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73話 狂人

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 ハローはウルチに追いつき、馬を降りた。

 ウルチはただっぴろい平原に陣を敷いていた。ご丁寧に、背の高い草を全部刈り取って隠れ場所を失く、闇討ちの対策を取っている。大風のせいで銃も吹き矢も役に立たず、風上に立たれているから爆弾も効果が薄れる。



 結果、ハローの持ってきた武器は殆どが使い物にならなかった。しかもウルチは、傍にナルガを置いている。魔法を使えば、彼女を巻き込みかねない……。

 ハローの選択肢を徹底して排除している。真正面から向かわざるを得ず、ハローはナイフを抜いた。



「久しいなハロー・マンチェスター。死んだはずの亡者と再会した感想は?」



 ハローは答えなかった。真っ直ぐにウルチへ走るも、行く手を配下達が阻んできた。

 けど、何の障害にもならない。激怒したハローを相手に成す術もなく潰されていく。剣を奪い、立ち塞がる敵をなぎ倒していった。



「はろぉ……!」



 ナルガはろれつが回っていない。痺れ毒を打たれ、身動きが取れない状態だ。

 急いで助けないと、取り戻さないと。また大事な人を、奪われてなるものか!



「言葉を交わさぬか、愚かだな。十年前と何も変わってはいないようだ。貴様の短絡的な行動が如何様な結末を生んだか、忘れたとは言わせぬぞ? 貴様に助けを乞いながら、無様に死んだあの女。貴様に牙を剥き、無様な最期を遂げたあの男。思い出すだけでも、くかかっ、笑いが止まらんな! 全て貴様が選択を誤ったが故に死んだ! 何もかも貴様のせいだ!」



「黙れ!!!!!」



 マックとミレイユを侮辱され、ハローはより激昂した。

 ウルチは高笑いしながら、ナルガに剣を突き付けた。



「そして今、また貴様は過ちを犯した。その曇った目、しかと開いて見ているがいい!」

「やめろ!!!!! 彼女に手を、出すなぁ!!!!!」



 ハローの雄たけびに配下は全員怖気づき、へたり込んで何も出来なくなる。



 しかし、ウルチには通用しなかった。



 奴は命を捨てるつもりでここに居る、生への執着が無い者に、殺意による恐怖は通用しないもの。



 悠々と嗤い、ハローを嘲り、狂ったウルチは剣を振り上げて、



「我の未来を奪った咎! その罰を受けるがいい! ハロー・マンチェスター!」



 ハローの目の前で、ナルガに切っ先を突き立てた。
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