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57話 寒い朝、長いハグ

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 白い息を吐き、ナルガは窓を開けた。

 ラコ村は冬を迎えていた。山間部に比べれば穏やかな気候だが、それでも身が凍みるように寒い。

 外套を羽織って暖炉に火をつけ、湯を沸かした。そこに薪割りを終えたハローが戻ってくる。



「やっぱ体動かすと温まるね」

「半袖一枚で、寒くないのか?」

「全然。すぐに朝飯作るよ」

「その前に上着を羽織れ、見てる方が寒い」



 ナルガに外套を着せられ、ハローは苦笑した。

 ついでに、ナルガはハローの顔をお湯で温めた布で拭いてやる。目ヤニを取って、剃った後くっついた髭も綺麗にした。



「無頓着が過ぎるぞ、身だしなみくらい整えろ」

「たはは……面目ない。でもナルガにしてもらえるなら、別にいいかなーなんて」

「甘えすぎだ馬鹿者」



 ナルガは額を小突いてハローを怒った。二十七歳の子供だな、まるで。

 ……ま、別に構わんか。

 冬でもハローの生活スタイルは変わらない。森へ向かって地拵えをし、春に苗木を植える支度をしなければならない。加えて枝打ちや間伐と、やる事は山積みだ。

 畑では芋を始めとした冬野菜を栽培しているし、乳牛の世話もあるから、ナルガも中々忙しい。朝のこの時間は、ハローと過ごす貴重な時間だ。



「冬の朝って言ったら、これだよなぁ」



 ハローが出したのは、チーズをのせたパンだ。チーズがとろりと溶けて甘い香りが漂ってくる。それに昨日の残りのシチューと、ホットミルクを添えていた。

 ほかほか湯気を立てる朝餉を前に、ナルガはほっこりした。寒いとごはんが美味しく感じられるから、食事がより楽しみになった。



 早速パンにかじりつき、チーズを伸ばしながら頬張る。パンにトマトソースを塗っているから、ピザみたいで美味しかった。

 そこにホットミルクを流し込めば、最高の幸せが待っている。ハローと一緒に「くぅー」と声を出してしまった。



「やばいくらい美味いや。たまんないね」

「ああ。トマトソースも上手くできていたようだな」



 収穫した野菜は加工し、瓶詰にして冬の保存食にしている。ジャムやソースにした後、瓶をしっかり煮沸して、コルク栓を蝋で固めて密封すれば、一冬は軽く保存できるのだ。



「こんな贅沢をしていいのだろうか」

「いいのさ。寒くて厳しい時期だからこそ、ささやかな贅沢は大事だよ」

「確かに、楽しみが無ければ乗り越えられんな」



 のんびりと、穏やかな朝餉を堪能した。ナルガはこの時間が一番好きだ。ハローと話していると、不思議と元気が出てくるから。



「それじゃ、行ってきます」

「気を付けてこい」



 寒さもあってか、日課となったハグの時間も長くなる。名残惜しさを感じつつも、二人は今日も仕事へ出かけていくのだった。
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