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2部
120話 ストレスとトリガー
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その日の夜、ハローはエドウィン夫婦を招いて、少し豪華な夕食を摂った。
ミネバの歓迎会を兼ねた夕飯で、リナルドも喜んでくれた。でもやはり、昼間の豹変が気になった。
リナルドは疲れたのか、早めに寝てしまう。ナルガがリナルドを寝かしつけたのを見届けて、ハローはエドウィンに昼間の事を話した。
「あの怯え方、どう考える?」
「多分だけど、記憶が一瞬戻ったのかもしれないな。だけど、内容があまりにも酷すぎて、拒絶反応を起こした。そんな所じゃないか」
「確かに、凄く怯えていたね。何度も「ごめんなさい」って、うわ言の様に言い続けて」
ハローは拳を握りしめた。ナルガはリナルドの髪を撫で、
「リナルドが持ってきた剣は、聖剣と繋がりがあるようだった。リナルドの記憶は、あの剣によって封じられているのだろうか」
「聖剣は神が造った神器、とも言われてるしね。もしかしてリナルドは特別な血族や種族で、意図的に記憶を消す必要があったのかも」
「小説の読みすぎだ。診察した時に魔力の残渣は無かったから剣は何の関係も無い。血液検査もしたけど普通の人間、ハローがあの剣を使った時点で、剣に纏わる血族の線もない」
「言われてみれば、オクトが握った時にも反応があったし、私も何度か振るってみたが、その際も問題なく使えたな」
剣は誰が使っても効果を発揮できる。この時点でリナルドの特別性は消失していた。
「第一聖剣だろうが、元は人が造った物だ。神話なんざ昔人のプロパガンダに過ぎない。リナルドと剣の関わりが薄い以上、記憶を失ったのは、もっと現実的な理由があるからだ」
「と、言いますと」
「強すぎる恐怖や苦痛は、脳が防衛本能で記憶を消す事があるらしい。リナルドの記憶喪失は多分それだ。子供では背負いきれない程のショックを受けて、体が拒否しているのさ」
リナルドは決して、特別な人間ではない。ごく普通の少年だ。
彼の過去に存在するのは、神話のような物語ではなく……より残酷な現実である。
「この子の過去に何があったのか、気になるところだが……思い出させないほうがいいのかもしれんな」
「そうですね……リナルド君には、酷だと思います」
「やれやれ、怪物に関する唯一の手掛かりなんだが……無理強い出来ないしな」
「そもそも、どうして急に記憶が戻ったんだろう」
エドウィンは腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「……記憶が戻るには、何かしらのきっかけが必要だ。例えば、失った記憶に関連する経験をしたり、光景を見たり、言葉を聞いたり。あとは、関係する感情がトリガーになるとかな。リナルドの様子から察するに、強いストレスが鍵になってるのかもしれない」
「ストレスか。あの怯えようからして、不安や恐怖がトリガーになっているようだな」
「もしそうだとしたら、リナルド君は、相当な虐待を受けていたのではないでしょうか」
ミネバの推察に、ハロー達は押し黙った。
寝息を立てるリナルドは、苦しそうな表情を浮かべている。悪夢を見ているのかもしれない。
「僕らがあれこれ議論した所でどうしようもないだろ。リナルドの記憶はリナルドがどうにかするしかないんだ」
「それはそうだけど、俺達に出来る事があるなら、してやりたい」
「……ま、やれるだけやってみな」
エドウィンとミネバを見送り、ハローとナルガはリナルドの傍に寄り添った。
何があろうと、この子は守らねばならない。二人はそう思っていた。
ミネバの歓迎会を兼ねた夕飯で、リナルドも喜んでくれた。でもやはり、昼間の豹変が気になった。
リナルドは疲れたのか、早めに寝てしまう。ナルガがリナルドを寝かしつけたのを見届けて、ハローはエドウィンに昼間の事を話した。
「あの怯え方、どう考える?」
「多分だけど、記憶が一瞬戻ったのかもしれないな。だけど、内容があまりにも酷すぎて、拒絶反応を起こした。そんな所じゃないか」
「確かに、凄く怯えていたね。何度も「ごめんなさい」って、うわ言の様に言い続けて」
ハローは拳を握りしめた。ナルガはリナルドの髪を撫で、
「リナルドが持ってきた剣は、聖剣と繋がりがあるようだった。リナルドの記憶は、あの剣によって封じられているのだろうか」
「聖剣は神が造った神器、とも言われてるしね。もしかしてリナルドは特別な血族や種族で、意図的に記憶を消す必要があったのかも」
「小説の読みすぎだ。診察した時に魔力の残渣は無かったから剣は何の関係も無い。血液検査もしたけど普通の人間、ハローがあの剣を使った時点で、剣に纏わる血族の線もない」
「言われてみれば、オクトが握った時にも反応があったし、私も何度か振るってみたが、その際も問題なく使えたな」
剣は誰が使っても効果を発揮できる。この時点でリナルドの特別性は消失していた。
「第一聖剣だろうが、元は人が造った物だ。神話なんざ昔人のプロパガンダに過ぎない。リナルドと剣の関わりが薄い以上、記憶を失ったのは、もっと現実的な理由があるからだ」
「と、言いますと」
「強すぎる恐怖や苦痛は、脳が防衛本能で記憶を消す事があるらしい。リナルドの記憶喪失は多分それだ。子供では背負いきれない程のショックを受けて、体が拒否しているのさ」
リナルドは決して、特別な人間ではない。ごく普通の少年だ。
彼の過去に存在するのは、神話のような物語ではなく……より残酷な現実である。
「この子の過去に何があったのか、気になるところだが……思い出させないほうがいいのかもしれんな」
「そうですね……リナルド君には、酷だと思います」
「やれやれ、怪物に関する唯一の手掛かりなんだが……無理強い出来ないしな」
「そもそも、どうして急に記憶が戻ったんだろう」
エドウィンは腕を組み、眉間に皺を寄せた。
「……記憶が戻るには、何かしらのきっかけが必要だ。例えば、失った記憶に関連する経験をしたり、光景を見たり、言葉を聞いたり。あとは、関係する感情がトリガーになるとかな。リナルドの様子から察するに、強いストレスが鍵になってるのかもしれない」
「ストレスか。あの怯えようからして、不安や恐怖がトリガーになっているようだな」
「もしそうだとしたら、リナルド君は、相当な虐待を受けていたのではないでしょうか」
ミネバの推察に、ハロー達は押し黙った。
寝息を立てるリナルドは、苦しそうな表情を浮かべている。悪夢を見ているのかもしれない。
「僕らがあれこれ議論した所でどうしようもないだろ。リナルドの記憶はリナルドがどうにかするしかないんだ」
「それはそうだけど、俺達に出来る事があるなら、してやりたい」
「……ま、やれるだけやってみな」
エドウィンとミネバを見送り、ハローとナルガはリナルドの傍に寄り添った。
何があろうと、この子は守らねばならない。二人はそう思っていた。
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