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49話 最悪の邂逅
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「お土産に紅茶を持ってきたんです、お口に合うかどうか」
オクトは四人に紅茶を並べた。ただ歩くだけでも、魅了されてしまうくらい上品な立ち振る舞いをしている。現にミネバは彼女に見惚れ、口を半開きにしていた。
二代目勇者オクトは女である。女神の生まれ変わりと称される程の美麗を持っており、加えて文武両道に秀で、公爵家の娘と家柄にも恵まれ、間違いを許せぬ清廉潔白な性格をした、非の打ち所がない人物である。
「お体の具合はいかがですか、先代」
「悪くはないよ。そっちも元気そうだね」
「ええ、おかげさまで。先代が壮健で、安心しました」
オクトは目を細めて微笑んだ。ハローにはどこか、熱を持った視線を向けている。
勇者である彼女は多忙を極めており、今日はどうにかねじこんだ、貴重な休みを利用していた。
「エドウィン氏もお変わり無いようで。しかし、少しやせましたか?」
「わかる? この阿呆が色々やらかしてくれるから、やつれちまってね」
「まぁ。駄目ですよ先代、エドウィン氏に迷惑をかけては」
「善処するよ。……それよりオクト」
「いい加減、茶番は勘弁してもらおうか」
ナルガの突き刺すような声に、オクトの顔が険しくなった。
ナルガはずっと、オクトを睨み続けている。全身を震わせ、湧き上がる感情を必死にこらえているようだ。
「やはり駄目だ。貴様の呼吸を聞くだけで、腸が煮えくり返ってくる……今すぐにでも貴様の喉笛を切り裂き、その首を家畜の餌にしてやりたいくらいだよ」
「……心中、お察しします。私はナルガ氏に、それだけの仕打ちをしました。憎まれて当然の事と思います」
「軽々しく言葉を連ねるな……貴様の目的はなんだ! なぜ私の前に姿を現した! 我が首が目的とあらば望むところ! 我が命に代えても貴様を……父の仇を! 刺し違えてでも討ってくれる!」
ナルガは涙声になっていた。立ち上がり、激昂する彼女を、ハローが諫めた。
オクトは悲し気に目を伏せると、ナルガの前に跪いた。
「私はずっと貴方を、探していました。いかに世情を鑑みても、貴方への仕打ちは、到底許されるものではありません。貴方の体を奪い、君主も住処も奪った罪は、決して償えません……それでも私には、貴方へ誠意を示す義務があります」
オクトは深々と、ナルガに頭を下げた。
「私が犯した数々の所業、誠に申し訳ございませんでした……!」
「謝って……すむものか……! 私が失った物は、謝ったって戻ってこない……何もわかってないくせに……命は、戻ってこないんだ……父上はもう、二度と、私の下へは……くそっ……くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉっ……!」
「……本当に、ごめんなさい……」
ナルガは座り込み、何度もオクトの肩を叩いて、泣いた。大声で泣き続けた。
ハローはナルガに寄り添い、彼女が泣き止むまで、肩を抱き続けた。
オクトは四人に紅茶を並べた。ただ歩くだけでも、魅了されてしまうくらい上品な立ち振る舞いをしている。現にミネバは彼女に見惚れ、口を半開きにしていた。
二代目勇者オクトは女である。女神の生まれ変わりと称される程の美麗を持っており、加えて文武両道に秀で、公爵家の娘と家柄にも恵まれ、間違いを許せぬ清廉潔白な性格をした、非の打ち所がない人物である。
「お体の具合はいかがですか、先代」
「悪くはないよ。そっちも元気そうだね」
「ええ、おかげさまで。先代が壮健で、安心しました」
オクトは目を細めて微笑んだ。ハローにはどこか、熱を持った視線を向けている。
勇者である彼女は多忙を極めており、今日はどうにかねじこんだ、貴重な休みを利用していた。
「エドウィン氏もお変わり無いようで。しかし、少しやせましたか?」
「わかる? この阿呆が色々やらかしてくれるから、やつれちまってね」
「まぁ。駄目ですよ先代、エドウィン氏に迷惑をかけては」
「善処するよ。……それよりオクト」
「いい加減、茶番は勘弁してもらおうか」
ナルガの突き刺すような声に、オクトの顔が険しくなった。
ナルガはずっと、オクトを睨み続けている。全身を震わせ、湧き上がる感情を必死にこらえているようだ。
「やはり駄目だ。貴様の呼吸を聞くだけで、腸が煮えくり返ってくる……今すぐにでも貴様の喉笛を切り裂き、その首を家畜の餌にしてやりたいくらいだよ」
「……心中、お察しします。私はナルガ氏に、それだけの仕打ちをしました。憎まれて当然の事と思います」
「軽々しく言葉を連ねるな……貴様の目的はなんだ! なぜ私の前に姿を現した! 我が首が目的とあらば望むところ! 我が命に代えても貴様を……父の仇を! 刺し違えてでも討ってくれる!」
ナルガは涙声になっていた。立ち上がり、激昂する彼女を、ハローが諫めた。
オクトは悲し気に目を伏せると、ナルガの前に跪いた。
「私はずっと貴方を、探していました。いかに世情を鑑みても、貴方への仕打ちは、到底許されるものではありません。貴方の体を奪い、君主も住処も奪った罪は、決して償えません……それでも私には、貴方へ誠意を示す義務があります」
オクトは深々と、ナルガに頭を下げた。
「私が犯した数々の所業、誠に申し訳ございませんでした……!」
「謝って……すむものか……! 私が失った物は、謝ったって戻ってこない……何もわかってないくせに……命は、戻ってこないんだ……父上はもう、二度と、私の下へは……くそっ……くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉっ……!」
「……本当に、ごめんなさい……」
ナルガは座り込み、何度もオクトの肩を叩いて、泣いた。大声で泣き続けた。
ハローはナルガに寄り添い、彼女が泣き止むまで、肩を抱き続けた。
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