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54話 収穫祭
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冬備えが終わったラコ村は、ささやかながら宴を開く。
皆無事に冬を超え、一緒に春を迎えられるようにと祈りを込めて、これまでの頑張りを労おうというわけだ。
飾り付けられた村の中央で、各々料理や酒を持ち寄り、思い思いに飲み食いを楽しんでいる。ハローはチーズの乗ったクラッカーを肴にワインを飲み、村人が楽しむ様子を眺めた。
と、エドウィンがコップを掲げ、クラッカーをつまんできた。
「ナルガはどうした?」
「連れてかれた」
ハローが指さす先では、ナルガが子供達と戯れていた。ミネバも混ざって砂糖菓子を振る舞っている。
「ふられてやんの」
「貸してるだけさ。いいんだ、俺だって大人だし、我慢できるし」
「ガキ臭さが抜けてないくせに何言ってんだか。隣いいか?」
「いいけど、クラッカー勝手に食うなよ」
「干し肉と交換なんてどうだ? ナルガが作った奴だ」
「早く頂戴」
ナルガが作ったとなれば食わねばならない。早速食べてみると、ちょっとしょっぱすぎる。味覚も嗅覚もない頃に作った奴だからか、失敗気味だった。
でも全部食べるぞ、だってナルガのお手製だもん。
「宴をしてると、一年が終わった感じがするな」
「そうだね、今年のシメだもの。まぁ木の世話しなくちゃいけないから、冬も忙しいけど」
「僕も診療所を休めないからなぁ。むしろ風邪が流行るから一番忙しいまである」
「お医者さんは大変だね」
「他人事みたいに言いやがって。しかし今年は忙しなかったなぁ。特に夏から目まぐるしい毎日だったよ」
「俺はナルガが来てくれたから、とても嬉しい年になったかな」
「その分僕が大変だったんだけどな」
「ごめんって」
額を小突かれハローは苦笑した。
自分がどれだけエドウィンに迷惑かけているのか分かっている。キグナス島から帰った後、彼を何年も不安がらせてしまったのを覚えている。
「ありがとな、いつも助けてくれて、感謝してる」
「そうそう感謝しろよ。僕が居なきゃナルガなんてとっくに捕まってるんだからな」
「そうだね……本当に、ありがたいよ」
干し肉を口にし、ハローはナルガを見つめた。
自分との生活で、ナルガは元気になった。春を迎える頃には、いつでもここを出られるようになるだろう。
……あくまで、彼女との関係は偽りなのだ。彼女の自由を奪う理由はない。
「でも、離したくないな」
「こっちだって同じだよ。何のためにこれまで苦労してきたんだって話だ、なーにがあろうとナルガを村から出すんじゃねーぞ? 僕の頑張りが無駄になんだからなー?」
「酔ってるなお前」
「今日くらいいいだろ? 一年間頑張ったんだ、自分にご褒美くらいあげたっていいじゃんか」
「はは、そうだね。じゃあ迷惑をかけたお詫びに、おかわり注いであげるよ」
「苦しゅうない苦しゅうない。たっぷり注げよ」
エドウィンと笑った後、ハローはコップを掲げた。察したエドウィンは、乾杯してくる。
「これからもよろしく、相棒」
「こっちこそ、親友」
二人でワインを嗜み、束の間の休息に身をゆだねる。その後村の男達に連れられ、ナルガともども散々酒を勧められた。
ナルガはいつになくはしゃいでいるようで、表情こそ変わらないが、注がれるがまま酒を飲み続けた。彼女につられるまま、ハローも宴を楽しんだ。
皆無事に冬を超え、一緒に春を迎えられるようにと祈りを込めて、これまでの頑張りを労おうというわけだ。
飾り付けられた村の中央で、各々料理や酒を持ち寄り、思い思いに飲み食いを楽しんでいる。ハローはチーズの乗ったクラッカーを肴にワインを飲み、村人が楽しむ様子を眺めた。
と、エドウィンがコップを掲げ、クラッカーをつまんできた。
「ナルガはどうした?」
「連れてかれた」
ハローが指さす先では、ナルガが子供達と戯れていた。ミネバも混ざって砂糖菓子を振る舞っている。
「ふられてやんの」
「貸してるだけさ。いいんだ、俺だって大人だし、我慢できるし」
「ガキ臭さが抜けてないくせに何言ってんだか。隣いいか?」
「いいけど、クラッカー勝手に食うなよ」
「干し肉と交換なんてどうだ? ナルガが作った奴だ」
「早く頂戴」
ナルガが作ったとなれば食わねばならない。早速食べてみると、ちょっとしょっぱすぎる。味覚も嗅覚もない頃に作った奴だからか、失敗気味だった。
でも全部食べるぞ、だってナルガのお手製だもん。
「宴をしてると、一年が終わった感じがするな」
「そうだね、今年のシメだもの。まぁ木の世話しなくちゃいけないから、冬も忙しいけど」
「僕も診療所を休めないからなぁ。むしろ風邪が流行るから一番忙しいまである」
「お医者さんは大変だね」
「他人事みたいに言いやがって。しかし今年は忙しなかったなぁ。特に夏から目まぐるしい毎日だったよ」
「俺はナルガが来てくれたから、とても嬉しい年になったかな」
「その分僕が大変だったんだけどな」
「ごめんって」
額を小突かれハローは苦笑した。
自分がどれだけエドウィンに迷惑かけているのか分かっている。キグナス島から帰った後、彼を何年も不安がらせてしまったのを覚えている。
「ありがとな、いつも助けてくれて、感謝してる」
「そうそう感謝しろよ。僕が居なきゃナルガなんてとっくに捕まってるんだからな」
「そうだね……本当に、ありがたいよ」
干し肉を口にし、ハローはナルガを見つめた。
自分との生活で、ナルガは元気になった。春を迎える頃には、いつでもここを出られるようになるだろう。
……あくまで、彼女との関係は偽りなのだ。彼女の自由を奪う理由はない。
「でも、離したくないな」
「こっちだって同じだよ。何のためにこれまで苦労してきたんだって話だ、なーにがあろうとナルガを村から出すんじゃねーぞ? 僕の頑張りが無駄になんだからなー?」
「酔ってるなお前」
「今日くらいいいだろ? 一年間頑張ったんだ、自分にご褒美くらいあげたっていいじゃんか」
「はは、そうだね。じゃあ迷惑をかけたお詫びに、おかわり注いであげるよ」
「苦しゅうない苦しゅうない。たっぷり注げよ」
エドウィンと笑った後、ハローはコップを掲げた。察したエドウィンは、乾杯してくる。
「これからもよろしく、相棒」
「こっちこそ、親友」
二人でワインを嗜み、束の間の休息に身をゆだねる。その後村の男達に連れられ、ナルガともども散々酒を勧められた。
ナルガはいつになくはしゃいでいるようで、表情こそ変わらないが、注がれるがまま酒を飲み続けた。彼女につられるまま、ハローも宴を楽しんだ。
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