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2部
135話 アルターが産まれた理由
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誰かに呼ばれた気がして、ハローは目を覚ました。
ハローは自宅のベッドに寝ていた。体を起こすなり、ナルガが抱き着いてくる。妻はハローの肩に顔を埋め、嗚咽を漏らした。
「馬鹿者……! なんでこんな無茶を……!」
「ナルガ……ごめん、心配かけたね」
「心配かけたねじゃないだろこの野郎!」
今度はエドウィンに殴られた。彼も目元が腫れて、泣いた痕があった。
「オクトが居なかったら死んでたぞ! なんでお前は僕らを考えない!? お前の勝手な行動でどれだけの人が悲しむと思ってんだ!」
何も言えず、ハローは言い淀んだ。
「でもよかった、目を覚まして。オクト様、本当に助かりました」
「いえ、先代を守れないなんて、勇者として不覚の至り……申し訳ございません」
ハローのために、ナルガ達は心から心配してくれていた。いつから俺は、皆の姿が見えなくなっていた? ナルガのお腹に居る、まだ見ぬ我が子の事も、いつから忘れていた?
「リナルドは?」
「そこだ」
ナルガが示す先には、頭を抱えたリナルドが居た。
体を震わせて泣き続け、何度も「ごめんなさい」と言い続けている。ハローはリナルドに歩み寄った。
「どうしたんだ、そんなに震えて」
「僕が……僕が来たから、怪物が来ちゃったんだ……僕が来なければ、ハローが危ない目に遭わずにすんだのに……僕のせいだ……僕のせいで、ハローが死んじゃうんだ……」
「おいおい、勝手に殺すなよ」
「でも! また満月が来たら、出てくるんだよ! ハローでも、勇者さんでも勝てないのに! 僕が来たせいで、皆危ない目に遭っちゃうんだ!」
リナルドを慰める言葉が出てこない。己の軽率さを悔い、ハローはかぶりを振った。
「オクト、アルターについて分かった事、ない?」
「あります。ありますが、リナルド君の前では」
オクトは聖剣を握った。リナルドは聖剣を目にし、息を呑んだ。
「おねえ……ちゃん?」
リナルドは聖剣に触れた。瞬間、リナルドの手に、人の温もりが伝わった。
「あ……うわああああああああああああっ!」
リナルドは発狂し、外へ飛び出してしまった。ミネバとナルガが慌てて追いかけていく。
「今のって」
「記憶が全部、戻ったんじゃないか。その剣、リナルドの家族が入ってるんだろ」
「はい、リナルド君とその姉、シェリー。五百年前、二振りの剣を造るために連れてこられた孤児です」
聖剣に触れた事で姉と繋がってしまい、その刺激で全ての記憶が戻ったようだ。
「聖剣は数多の人体実験を重ねて造られた武具で、この二人が唯一の成功例だったそうです。その他はどれも、アルター化なる現象によって失敗したそうです」
「アルター化?」
「聖剣と魔剣は膨大な力を安定させるため、魔力で繋げて力を循環させています。ですが動力に生きた子供を使った副作用で、使用者の感情を反映させる現象が起こったそうです」
「……どういう事?」
「例えば、片方の剣の持ち主が、激しい怒りや憎しみを抱いた場合。もう一方の剣にもその感情が流れてしまうんです。するともう一方の剣に宿った子供が激しく反応してしまい、魔力を瞬間的に増大させてしまうのですが、その総量は武具の耐久値を大幅に超えてしまうんです」
「それ壊れるよな」
「ええ、問題はそこからです。武具に収まらない程の魔力は外へ飛びだし、所有者と同質の意志を持ってしまうんです。元となった感情が憎悪ですから、魔力は怪物と化して被害を出します。それが、アルター化です」
「武具が壊れるから、封じてた人間も一緒に飛び出すわけか。これでリナルドが出て来た理由も、アルターの正体も分かったな」
「俺の憎悪から生まれた怪物だな。でも、聖剣と魔剣は成功例だよな。ならアルター化は起こらないんじゃ」
「魔剣でも耐えきれないほどの憎悪が聖剣に送られたならありえます。先代、心当たりはありませんか?」
「……ある、一つだけ」
それは、冬のウルチ事件だ。
あの時ハローは、目の前でナルガを殺された。その時の憎悪と憤怒は、人生の中で一番の物だっただろう。
