アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

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44話 ノブレスオブリージュ

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 雨の中、エドウィンは往診しながら、ミネバが届けてくれた手紙を読んでいた。
 一枚はいつも通り司祭からの依頼、もう一枚は、かねてから文通を続けていた相手からの返事だ。

「まぁ依頼つっても、魔物退治だから別にいいけどな」

 少し離れた村の近辺に、危険な魔物の巣が出来たそうだ。被害が出る前に片付けてほしいから、ハローを動かしてほしいとの事。
 人ではなく魔物だから、多少は心の傷も抑えられるだろう。そしてもう一通に関しても、好感触な答えが返っていた。

「これでナルガの件は心配ないだろ、多分な」

 少々、汚い手を使わせてもらったが。相手の心の隙に付け込む手段だが、実害はエドウィンの名が傷つく程度だ。何の問題もない。
 エドウィンは割り切れる男である。ハローと違い、全ての人間に好きになってもらおうなんて考えない。
 自分が性悪だと知った上で、それでも付き合ってくれる相手とだけ仲良くすればいい。人付き合いなんて面倒くさいしな。

 往診が終わった所でハローの家に向かう。木こりは雨の日が休日だし、農業の方も収穫がひと段落ついているから、二人とも家に居るはずだ。
 司祭の依頼を伝えつつ、あいつらの様子も見てやるか。

「やぁエド、雨の日にどうしたの?」

 ハローはナイフの手入れをしていた。一方のナルガは外を眺め、ぼんやりしている。
 マックの形見を眺めつつ、エドウィンは用件を伝えた。

「魔物退治か、分かった。すぐに行こう」
「今からかよ、雨が止んでからでよくないか?」
「その間に被害が出たらどうするんだ。馬車を用意してくれ」

 ハローはナイフを装備し、立ち上がった。そしたらナルガも動き、

「同行しよう。一人でやるより早く済む」
「でも」
「私の実力はお前が良く知っているはずだろう。この辺りの魔物程度なら物の数ではない」

 ナルガは剣を腰に帯びた。

「敵国の領民を守るため、よく働けるもんだねぇ」
「世情故、戦っていたにすぎないからな。魔王様の領土にもロクデナシは居たし、敵国にもお前達のような、善良な者が居る。憎むべきは国ではなく個人だ。例え敵国の民であろうと、弱者が危機にさらされているのならば、剣を振るう理由になる」
「けっ、そうですかい」

 ナルガは無駄なプライドや拘りがない。敵対する理由さえなければ、誰にでも平等に接する心を持つ。
 だからこそ、歪な結婚生活が成り立っているのだろうが。

「早く行かなきゃ、じゃないと誰かが死ぬ……そのまえに、ころさないと……」

 顔の傷に手を当て、ハローはぶつぶつと呟いた。
 魔物相手なら、流石のハローも割り切って戦える。それでも戦うとなるとまた、例の症状が出てしまう。
 エドウィンが気付けしようとした時、ナルガがハローの手を握った。

「臆するな」
「……ああ、気を付けるよ」

 なんだよ、僕より効果があるじゃないか。
 複雑な気分になれども、ハローと共に居てくれるナルガには、感謝せねばなるまい。
 その後、エドウィンは二人を連れて件の現場へ赴いた。
 元勇者と、元魔王四天王。一騎当千の二人を前に、田舎の魔物が敵うはずもなく。

一方的な蹂躙で事は終わった。
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