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1部
22話 綱渡りの平穏
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エドウィンは二人の様子を眺め、長い息を吐いた。
あいつらは分かっているだろうか、自分達がどれほど危険な綱渡りをしているのかを。
心に病を持っている者同士だ、いつ生活が破綻してもおかしくない。本音を言えば、今すぐにでも止めさせたい、のだけど……。
「ハローにあんな顔をされちゃあな……」
キグナス島から帰ってきて、ハローの素直な笑顔なんか見た記憶がない。ナルガが来てから、ハローは久しぶりに壊れていない笑顔を見せているのだ。
ハローにとって、ナルガは心の特効薬だ。彼女の存在が、ハローの壊れた心を癒してくれている。
それを見ちまったら、追い出せないじゃないか。
「エドウィン様、よろしいですか」
ミネバが小走りにやってきた。手に握られた手紙を見て、エドウィンは顔をしかめた。
「また殺人の依頼か? あのクソジジイめ、料金倍増しで請求してやる」
「ごめんなさい、いつも……」
「ミネバが悪いわけじゃない。君にも厄介ごとを背負わせて、すまないな」
エドウィンはミネバの頭を撫でた。ミネバは頬を染め、とろんとした目でエドウィンを見上げた。
ミネバはエドウィンに恋心を抱いている、それを利用して、エドウィンは彼女を共犯者にしていた。
この子の好意を利用するようで、あまりいい気分はしないが……ハローの平穏を守るためた。恨まれる覚悟くらい出来ている。
「近頃、人売りによる拉致事件が多発しているんです。イータ村でも被害者が出ていまして……」
「そいつら探して始末しろって事か。僕らはあのクソジジイの私兵じゃないってのに。んで、こっちの手紙は……!」
二代目勇者、オクトからの手紙だった。
オクトはエドウィン達と知己の仲だ。ハローが廃人だった頃から見舞いに来てくれて、キグナス島での行いも理解を示してくれた。エドウィンにとって数少ない、信頼のおける相手だ。
「ナルガ様の事、気づかれたのでしょうか」
「いや、単なる世間話だ。僕の文通相手なんだよ。むこうさんもハローがちゃんと元気でやってるのか、気になってるみたいでね」
「ハロー様を気にかけておられるのですね。なぜご本人に送らないのでしょう」
「色々複雑なのさ」
ふと、エドウィンの頭に一つの案が浮かんだ。
エドウィンは口に手を当て、小さく笑った。
「何か、思いついたのですか?」
「ナルガの手配書を取り下げられるかもしれない、こいつを利用すればね」
「オクト様を、味方に引き込むつもりですか?」
「やってみる価値はあるさ。少々卑怯な手を使うけどね」
悪者は僕だけでいい、ハローは地獄に置いて来てしまった、大事な友達だ。
ハローを地獄から救うためならば、どんな手であろうとも使ってやる。
「いつもいつも、あいつには苦労させられる。悪い気はしないけどな」
あいつらは分かっているだろうか、自分達がどれほど危険な綱渡りをしているのかを。
心に病を持っている者同士だ、いつ生活が破綻してもおかしくない。本音を言えば、今すぐにでも止めさせたい、のだけど……。
「ハローにあんな顔をされちゃあな……」
キグナス島から帰ってきて、ハローの素直な笑顔なんか見た記憶がない。ナルガが来てから、ハローは久しぶりに壊れていない笑顔を見せているのだ。
ハローにとって、ナルガは心の特効薬だ。彼女の存在が、ハローの壊れた心を癒してくれている。
それを見ちまったら、追い出せないじゃないか。
「エドウィン様、よろしいですか」
ミネバが小走りにやってきた。手に握られた手紙を見て、エドウィンは顔をしかめた。
「また殺人の依頼か? あのクソジジイめ、料金倍増しで請求してやる」
「ごめんなさい、いつも……」
「ミネバが悪いわけじゃない。君にも厄介ごとを背負わせて、すまないな」
エドウィンはミネバの頭を撫でた。ミネバは頬を染め、とろんとした目でエドウィンを見上げた。
ミネバはエドウィンに恋心を抱いている、それを利用して、エドウィンは彼女を共犯者にしていた。
この子の好意を利用するようで、あまりいい気分はしないが……ハローの平穏を守るためた。恨まれる覚悟くらい出来ている。
「近頃、人売りによる拉致事件が多発しているんです。イータ村でも被害者が出ていまして……」
「そいつら探して始末しろって事か。僕らはあのクソジジイの私兵じゃないってのに。んで、こっちの手紙は……!」
二代目勇者、オクトからの手紙だった。
オクトはエドウィン達と知己の仲だ。ハローが廃人だった頃から見舞いに来てくれて、キグナス島での行いも理解を示してくれた。エドウィンにとって数少ない、信頼のおける相手だ。
「ナルガ様の事、気づかれたのでしょうか」
「いや、単なる世間話だ。僕の文通相手なんだよ。むこうさんもハローがちゃんと元気でやってるのか、気になってるみたいでね」
「ハロー様を気にかけておられるのですね。なぜご本人に送らないのでしょう」
「色々複雑なのさ」
ふと、エドウィンの頭に一つの案が浮かんだ。
エドウィンは口に手を当て、小さく笑った。
「何か、思いついたのですか?」
「ナルガの手配書を取り下げられるかもしれない、こいつを利用すればね」
「オクト様を、味方に引き込むつもりですか?」
「やってみる価値はあるさ。少々卑怯な手を使うけどね」
悪者は僕だけでいい、ハローは地獄に置いて来てしまった、大事な友達だ。
ハローを地獄から救うためならば、どんな手であろうとも使ってやる。
「いつもいつも、あいつには苦労させられる。悪い気はしないけどな」
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