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61話 武芸達者
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「兵法に置いて基本となるのは何か分かるか? 情報と、敵の心を摘む事だ」
ウルチは焚火に向かって、ぶつぶつと独り言を言っていた。
奴はラコ村周辺に雑魚を放ち、ハローの周囲を探っていた。ハローの戦い方の癖から行動範囲、仲間や村の戦力、配下の行動から地形の状況を読む等……望遠鏡で粛々と情報を集め続けた。
情報屋から買った情報と近況にはタイムラグがあるから、その修正をしなければならない。地図の情報だってそうだ、地形の大まかな状況は分かるが、人の手が加わったり、季節や気候の変化でズレが出てしまう。
「一ミリの歪みで、作戦が崩壊する恐れもある。だから、じっくり観察する事から始めねばならぬ。常に正しい情報を得る事こそが、基本にして極意なり」
見た目こそ蛮族だが、ウルチの行動は頭脳的である。時間をかけて自身が確実に勝てる状況を作り出し、徹底的に敵を追い詰める策を練る。真綿で首を絞める戦い方を好む男だ。
「くかかっ……かかかかかっ……!」
口の端が、耳まで届くかのような笑みだった。ウルチを支えているのは、ハローへの復讐心のみ。十年の歳月はウルチの心を歪ませ、修復不可能なまでに壊していた。
酒を煽り、再び独語が始まる。
「肉体を傷つけた所で、人は幾度も立ち上がる。だが心を傷つければ、不思議と立ち上がれなくなる。これもまた、摂理よ摂理」
ハローは夏に嫁をとったそうだ。隻脚だが、これがまた腕の立つ女である。エドウィンの知能も相まって、中々強固な布陣が整っていた。
まずは、三人を分断させる。その布石は既に、打っていた。
「『今年はなんか、野盗の数が多い気がするんだよな』『少し警戒を強めた方がいいかもしれないな。またミコ達を攫われるのは勘弁したい』。暖炉を前に、嫁とそう話しているのではないか? ハロー・マンチェスター……」
ウルチはラコ村の人間関係は勿論、村の平年の、野盗の出没数を調べていた。
ならず者の数が増えつつあると、奴らに警戒をさせる。まずは雑魚で、じわじわと。心を疑念に染め上げる、下拵えだ。
「次の段階へ進めよう。時間をかけてこそ、切り札が最大の効力を発揮する」
ジョーカーの顔が、炎に照らされていた。
ウルチは焚火に向かって、ぶつぶつと独り言を言っていた。
奴はラコ村周辺に雑魚を放ち、ハローの周囲を探っていた。ハローの戦い方の癖から行動範囲、仲間や村の戦力、配下の行動から地形の状況を読む等……望遠鏡で粛々と情報を集め続けた。
情報屋から買った情報と近況にはタイムラグがあるから、その修正をしなければならない。地図の情報だってそうだ、地形の大まかな状況は分かるが、人の手が加わったり、季節や気候の変化でズレが出てしまう。
「一ミリの歪みで、作戦が崩壊する恐れもある。だから、じっくり観察する事から始めねばならぬ。常に正しい情報を得る事こそが、基本にして極意なり」
見た目こそ蛮族だが、ウルチの行動は頭脳的である。時間をかけて自身が確実に勝てる状況を作り出し、徹底的に敵を追い詰める策を練る。真綿で首を絞める戦い方を好む男だ。
「くかかっ……かかかかかっ……!」
口の端が、耳まで届くかのような笑みだった。ウルチを支えているのは、ハローへの復讐心のみ。十年の歳月はウルチの心を歪ませ、修復不可能なまでに壊していた。
酒を煽り、再び独語が始まる。
「肉体を傷つけた所で、人は幾度も立ち上がる。だが心を傷つければ、不思議と立ち上がれなくなる。これもまた、摂理よ摂理」
ハローは夏に嫁をとったそうだ。隻脚だが、これがまた腕の立つ女である。エドウィンの知能も相まって、中々強固な布陣が整っていた。
まずは、三人を分断させる。その布石は既に、打っていた。
「『今年はなんか、野盗の数が多い気がするんだよな』『少し警戒を強めた方がいいかもしれないな。またミコ達を攫われるのは勘弁したい』。暖炉を前に、嫁とそう話しているのではないか? ハロー・マンチェスター……」
ウルチはラコ村の人間関係は勿論、村の平年の、野盗の出没数を調べていた。
ならず者の数が増えつつあると、奴らに警戒をさせる。まずは雑魚で、じわじわと。心を疑念に染め上げる、下拵えだ。
「次の段階へ進めよう。時間をかけてこそ、切り札が最大の効力を発揮する」
ジョーカーの顔が、炎に照らされていた。
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