剣の持ち主はシェリーが決めている。彼女が相応しいと思った人物が、この剣の力を振るう資格を持つ。でも、聖剣を求める人は皆私利私欲に溢れていて、とても自身を預ける気にはなれなかった。
 でも今はそんな事を言っている場合じゃない。

――誰か、私を使って。困っている人を、助けて。

「……今、誰か?」

 シェリーの声は、一人の若者に届いた。たまたま教会の傍を通りかかった、十五歳の少年だ。

「ぼさっとすんな! 早く避難所に逃げるぞ!」
「待ってくれエド、教会から声がした。逃げ遅れた人が居るのかも」
「まさか助ける気か、そんな事してたらお前まで潰されるぞ!」
「目の前で苦しんでる人を見捨てられないよ!」

 少年は制止を振り切り、シェリーの下までやってきた。がれきを押しのけ、少年が相対した。
 瞬間、シェリーは直感した。聖剣になってから、彼女はその人の心を見通す力を手にしている。彼はこれまで出会った誰よりも、透き通った心を持っていた。

「これ、聖剣……前、祭りの時に見た奴だ」
「国宝投げ出す程、教会も慌ててたってわけか。無理ないな、あんな化け物を前にしちゃ」

 眼鏡をかけた青年は空を見上げた。
 そこには、山のように大きな巨人が居た。傍若無人に王都と人々を踏みつぶし、暴虐の限りを尽くしている。
 巨人は少年に迫っていて、道中に逃げ遅れた女の子が倒れている。彼女が潰されそうになるのを見るなり、少年は聖剣を手に取った。

「おい馬鹿! そんなもんであれを倒せるわけ……待てハロー!」

 少年……ハローは聞かなかった。自分の危険も顧みず、真っ直ぐに人を助けようとするハローを、シェリーはすっかり気に入ってしまった。
 この人なら、私を使う資格がある。

「その子から、離れろ!」

 シェリーはハローに呼応し、莫大な力を放出した。
 たった一振りで巨人を吹き飛ばし、ハローと青年は驚愕した。聖剣の中でシェリーは胸を張り、刀身を点滅させた。

――ハローって言うのね、これからよろしく!
「え? あ、うん。よろしく」
「どうしたよ?」
「いや、この剣が……俺に話しかけたような気がしてさ」

 ハローは優しく微笑み、シェリーはより彼を気に入った。
 この人とずっと、一緒に居れたらいいな。
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