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2部
119話 忌まわしき記憶
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リナルドが遊び疲れる頃、荷ほどきが終わったのか、ナルガ達がやってきた。
エドウィンはげんなりしている。よほどきつくナルガに説教をされたようだ。
「なぁハロー……お前の嫁どんだけリナルド溺愛してるわけ……?」
「次からは気を付けなよ。それより悪いね、手伝い出来なくて」
「いえいえ、荷物はあまり多くありませんから。リナルド君は、あら。ミコちゃん達と遊んでいたんですね」
「そうだよ! ミコの方がお姉さんだから、リナルドのお世話をしてたの!」
ミコは胸を張った。弟分が増えたのが嬉しいようだ。
ナルガはリナルドとミコの頭を撫で、ふと思い出したように、
「ところで、オクトからの連絡はまだ無いようだな」
「剣と怪物についてだな。あれ以来、化け物も出てこないんだろ」
「リナルドの話からすると、満月の日が危険らしいんだ。今の所出てくる気配もないから、多分次の満月がターニングになると思う」
「月明りには魔力を高める効力がある、闇の力を持つならなおさらだ。だが出没のタイミングが予想できるのはむしろ好都合だ」
「心の準備が出来るからね。次に出て来た時は、俺が何とかする」
「まぁリナルドの記憶が戻るのが一番楽なんだけどな。あれからどうだ、何か思い出した事はあるか?」
エドウィンに聞かれ、リナルドは困ってしまった。
リナルドも懸命に思い出そうとしているのだが、頑張っても記憶は蘇らない。記憶が戻ればハローの役に立てるのに、なんて自分はダメな奴なんだ。
これだから、役立たず、って呼ばれちゃうんだ。
「あ……え……」
不意に、リナルドの頭に、数多の声が聞こえ始めた。
『お前なんか生まれてこなければよかったんだ!』
『この役立たず! 生きる価値のないクソガキ!』
『なんでお前は生きているんだよ!』
女性からの罵声が脳裏で反響し、リナルドは頭を抱えた。
冷や汗が滝のように流れ、体が震えてくる。リナルドはうずくまり、泣きだした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「リナルド? どうした?」
「ひっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
リナルドは錯乱し、必死に謝罪し続けた。
頭に、黒塗りの女性から暴力を受ける光景がいくつも浮かんでくる。叩かれてないのに体中に痛みが走って、リナルドは悲鳴を上げた。
『リナルド!』
ハローとナルガが抱きしめられ、リナルドは我に返った。二人の温かさが、リナルドを現実に戻していた。
とても恐くて、涙が止まらない。二人にしがみつき、リナルドはぐすぐす泣き続けた。
「大丈夫だ、俺達がここに居る。恐い奴なんか誰もいないよ」
「リナルドは独りじゃない、私達が必ず、守ってやる」
「うっ……うっ……うぅぅぅ……!」
二人の優しさに救われ、リナルドは何度も頷いた。
思い出したのは、女性に殴られるだけじゃない。リナルドはかつて、暗い部屋で手足を縛り上げられ、口枷を嵌められた状態で……得体の知れない薬を打ち込まれ、体を切り刻まれた事があったらしい。
『どうだ? 痛いか? そうか痛いか。ではもっと痛くしてみよう』
『涙が出る内はまだ元気だな。ではもっと頑張ってみよう。投薬追加』
『大丈夫大丈夫、感覚があるならまだ幸せだ。そうだな、ふざけついでに爪を剝ぐか』
心無い、でもどこか楽しそうに、そいつらはリナルドを痛めつけた。
ボロ雑巾のようになったリナルドは檻に閉じ込められ、苦痛に涙を流すしか出来ずにいた。
でも、独りぼっちではなかった。
『泣かないで……私がリナルドを、助けるから……』
沢山の恐い人からリナルドを庇う、少女の姿が浮かんだ。唯一、リナルドを抱きしめ、心の支えとなってくれていた女の子が居たのだ。
