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75話 狂人の末路
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殺された瞬間、ナルガは暗い場所へ連れていかれた。
そこには、魔王アラハバキが居た。彼はナルガを見るなり、悲しそうな顔になった。
『もう来てしまったのか、我が娘よ……こんなにも早く再会するために、お前を助けたのではないぞ』
父はかぶりを振ると、ナルガを抱きしめた。
『お前には、戻るべき場所があるだろう? 早くハローの下へ帰ってやれ。でないと、未来の義息子が取り返しのつかぬ事になる。……ふっ、しかし奴と結ばれるとは。ハローならば、心置きなくお前を託せるな』
父はナルガの背を押し、暗い場所から追い出した。
『助けられるのはこれっきりだ。次はハローと共に来い。命を、幸せいっぱいに満たしてな』
意識を取り戻すと、ナルガは元の場所へ戻っていた。体を蝕む毒は無くなり、傷も癒えている。代わりに、形見のコインが砕けていた。
何が起こったのか理解する前に、ナルガは飛び出した。ハローは今にもウルチを殺そうとしている、止めなくては!
「ハロー! 私は生きているぞ!」
「……ナルガ……え……なんで、どうして……?」
「分からない、でも、私の体温が分かるだろう、足があるの、見えるだろう?」
淀んでいたハローの目が元に戻っていく。ウルチは目を瞬き、コインが無くなっているのに気付いた。
「貴様の硬貨……よもや、「女神のコイン」か!?」
文献で読んだ事がある。たった一度だけ、死んでも蘇らせてくれる奇跡の金貨があると。
残された伝承は少なく、どのような硬貨なのかも分からぬ幻の存在とされていた。そんな物を、なぜあの女が持っているのだ。
ナルガに支えられ、ハローは立ち上がった。化け物に成り下がった姿はもうない。両の目にしっかりとした光を宿し、ウルチを見据えている。
ウルチはハローから深手を受け、ナルガを奪い返す力は残っていない。加えて彼に追い打ちが。
「動くな、ウルチ・マサガネ」
背後に聖剣を突き付けられ、ウルチは逃げ場を失った。
勇者オクトだ。ラコ村の敵と火災を鎮圧した後、エドウィンらと共に駆け付けたのだ。
「無事ですか、先代」
「どうにかね。何もかもをまた、こんな奴に奪われる所だったよ」
ナイフをウルチの首筋に当て、ハローは睨んだ。
「……ナルガは、断じて渡さない。ナルガは俺だけの女だ。お前なんかが、触れていい女じゃない。もう二度と、お前に大事な人を、むしり取られてたまるものか!」
「抵抗したくば構いませんよ、このオクト・ペンタゴンを前に出来るものならば、ですが」
二人の勇者に挟まれ、ウルチの目論見は完全に破綻した。
「くかかっ……くかかかっ、くかかかかっ! いや愉快愉快! まさか最後の最後で、予想外の奇跡にすくわれるとは! くかかかかかかっ!」
ウルチは嗤い続けると、自身の胸に手を押し当てた。
「残念だよハロー・マンチェスター。こうなっては、我が命は渡せぬ。我が人生の結末は、己で決めてくれよう!」
「! オクト、離れろ!」
ハローは咄嗟にナルガを押し倒した。オクトも察し、距離を取った。
「己貫きし我が生涯、最期の花ぞ怨敵の、心に咲きて永遠に継がれん! はははははぁ!」
ウルチは大笑いしながら自爆した。自身に「機雷化」の呪いをかけていたのだ。
塵となり、空へ舞う仇敵を仰ぎ見て、ハローは拳を握りしめた。
「誰が語り継ぐか、バカ野郎……!」
そこには、魔王アラハバキが居た。彼はナルガを見るなり、悲しそうな顔になった。
『もう来てしまったのか、我が娘よ……こんなにも早く再会するために、お前を助けたのではないぞ』
父はかぶりを振ると、ナルガを抱きしめた。
『お前には、戻るべき場所があるだろう? 早くハローの下へ帰ってやれ。でないと、未来の義息子が取り返しのつかぬ事になる。……ふっ、しかし奴と結ばれるとは。ハローならば、心置きなくお前を託せるな』
父はナルガの背を押し、暗い場所から追い出した。
『助けられるのはこれっきりだ。次はハローと共に来い。命を、幸せいっぱいに満たしてな』
意識を取り戻すと、ナルガは元の場所へ戻っていた。体を蝕む毒は無くなり、傷も癒えている。代わりに、形見のコインが砕けていた。
何が起こったのか理解する前に、ナルガは飛び出した。ハローは今にもウルチを殺そうとしている、止めなくては!
「ハロー! 私は生きているぞ!」
「……ナルガ……え……なんで、どうして……?」
「分からない、でも、私の体温が分かるだろう、足があるの、見えるだろう?」
淀んでいたハローの目が元に戻っていく。ウルチは目を瞬き、コインが無くなっているのに気付いた。
「貴様の硬貨……よもや、「女神のコイン」か!?」
文献で読んだ事がある。たった一度だけ、死んでも蘇らせてくれる奇跡の金貨があると。
残された伝承は少なく、どのような硬貨なのかも分からぬ幻の存在とされていた。そんな物を、なぜあの女が持っているのだ。
ナルガに支えられ、ハローは立ち上がった。化け物に成り下がった姿はもうない。両の目にしっかりとした光を宿し、ウルチを見据えている。
ウルチはハローから深手を受け、ナルガを奪い返す力は残っていない。加えて彼に追い打ちが。
「動くな、ウルチ・マサガネ」
背後に聖剣を突き付けられ、ウルチは逃げ場を失った。
勇者オクトだ。ラコ村の敵と火災を鎮圧した後、エドウィンらと共に駆け付けたのだ。
「無事ですか、先代」
「どうにかね。何もかもをまた、こんな奴に奪われる所だったよ」
ナイフをウルチの首筋に当て、ハローは睨んだ。
「……ナルガは、断じて渡さない。ナルガは俺だけの女だ。お前なんかが、触れていい女じゃない。もう二度と、お前に大事な人を、むしり取られてたまるものか!」
「抵抗したくば構いませんよ、このオクト・ペンタゴンを前に出来るものならば、ですが」
二人の勇者に挟まれ、ウルチの目論見は完全に破綻した。
「くかかっ……くかかかっ、くかかかかっ! いや愉快愉快! まさか最後の最後で、予想外の奇跡にすくわれるとは! くかかかかかかっ!」
ウルチは嗤い続けると、自身の胸に手を押し当てた。
「残念だよハロー・マンチェスター。こうなっては、我が命は渡せぬ。我が人生の結末は、己で決めてくれよう!」
「! オクト、離れろ!」
ハローは咄嗟にナルガを押し倒した。オクトも察し、距離を取った。
「己貫きし我が生涯、最期の花ぞ怨敵の、心に咲きて永遠に継がれん! はははははぁ!」
ウルチは大笑いしながら自爆した。自身に「機雷化」の呪いをかけていたのだ。
塵となり、空へ舞う仇敵を仰ぎ見て、ハローは拳を握りしめた。
「誰が語り継ぐか、バカ野郎……!」
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