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2部

102話 やきもち

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 結局初日は何も出来ず、オクトは教会へ戻る事になってしまった。
 でもまだまだ始まったばかりだ、明日以降もチャンスはある。ミネバに連れ添われながら、オクトは次なる作戦を考えていた。
 そんな彼女の思惑はつゆ知らず、ハローは呑気に彼女を見送り帰宅した。

「楽しかったな、久しぶりの客だし」
「まぁ、そうだな。多少気になる点はあったが」

 ハローは気づかなかったようだが、流石にナルガは、時折オクトからの鋭い視線を感じていた。
 どうも彼女は強い嫉妬を抱いていたようだ。それだけでナルガは、オクトの狙いに気付いていた。

 ……奴め、私からハローを奪う気か。

 どうやら、以前の謝罪はフェイクだったようだ。ハローにいい恰好をしようとしただけ、と言うわけか。
 オクトからの宣戦布告を受け、ナルガは息巻いた。そっちがその気なら、受けて立つまでだ。戦士としては敗北したが、女として……特にハローの妻として、負けるわけにはいかない。

 ま、勝つ気しかしないがな。

 普通の男ならまだしも、ハローの取り合いならばオクトに勝ち目などない。妻のアドバンテージを存分に活用させてもらおう。

「おい、ハローよ。仕方ないと言え、今日は私以外の女と随分楽し気にしていたな」
「それは申し訳ないけど、一応ほら、お客さんだしさ」
「だとしてもだ。私をほったらかしにしたのだから、言い訳など聞きたくない」

 ハローに詰め寄り、胸倉をつかんだ。一度動き出すと、もう止められない止まらない。
 旦那に他の女がべたついていたのが、物凄く腹立たしく思えてきた。要するに嫉妬である。浮気されたような気がして、ナルガは酷くむかついていた。

「埋め合わせはしてもらうぞ、いいな?」
「させてもらうよ。それにしても……ふふ」
「何をへらへらしているんだ」

「いや、ナルガがやきもち妬いてくれてるのがなんか、嬉しいんだ。俺が好きだから妬いてくれてるんでしょ? なんか凄く、幸せな気持ちになるな」
「自分の立場が分かっているのかお前は」

 つい腹を叩いてしまった。本当にこの男は、迂闊な発言ばかりする。

「明日診療所送りにしてやる、せいぜい覚悟しろ」
「またエドに白い目で見られちゃうかな、これは……」

 言いつつハローは、ナルガに身を任せた。
 ハローは絶対に渡さないと意気込むナルガだが、元より無用な心配である。一体何年彼がナルガを想い続けているのか、彼女は忘れたのだろうか。
 心が壊れても、一途に恋心を抱き続けた相手を、ハローが手放すはずがないだろう。
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