ボロボロの姿でリナルドを守る少女は、儚げに微笑んでいた。
エドウィンはげんなりしている。よほどきつくナルガに説教をされたようだ。
「なぁハロー……お前の嫁どんだけリナルド溺愛してるわけ……?」
「次からは気を付けなよ。それより悪いね、手伝い出来なくて」
「いえいえ、荷物はあまり多くありませんから。リナルド君は、あら。ミコちゃん達と遊んでいたんですね」
「そうだよ! ミコの方がお姉さんだから、リナルドのお世話をしてたの!」
ミコは胸を張った。弟分が増えたのが嬉しいようだ。
ナルガはリナルドとミコの頭を撫で、ふと思い出したように、
「ところで、オクトからの連絡はまだ無いようだな」
「剣と怪物についてだな。あれ以来、化け物も出てこないんだろ」
「リナルドの話からすると、満月の日が危険らしいんだ。今の所出てくる気配もないから、多分次の満月がターニングになると思う」
「月明りには魔力を高める効力がある、闇の力を持つならなおさらだ。だが出没のタイミングが予想できるのはむしろ好都合だ」
「心の準備が出来るからね。次に出て来た時は、俺が何とかする」
「まぁリナルドの記憶が戻るのが一番楽なんだけどな。あれからどうだ、何か思い出した事はあるか?」
エドウィンに聞かれ、リナルドは困ってしまった。
リナルドも懸命に思い出そうとしているのだが、頑張っても記憶は蘇らない。記憶が戻ればハローの役に立てるのに、なんて自分はダメな奴なんだ。
これだから、役立たず、って呼ばれちゃうんだ。
「あ……え……」
不意に、リナルドの頭に、数多の声が聞こえ始めた。
『お前なんか生まれてこなければよかったんだ!』
『この役立たず! 生きる価値のないクソガキ!』
『なんでお前は生きているんだよ!』
女性からの罵声が脳裏で反響し、リナルドは頭を抱えた。
冷や汗が滝のように流れ、体が震えてくる。リナルドはうずくまり、泣きだした。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「リナルド? どうした?」
「ひっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
リナルドは錯乱し、必死に謝罪し続けた。
頭に、黒塗りの女性から暴力を受ける光景がいくつも浮かんでくる。叩かれてないのに体中に痛みが走って、リナルドは悲鳴を上げた。
『リナルド!』
ハローとナルガが抱きしめられ、リナルドは我に返った。二人の温かさが、リナルドを現実に戻していた。
とても恐くて、涙が止まらない。二人にしがみつき、リナルドはぐすぐす泣き続けた。
「大丈夫だ、俺達がここに居る。恐い奴なんか誰もいないよ」
「リナルドは独りじゃない、私達が必ず、守ってやる」
「うっ……うっ……うぅぅぅ……!」
二人の優しさに救われ、リナルドは何度も頷いた。
思い出したのは、女性に殴られるだけじゃない。リナルドはかつて、暗い部屋で手足を縛り上げられ、口枷を嵌められた状態で……得体の知れない薬を打ち込まれ、体を切り刻まれた事があったらしい。
『どうだ? 痛いか? そうか痛いか。ではもっと痛くしてみよう』
『涙が出る内はまだ元気だな。ではもっと頑張ってみよう。投薬追加』
『大丈夫大丈夫、感覚があるならまだ幸せだ。そうだな、ふざけついでに爪を剝ぐか』
心無い、でもどこか楽しそうに、そいつらはリナルドを痛めつけた。
ボロ雑巾のようになったリナルドは檻に閉じ込められ、苦痛に涙を流すしか出来ずにいた。
でも、独りぼっちではなかった。
『泣かないで……私がリナルドを、助けるから……』
沢山の恐い人からリナルドを庇う、少女の姿が浮かんだ。唯一、リナルドを抱きしめ、心の支えとなってくれていた女の子が居たのだ。
ボロボロの姿でリナルドを守る少女は、儚げに微笑んでいた。
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