聖剣はハローとの繋がりを維持しており、ハローの感情が魔剣に伝わってしまったのだ。結果、彼の感情に耐えきれず、アルターを生み出してしまった。これが事の真相である。
ハローは自宅のベッドに寝ていた。体を起こすなり、ナルガが抱き着いてくる。妻はハローの肩に顔を埋め、嗚咽を漏らした。
「馬鹿者……! なんでこんな無茶を……!」
「ナルガ……ごめん、心配かけたね」
「心配かけたねじゃないだろこの野郎!」
今度はエドウィンに殴られた。彼も目元が腫れて、泣いた痕があった。
「オクトが居なかったら死んでたぞ! なんでお前は僕らを考えない!? お前の勝手な行動でどれだけの人が悲しむと思ってんだ!」
何も言えず、ハローは言い淀んだ。
「でもよかった、目を覚まして。オクト様、本当に助かりました」
「いえ、先代を守れないなんて、勇者として不覚の至り……申し訳ございません」
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「リナルドは?」
「そこだ」
ナルガが示す先には、頭を抱えたリナルドが居た。
体を震わせて泣き続け、何度も「ごめんなさい」と言い続けている。ハローはリナルドに歩み寄った。
「どうしたんだ、そんなに震えて」
「僕が……僕が来たから、怪物が来ちゃったんだ……僕が来なければ、ハローが危ない目に遭わずにすんだのに……僕のせいだ……僕のせいで、ハローが死んじゃうんだ……」
「おいおい、勝手に殺すなよ」
「でも! また満月が来たら、出てくるんだよ! ハローでも、勇者さんでも勝てないのに! 僕が来たせいで、皆危ない目に遭っちゃうんだ!」
リナルドを慰める言葉が出てこない。己の軽率さを悔い、ハローはかぶりを振った。
「オクト、アルターについて分かった事、ない?」
「あります。ありますが、リナルド君の前では」
オクトは聖剣を握った。リナルドは聖剣を目にし、息を呑んだ。
「おねえ……ちゃん?」
リナルドは聖剣に触れた。瞬間、リナルドの手に、人の温もりが伝わった。
「あ……うわああああああああああああっ!」
リナルドは発狂し、外へ飛び出してしまった。ミネバとナルガが慌てて追いかけていく。
「今のって」
「記憶が全部、戻ったんじゃないか。その剣、リナルドの家族が入ってるんだろ」
「はい、リナルド君とその姉、シェリー。五百年前、二振りの剣を造るために連れてこられた孤児です」
聖剣に触れた事で姉と繋がってしまい、その刺激で全ての記憶が戻ったようだ。
「聖剣は数多の人体実験を重ねて造られた武具で、この二人が唯一の成功例だったそうです。その他はどれも、アルター化なる現象によって失敗したそうです」
「アルター化?」
「聖剣と魔剣は膨大な力を安定させるため、魔力で繋げて力を循環させています。ですが動力に生きた子供を使った副作用で、使用者の感情を反映させる現象が起こったそうです」
「……どういう事?」
「例えば、片方の剣の持ち主が、激しい怒りや憎しみを抱いた場合。もう一方の剣にもその感情が流れてしまうんです。するともう一方の剣に宿った子供が激しく反応してしまい、魔力を瞬間的に増大させてしまうのですが、その総量は武具の耐久値を大幅に超えてしまうんです」
「それ壊れるよな」
「ええ、問題はそこからです。武具に収まらない程の魔力は外へ飛びだし、所有者と同質の意志を持ってしまうんです。元となった感情が憎悪ですから、魔力は怪物と化して被害を出します。それが、アルター化です」
「武具が壊れるから、封じてた人間も一緒に飛び出すわけか。これでリナルドが出て来た理由も、アルターの正体も分かったな」
「俺の憎悪から生まれた怪物だな。でも、聖剣と魔剣は成功例だよな。ならアルター化は起こらないんじゃ」
「魔剣でも耐えきれないほどの憎悪が聖剣に送られたならありえます。先代、心当たりはありませんか?」
「……ある、一つだけ」
それは、冬のウルチ事件だ。
あの時ハローは、目の前でナルガを殺された。その時の憎悪と憤怒は、人生の中で一番の物だっただろう。
聖剣はハローとの繋がりを維持しており、ハローの感情が魔剣に伝わってしまったのだ。結果、彼の感情に耐えきれず、アルターを生み出してしまった。これが事の真相である。
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