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1部
24話 繕い
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「そら、早くこい」
森の中で、男達が縛り上げた女子供を馬車に詰め込んでいる。彼らは人売りで、薪を集めに来た彼らを商品とした誘拐したのだ。
猿轡を噛ませた女子供は怯え、涙を浮かべている。男達は殴る蹴るの暴行を加え、言う事を聞かせた。
「全く、これはきつく教育しないとだめなようだな」
「なぁに、貴族の奴隷としていい暮らしが出来るさ。そんなに恐がるんじゃねぇよ」
「奴隷になっていい暮らしが出来るわけないだろ。頭の悪い奴らだな」
男達は一斉に身構えた。エドウィンが人売り達に近づいていたのだ。
「なんだお前は」
「通りすがりの一般人」
答えるなりエドウィンは、人売り達に石を投げつけた。男達は当然怒り、剣を抜いて襲い掛かった。
刹那、突然一人が頭を撃ちぬかれた。何が起こったのか分からず、全員呆然とする。続けざま、一人、また一人と男達が倒れていく。
「な、なんだ、魔法か!?」
「逃げるぞ! 早くしないと俺達までころ」
話の途中で、男が狙撃された。最後に残された男は怯え、へたり込んだ所を。
ハローのヘッドショットが貫いた。
「あんな物でよく狙えるよな」
エドウィンは腕を振り、崖に全滅の合図を送った。
ハローが居るのは、人売り達から三百メートル離れた位置の崖だ。ハローは草むらに寝そべり、長銃を構えていた。
キグナス島事変で鹵獲した、アトラス軍の銃だ。銃身の付け根にチャンバーを差し込み、七発まで装弾できるようになっている。エドウィンが囮になって狙撃ポイントへ誘い込み、ハローが撃ち抜いたのである。
……皮肉だな、かつて苦しめられた武器で人助けをするなんて。
エドウィンが女子供を治療し終えると、ハローがやってきた。長銃を担ぎ、殺意と怒気をまき散らして、濁った目をしたハローを見るなり、全員悲鳴を上げた。
「にげたやつは?」
「居ないよ。だから落ち着け、皆恐がってる」
エドウィンに言われ、ハローは我に返った。
殺めた者達を見下ろし、奥歯を噛み締める。自分の所業が許せず、力なくかぶりを振った。
「また、血に染まっちゃったな……」
「お前だけじゃない、僕もだ。二人でやった事だから、勝手に背負い込むな」
「なぁ、なんでこんな回りくどい事を? 近づいて戦っちゃダメだったのか?」
「お前の服に返り血が着いたら、僕が洗う羽目になるだろうが」
二人はこの所業を、ナルガに話していない。ハローが嫌がるからだ。
できれば、自分のやる事を彼女に知られたくない。そう呟いたハローに、エドウィンが銃を引っ張り出し、狙撃を提案したのだ。
これなら確かに、服に血が付かないからナルガに気付かれない。
「ありがと、エド……」
「礼を言われる筋合いはないっての。こいつら埋めたら、被害者を送り返すぞ」
胸を握りしめ、ハローは吐き気を堪えた。
もうずっと続けているはずなのに、慣れる事はない。手を掛ける度に心がひび割れていくのを感じる。
けど、やらなくちゃ。俺がやらなくちゃ。キグナス島の悲劇は繰り返してはならない。
俺が血に染まらなければ、エドウィンも、ナルガも、全部奪われるのだから。
「だから気負うな。策を考えたのも、武器を用意したのも全部僕。お前だけがやった事じゃないんだ」
エドウィンが人売りに近づいたのも、ハローの責務を少しでも背負うため、彼なりのけじめであった。
「落ち込んでる暇はないぞ。こいつらはどうも下っ端だ、本隊が別に居るから探さないといけない。一人くらい残して尋問すべきだったな」
「ごめん、全員撃っちゃって」
「やけくそになって被害者を殺されるよりはましだ。ほら行くぞ、ぐだぐだしてたらナルガに会うのも遅れるからな」
被害者達を元の場所へ戻し、夕暮れに村へ帰ってきた。
ナルガは家の前で、ぼんやりと空を眺めていた。ハローに気付くと、彼女はゆっくり立ち上がり、小走りに迎えてくれた。
「帰ったか」
「ただいま。待っててくれたの?」
「他意はない、ほんの気まぐれだ」
「それでも、嬉しいよ」
ナルガと居ると安心して、笑顔が浮かんだ。ひび割れた心が、少しだけ癒された気がした。
