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47話 震える肩
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帰宅後も、ナルガの表情はすぐれなかった。
エドウィンが何の相談もなしにオクトと話を進めていたなんて、ハローはショックだった。
オクトはハローも良く知っている。ハローとしてもオクトは信用している好人物であるのだが、今回ばかりは最悪の相手である。
確かにオクトはいい奴だけど……ナルガの主であり、父でもある魔王アラハバキを殺した相手。そんな奴と会わせるなんて。ハローはエドウィンを問い詰めたのだが、
『詳しくは当日話すよ、ナルガがその様子じゃ、頭ん中に話が入ってかないだろうしな』
そう言われて、話を打ち切られてしまった。
オクトに会うと聞いてから、ナルガはずっと眉間に皺を寄せている。親の仇と会うなんて、彼女には酷だ。
「やっぱり、留守番しておく? オクトとは俺が話を付けるから」
「いいや、奴と会ってみるさ。奴の誘いから逃げては、魔王様の子として面目が立たん」
「……でも、オクトは君から……」
「そうだな、左足に仲間達、そして我が父たる魔王。全てを奪った勇者だ。……無論、奴が世情故にせざるを得なかったのも、私の抱く感情が逆恨みなのも、理解している。だが……奴と会って何をすべきか、何を言うべきか。そして奴が私に、何をしようとしているのか。顔を合わせた時、果たして私が受け入れられるか……色んな不安が、頭の中を回っているよ」
ハローはそっと彼女を抱きしめた。ハローの胸に顔を埋め、ナルガはしがみつく。
「恐いんだ、オクトと会うのが。私は奴を許せない、奴に会った瞬間、剣を取るやもしれん。勝ち目がないと分かっていてもな」
「……ナルガ」
「それでも……それでもだ。手配を取り下げてもらえれば、少なくとも、国から追われる事は無くなる。だから……オクトと対話してみようと思う。ハローには、私を傍で、支えていてもらいたい。一人では、とても落ち着いて話せないと思うから……」
ナルガの声は震えている。ハローは目を伏せ、
「無理はしないでね」
「気を付けるよ」
敵との対話か。まるで昔の俺みたいだ。
ナルガは懸命に堪え、オクトに向き合おうとしている。ハローがするべきなのは、ナルガの心を支える事。
「何があろうと、君は俺が守るよ。俺は、君だけの勇者だ」
「すまない……もう少しだけ、抱いていてくれないか……」
「むしろ歓迎だよ」
ナルガが落ち着くまで、ハローは彼女を抱きしめ続けた。
エドウィンが何の相談もなしにオクトと話を進めていたなんて、ハローはショックだった。
オクトはハローも良く知っている。ハローとしてもオクトは信用している好人物であるのだが、今回ばかりは最悪の相手である。
確かにオクトはいい奴だけど……ナルガの主であり、父でもある魔王アラハバキを殺した相手。そんな奴と会わせるなんて。ハローはエドウィンを問い詰めたのだが、
『詳しくは当日話すよ、ナルガがその様子じゃ、頭ん中に話が入ってかないだろうしな』
そう言われて、話を打ち切られてしまった。
オクトに会うと聞いてから、ナルガはずっと眉間に皺を寄せている。親の仇と会うなんて、彼女には酷だ。
「やっぱり、留守番しておく? オクトとは俺が話を付けるから」
「いいや、奴と会ってみるさ。奴の誘いから逃げては、魔王様の子として面目が立たん」
「……でも、オクトは君から……」
「そうだな、左足に仲間達、そして我が父たる魔王。全てを奪った勇者だ。……無論、奴が世情故にせざるを得なかったのも、私の抱く感情が逆恨みなのも、理解している。だが……奴と会って何をすべきか、何を言うべきか。そして奴が私に、何をしようとしているのか。顔を合わせた時、果たして私が受け入れられるか……色んな不安が、頭の中を回っているよ」
ハローはそっと彼女を抱きしめた。ハローの胸に顔を埋め、ナルガはしがみつく。
「恐いんだ、オクトと会うのが。私は奴を許せない、奴に会った瞬間、剣を取るやもしれん。勝ち目がないと分かっていてもな」
「……ナルガ」
「それでも……それでもだ。手配を取り下げてもらえれば、少なくとも、国から追われる事は無くなる。だから……オクトと対話してみようと思う。ハローには、私を傍で、支えていてもらいたい。一人では、とても落ち着いて話せないと思うから……」
ナルガの声は震えている。ハローは目を伏せ、
「無理はしないでね」
「気を付けるよ」
敵との対話か。まるで昔の俺みたいだ。
ナルガは懸命に堪え、オクトに向き合おうとしている。ハローがするべきなのは、ナルガの心を支える事。
「何があろうと、君は俺が守るよ。俺は、君だけの勇者だ」
「すまない……もう少しだけ、抱いていてくれないか……」
「むしろ歓迎だよ」
ナルガが落ち着くまで、ハローは彼女を抱きしめ続けた。
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