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77話 二人だけの結婚式
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事件後、ラコ村の復興は早かった。
近隣の村が助けてくれたし、オクトの呼びかけですぐに支援が来てくれた。加えてオクトが早く来てくれたおかげで備蓄庫に被害が無く、薬や食料が無事だったのも大きかった。
燃えた家々はあっという間に元通りになり、怪我人もすぐに回復した。ウルチの起こした事件は規模こそ大きかったが、被害は非常に小さく終わっていた。
ウルチに振り回されている内に冬も終わり、春が近づいてくる。ハローはナルガと共に森へ見回りに出ていた。
「気分がいい物だな、木々にもつぼみが出始めている」
「もう少し温かくなると、綺麗な花でいっぱいになるよ。きっとナルガも気に入るはずさ」
「楽しみが絶えないな。やはりここは、いい場所だ」
ナルガは朗らかに微笑んでいる。彼女の心の傷は、すっかり癒えたようだ。
ハローは目を細め、つと、タンポポが咲いているのに気付いた。
「ねぇナルガ、今でもラコ村から出ようって、思ってる?」
「さて、どうするかな。出ていくには、あまりにも居心地が良くなりすぎた。友人や子供達に恵まれ、労働にも生き甲斐を感じ始めている。ここよりいい場所が果たして、他にあるだろうか。しかし、いつまでもハローの世話になるわけには、いかないだろう」
「俺はいくらでも構わないよ。傍に居てくれた方が、とても嬉しいんだ」
ハローはタンポポを摘むと、茎を結び始めた。
「覚えてる? 前にさ、俺を「大切な人」だって言ってくれたの」
「さて、どうだったか」
ナルガはふいと目を逸らしたが、耳が赤くなっている。
ハローは懸命にナルガを支え、彼女を守るべく己を犠牲にしてまで戦い続け、何度も彼女への想いを口にした。
真っ直ぐひたむきな姿が、ナルガに響かぬわけもなく。いつしかハローの隣が、彼女の居場所となっていた。
「あの時は必死で、頭に入らなかったけど……思い出したらさ、顔がついふやけちゃうんだ。君の大切な人になれたんだって」
「否定はしない」
「最高の返事だよ。……俺も、君が世界で一番大切だ、この世の誰よりも君を愛している。君と離れたくない、君も同じなんじゃないか」
ハローはそっと、ナルガから離れた。するとナルガはハローを追いかけ、必死になって彼の手を握りしめた。
彼女がはっとするも、もう遅い。かぁと頬を染めるナルガは、とても愛らしかった。
「ほらね。だから、さ。この仮初の関係を、止めようと思うんだ」
ハローはナルガの左手を取り、薬指にタンポポの指輪を通した。
「偽りじゃなくて、本物の夫婦になろう。順序が逆になってしまったけど、俺と結婚、してくれませんか?」
「はは……本当にお前は、どこまでも馬鹿な奴だ。私なんぞで、構わんのか?」
ナルガは涙を拭い、ハローに抱き着いて、
「末永く頼むぞ、婿殿」
頭を抱え、深いキスをした。
森の奥深く、木漏れ日が降り注ぐ中、二人だけのささやかな結婚式。互いを強く求め、抱き合う二人の笑顔には、幸せで満ち溢れていた。
近隣の村が助けてくれたし、オクトの呼びかけですぐに支援が来てくれた。加えてオクトが早く来てくれたおかげで備蓄庫に被害が無く、薬や食料が無事だったのも大きかった。
燃えた家々はあっという間に元通りになり、怪我人もすぐに回復した。ウルチの起こした事件は規模こそ大きかったが、被害は非常に小さく終わっていた。
ウルチに振り回されている内に冬も終わり、春が近づいてくる。ハローはナルガと共に森へ見回りに出ていた。
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「もう少し温かくなると、綺麗な花でいっぱいになるよ。きっとナルガも気に入るはずさ」
「楽しみが絶えないな。やはりここは、いい場所だ」
ナルガは朗らかに微笑んでいる。彼女の心の傷は、すっかり癒えたようだ。
ハローは目を細め、つと、タンポポが咲いているのに気付いた。
「ねぇナルガ、今でもラコ村から出ようって、思ってる?」
「さて、どうするかな。出ていくには、あまりにも居心地が良くなりすぎた。友人や子供達に恵まれ、労働にも生き甲斐を感じ始めている。ここよりいい場所が果たして、他にあるだろうか。しかし、いつまでもハローの世話になるわけには、いかないだろう」
「俺はいくらでも構わないよ。傍に居てくれた方が、とても嬉しいんだ」
ハローはタンポポを摘むと、茎を結び始めた。
「覚えてる? 前にさ、俺を「大切な人」だって言ってくれたの」
「さて、どうだったか」
ナルガはふいと目を逸らしたが、耳が赤くなっている。
ハローは懸命にナルガを支え、彼女を守るべく己を犠牲にしてまで戦い続け、何度も彼女への想いを口にした。
真っ直ぐひたむきな姿が、ナルガに響かぬわけもなく。いつしかハローの隣が、彼女の居場所となっていた。
「あの時は必死で、頭に入らなかったけど……思い出したらさ、顔がついふやけちゃうんだ。君の大切な人になれたんだって」
「否定はしない」
「最高の返事だよ。……俺も、君が世界で一番大切だ、この世の誰よりも君を愛している。君と離れたくない、君も同じなんじゃないか」
ハローはそっと、ナルガから離れた。するとナルガはハローを追いかけ、必死になって彼の手を握りしめた。
彼女がはっとするも、もう遅い。かぁと頬を染めるナルガは、とても愛らしかった。
「ほらね。だから、さ。この仮初の関係を、止めようと思うんだ」
ハローはナルガの左手を取り、薬指にタンポポの指輪を通した。
「偽りじゃなくて、本物の夫婦になろう。順序が逆になってしまったけど、俺と結婚、してくれませんか?」
「はは……本当にお前は、どこまでも馬鹿な奴だ。私なんぞで、構わんのか?」
ナルガは涙を拭い、ハローに抱き着いて、
「末永く頼むぞ、婿殿」
頭を抱え、深いキスをした。
森の奥深く、木漏れ日が降り注ぐ中、二人だけのささやかな結婚式。互いを強く求め、抱き合う二人の笑顔には、幸せで満ち溢れていた。
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