彼女に縋りついてようやく、ハローは壊れそうな心を保てていた。
森の中で、男達が縛り上げた女子供を馬車に詰め込んでいる。彼らは人売りで、薪を集めに来た彼らを商品とした誘拐したのだ。
猿轡を噛ませた女子供は怯え、涙を浮かべている。男達は殴る蹴るの暴行を加え、言う事を聞かせた。
「全く、これはきつく教育しないとだめなようだな」
「なぁに、貴族の奴隷としていい暮らしが出来るさ。そんなに恐がるんじゃねぇよ」
「奴隷になっていい暮らしが出来るわけないだろ。頭の悪い奴らだな」
男達は一斉に身構えた。エドウィンが人売り達に近づいていたのだ。
「なんだお前は」
「通りすがりの一般人」
答えるなりエドウィンは、人売り達に石を投げつけた。男達は当然怒り、剣を抜いて襲い掛かった。
刹那、突然一人が頭を撃ちぬかれた。何が起こったのか分からず、全員呆然とする。続けざま、一人、また一人と男達が倒れていく。
「な、なんだ、魔法か!?」
「逃げるぞ! 早くしないと俺達までころ」
話の途中で、男が狙撃された。最後に残された男は怯え、へたり込んだ所を。
ハローのヘッドショットが貫いた。
「あんな物でよく狙えるよな」
エドウィンは腕を振り、崖に全滅の合図を送った。
ハローが居るのは、人売り達から三百メートル離れた位置の崖だ。ハローは草むらに寝そべり、長銃を構えていた。
キグナス島事変で鹵獲した、アトラス軍の銃だ。銃身の付け根にチャンバーを差し込み、七発まで装弾できるようになっている。エドウィンが囮になって狙撃ポイントへ誘い込み、ハローが撃ち抜いたのである。
……皮肉だな、かつて苦しめられた武器で人助けをするなんて。
エドウィンが女子供を治療し終えると、ハローがやってきた。長銃を担ぎ、殺意と怒気をまき散らして、濁った目をしたハローを見るなり、全員悲鳴を上げた。
「にげたやつは?」
「居ないよ。だから落ち着け、皆恐がってる」
エドウィンに言われ、ハローは我に返った。
殺めた者達を見下ろし、奥歯を噛み締める。自分の所業が許せず、力なくかぶりを振った。
「また、血に染まっちゃったな……」
「お前だけじゃない、僕もだ。二人でやった事だから、勝手に背負い込むな」
「なぁ、なんでこんな回りくどい事を? 近づいて戦っちゃダメだったのか?」
「お前の服に返り血が着いたら、僕が洗う羽目になるだろうが」
二人はこの所業を、ナルガに話していない。ハローが嫌がるからだ。
できれば、自分のやる事を彼女に知られたくない。そう呟いたハローに、エドウィンが銃を引っ張り出し、狙撃を提案したのだ。
これなら確かに、服に血が付かないからナルガに気付かれない。
「ありがと、エド……」
「礼を言われる筋合いはないっての。こいつら埋めたら、被害者を送り返すぞ」
胸を握りしめ、ハローは吐き気を堪えた。
もうずっと続けているはずなのに、慣れる事はない。手を掛ける度に心がひび割れていくのを感じる。
けど、やらなくちゃ。俺がやらなくちゃ。キグナス島の悲劇は繰り返してはならない。
俺が血に染まらなければ、エドウィンも、ナルガも、全部奪われるのだから。
「だから気負うな。策を考えたのも、武器を用意したのも全部僕。お前だけがやった事じゃないんだ」
エドウィンが人売りに近づいたのも、ハローの責務を少しでも背負うため、彼なりのけじめであった。
「落ち込んでる暇はないぞ。こいつらはどうも下っ端だ、本隊が別に居るから探さないといけない。一人くらい残して尋問すべきだったな」
「ごめん、全員撃っちゃって」
「やけくそになって被害者を殺されるよりはましだ。ほら行くぞ、ぐだぐだしてたらナルガに会うのも遅れるからな」
被害者達を元の場所へ戻し、夕暮れに村へ帰ってきた。
ナルガは家の前で、ぼんやりと空を眺めていた。ハローに気付くと、彼女はゆっくり立ち上がり、小走りに迎えてくれた。
「帰ったか」
「ただいま。待っててくれたの?」
「他意はない、ほんの気まぐれだ」
「それでも、嬉しいよ」
ナルガと居ると安心して、笑顔が浮かんだ。ひび割れた心が、少しだけ癒された気がした。
彼女に縋りついてようやく、ハローは壊れそうな心を保てていた。
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