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35話 毒の酒

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 人売りは洞窟に拠点を構えていた。ナルガ達の他に被害者は居ない、ハローとエドウィンによって全員取り返されたのだ。

 ミコと別々の檻に閉じ込められ、ナルガは脱出の機会を伺った。



 大勢の男がたむろしている、こいつらがハローの言っていた人売りの本隊とやらだろう。

 と、見張りの男が檻を叩いた。ミコは怯え、ナルガに助けを求めた。



「随分と生意気な事をしてくれたようじゃねぇか、男様を殴り倒すたぁね。こいつはちゃんとお仕置きしてやった方がいいか? ぎゃははっ」

「当然躾はしないとな。そのまま卸すにはイキが良すぎる、ちゃんと言う事聞くように、まずは女の悦びを教えてやらにゃあ」

「下衆どもめ」

「口の利き方に気を付けな。さもなきゃガキの命はねぇぞ」



 ミコに剣を突き付けられ、ナルガは口をつぐんだ。

 下手に動けば、ミコがなぶり殺しにされてしまう。今できるのは、沈黙のみ。

 くそ、せめて剣さえあれば……!



「ごめんなさいアリス……私のせいで……」

「ミコは悪くない、大丈夫だ」



 ミコを励まし、ナルガは必死に考えを巡らせた。男達は酒を酌み交わし、宴を始めようとしている。

 見張りもナルガに見せびらかすように酒を煽り、下品にげっぷを出した。



「へへ……う、うぐ?」



 途端、いきなり見張りが倒れた。

 見張りだけでなく、洞窟内の人売り達が白目をむいて倒れていく。見張りの手が紫に染まったのを見て、ナルガは息を呑んだ。



 この手……毒を受けた色だ。



「酒に毒が混ぜてあっただと?」



 幾人か酒を飲まなかった者が居るが、そいつらはバンダナを巻いた男によって殺されていく。突然の事に対応できず、人売りは瞬く間にやられていった。



「なんだ、なぜ急に、仲間割れを」



 やがて人売りは全滅し、洞窟内が静まり返った。凄惨な光景にミコは恐がり、ナルガも驚きで目を見開いた。

 バンダナ男が近づいてくる。ナルガは警戒し、後ずさったが、



「まってて、いまかぎをあけるから」



 男は檻のカギを外し、二人を解放した。



「貴様、まさか……ハローか?」



 ミコを抱きしめ尋ねると、男はバンダナを外した。

 ナルガはぞっとした。男の正体は確かにハローだった。

 だけど、ハローの笑顔はとても冷たくて、壊れていて……目が狂ったように、濁り切っていた。

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