44 / 207
1部
44話 ノブレスオブリージュ
しおりを挟む
雨の中、エドウィンは往診しながら、ミネバが届けてくれた手紙を読んでいた。
一枚はいつも通り司祭からの依頼、もう一枚は、かねてから文通を続けていた相手からの返事だ。
「まぁ依頼つっても、魔物退治だから別にいいけどな」
少し離れた村の近辺に、危険な魔物の巣が出来たそうだ。被害が出る前に片付けてほしいから、ハローを動かしてほしいとの事。
人ではなく魔物だから、多少は心の傷も抑えられるだろう。そしてもう一通に関しても、好感触な答えが返っていた。
「これでナルガの件は心配ないだろ、多分な」
少々、汚い手を使わせてもらったが。相手の心の隙に付け込む手段だが、実害はエドウィンの名が傷つく程度だ。何の問題もない。
エドウィンは割り切れる男である。ハローと違い、全ての人間に好きになってもらおうなんて考えない。
自分が性悪だと知った上で、それでも付き合ってくれる相手とだけ仲良くすればいい。人付き合いなんて面倒くさいしな。
往診が終わった所でハローの家に向かう。木こりは雨の日が休日だし、農業の方も収穫がひと段落ついているから、二人とも家に居るはずだ。
司祭の依頼を伝えつつ、あいつらの様子も見てやるか。
「やぁエド、雨の日にどうしたの?」
ハローはナイフの手入れをしていた。一方のナルガは外を眺め、ぼんやりしている。
マックの形見を眺めつつ、エドウィンは用件を伝えた。
「魔物退治か、分かった。すぐに行こう」
「今からかよ、雨が止んでからでよくないか?」
「その間に被害が出たらどうするんだ。馬車を用意してくれ」
ハローはナイフを装備し、立ち上がった。そしたらナルガも動き、
「同行しよう。一人でやるより早く済む」
「でも」
「私の実力はお前が良く知っているはずだろう。この辺りの魔物程度なら物の数ではない」
ナルガは剣を腰に帯びた。
「敵国の領民を守るため、よく働けるもんだねぇ」
「世情故、戦っていたにすぎないからな。魔王様の領土にもロクデナシは居たし、敵国にもお前達のような、善良な者が居る。憎むべきは国ではなく個人だ。例え敵国の民であろうと、弱者が危機にさらされているのならば、剣を振るう理由になる」
「けっ、そうですかい」
ナルガは無駄なプライドや拘りがない。敵対する理由さえなければ、誰にでも平等に接する心を持つ。
だからこそ、歪な結婚生活が成り立っているのだろうが。
「早く行かなきゃ、じゃないと誰かが死ぬ……そのまえに、ころさないと……」
顔の傷に手を当て、ハローはぶつぶつと呟いた。
魔物相手なら、流石のハローも割り切って戦える。それでも戦うとなるとまた、例の症状が出てしまう。
エドウィンが気付けしようとした時、ナルガがハローの手を握った。
「臆するな」
「……ああ、気を付けるよ」
なんだよ、僕より効果があるじゃないか。
複雑な気分になれども、ハローと共に居てくれるナルガには、感謝せねばなるまい。
その後、エドウィンは二人を連れて件の現場へ赴いた。
元勇者と、元魔王四天王。一騎当千の二人を前に、田舎の魔物が敵うはずもなく。
一方的な蹂躙で事は終わった。
一枚はいつも通り司祭からの依頼、もう一枚は、かねてから文通を続けていた相手からの返事だ。
「まぁ依頼つっても、魔物退治だから別にいいけどな」
少し離れた村の近辺に、危険な魔物の巣が出来たそうだ。被害が出る前に片付けてほしいから、ハローを動かしてほしいとの事。
人ではなく魔物だから、多少は心の傷も抑えられるだろう。そしてもう一通に関しても、好感触な答えが返っていた。
「これでナルガの件は心配ないだろ、多分な」
少々、汚い手を使わせてもらったが。相手の心の隙に付け込む手段だが、実害はエドウィンの名が傷つく程度だ。何の問題もない。
エドウィンは割り切れる男である。ハローと違い、全ての人間に好きになってもらおうなんて考えない。
自分が性悪だと知った上で、それでも付き合ってくれる相手とだけ仲良くすればいい。人付き合いなんて面倒くさいしな。
往診が終わった所でハローの家に向かう。木こりは雨の日が休日だし、農業の方も収穫がひと段落ついているから、二人とも家に居るはずだ。
司祭の依頼を伝えつつ、あいつらの様子も見てやるか。
「やぁエド、雨の日にどうしたの?」
ハローはナイフの手入れをしていた。一方のナルガは外を眺め、ぼんやりしている。
マックの形見を眺めつつ、エドウィンは用件を伝えた。
「魔物退治か、分かった。すぐに行こう」
「今からかよ、雨が止んでからでよくないか?」
「その間に被害が出たらどうするんだ。馬車を用意してくれ」
ハローはナイフを装備し、立ち上がった。そしたらナルガも動き、
「同行しよう。一人でやるより早く済む」
「でも」
「私の実力はお前が良く知っているはずだろう。この辺りの魔物程度なら物の数ではない」
ナルガは剣を腰に帯びた。
「敵国の領民を守るため、よく働けるもんだねぇ」
「世情故、戦っていたにすぎないからな。魔王様の領土にもロクデナシは居たし、敵国にもお前達のような、善良な者が居る。憎むべきは国ではなく個人だ。例え敵国の民であろうと、弱者が危機にさらされているのならば、剣を振るう理由になる」
「けっ、そうですかい」
ナルガは無駄なプライドや拘りがない。敵対する理由さえなければ、誰にでも平等に接する心を持つ。
だからこそ、歪な結婚生活が成り立っているのだろうが。
「早く行かなきゃ、じゃないと誰かが死ぬ……そのまえに、ころさないと……」
顔の傷に手を当て、ハローはぶつぶつと呟いた。
魔物相手なら、流石のハローも割り切って戦える。それでも戦うとなるとまた、例の症状が出てしまう。
エドウィンが気付けしようとした時、ナルガがハローの手を握った。
「臆するな」
「……ああ、気を付けるよ」
なんだよ、僕より効果があるじゃないか。
複雑な気分になれども、ハローと共に居てくれるナルガには、感謝せねばなるまい。
その後、エドウィンは二人を連れて件の現場へ赴いた。
元勇者と、元魔王四天王。一騎当千の二人を前に、田舎の魔物が敵うはずもなく。
一方的な蹂躙で事は終わった。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【書籍化決定】ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる