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13話 奪われた誇り
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「ハロー!? 無事だったのか!」
数日後、ハローはエドウィン達の潜伏先へ戻った。
幾日も、外で縛られたまま放置された。水も与えられず、時には酷い拷問を受けて、危うく死ぬところだったが、どうにか縄をほどいて脱出したのだ。
……逃げるのに必死で、ミレイユの亡骸を連れてこれなかったのが、悔やまれるが。
ハローの話を聞き、エドウィンは拳を握りしめた。
「あいつら……本当に同じ人間なのか……マックは?」
「別の場所に移されたみたいだ……早く、助けに行かないと、何をされるか……」
聖剣はどうにか取り戻した、マックの居場所さえ分かれば、救出は難くない。
と、見張りの兵が声を張り上げた。
「捕虜たちが、戻ってきた!」
「なんだって?」
兵の言う通り、捕まった者達が向かってきている。先頭には、マックが立っていた。
「マックだ、マックが居る!」
「あいつ、仲間を連れて逃げて来たんだ!」
ハローとエドウィンは喜び、マックを迎えようと駆け出した。ところが、
「―――来るな! 逃げろ!」
マックはそう叫ぶなり、いきなり剣を持って襲い掛かってきた。
不意の一撃に反応できず、ハローは顔を斬りつけられた。捕虜たちも一斉に剣を振り上げてくる。完全に油断していた兵達は次々に斬られ、慌てて迎撃態勢に入った。
その直後、捕虜たちが次々に爆発した。
爆発に巻き込まれ、多くの兵達が犠牲になっていく。かといって抵抗を止めれば、捕虜により殺されてしまう。
さらに悪い事が起こる。混乱に乗じて、アトラス軍が攻め込んできたのだ。
ハローはマックの相手に手一杯で、誰も助けられない。鍔迫り合い、ハローはマックに詰め寄った。
「なんで、なんでこんな……マック! なんで!?」
「すまない……あいつらに、呪いをかけられた……! 相手を操る「傀儡」と、体に爆弾を仕込む、「機雷化」の呪いを……」
「なん……だって……!?」
捕虜達を、人間爆弾にしてけしかけたのだ。仲間の帰還に喜ぶ、一瞬の隙を突く外道の戦法である。
アトラス軍総大将、ウルチが最も得意とし、そして最も好む、悪趣味な作戦だった。
そのウルチは安全な場所から、同士討ちの様を眺めて酒を喰らっている。敵がもがき苦しみ、のたうち回る姿を見るのが、奴の趣味なのだ。
「坊主、俺を止めてくれ! もうこの体は、俺の意思では、動かせない!」
「けど……う、うううっ!」
葛藤の末、ハローはマックを打ちのめした。エドウィンがすぐに解呪を施すが。
「くそ、なんだこれ……複雑すぎて、解呪できない……!」
「そんな!」
「情けない声を出すなよ、それより、早く俺を、殺せ。今の俺は、いつ爆発するか分からない……起爆したら、坊主まで死ぬぞ」
「……できないよ……ほかに手段が……」
「お前は勇者だろ、坊主。お前はお前の、やるべきことをやれ」
ハローに倒され、僅かだが支配が解けたのだろう。マックは愛用のナイフをハローに渡した。
「こいつを、やるよ。俺は死んでも、お前と共に居続ける。だから、頼む。俺をお前の仲間として、死なせてくれ」
「……マック……!」
「泣くなよ、坊主は強い奴だ。お前の選択は、絶対に正しい。俺が保証する。だからこの選択も、決して間違いなんかじゃない。……またな、ハロー」
「……ぅぅぅぅ……!」
血が出る程に唇を噛み、涙をこぼして、マックの心臓にナイフを突き立てた。
ハローは初めて、人を殺した。それも、自分が最も慕っていた、大切な仲間を。
マックは安らかな笑みを浮かべ、息絶えている。彼の目を閉ざし、ハローは俯いた。
「仲間を殺したか。貴様は命を重んじるのではなかったのか? よりにもよって、大切な仲間を自ら殺めるとは。勇者の名が泣いているぞ? これ以上の犠牲を避けたくば、早急に本土へ戻り、王へ進言しろ。降伏せよと。さもなくば、アトラスがかの地を蹂躙すると! 誰も守れぬ貴様が民を救うため、唯一取れる選択だ」
ウルチは高笑いし、配下を撤退させた。奴は国盗りのため、あえて止めを刺さず、ハローの心を抉った。国盗りのため、勇者に降伏を選ばせるために。
親友のナイフを握り、マックの遺した傷に触れた時。ハローの顔には。
壮絶な、修羅が宿っていた。
数日後、ハローはエドウィン達の潜伏先へ戻った。
幾日も、外で縛られたまま放置された。水も与えられず、時には酷い拷問を受けて、危うく死ぬところだったが、どうにか縄をほどいて脱出したのだ。
……逃げるのに必死で、ミレイユの亡骸を連れてこれなかったのが、悔やまれるが。
ハローの話を聞き、エドウィンは拳を握りしめた。
「あいつら……本当に同じ人間なのか……マックは?」
「別の場所に移されたみたいだ……早く、助けに行かないと、何をされるか……」
聖剣はどうにか取り戻した、マックの居場所さえ分かれば、救出は難くない。
と、見張りの兵が声を張り上げた。
「捕虜たちが、戻ってきた!」
「なんだって?」
兵の言う通り、捕まった者達が向かってきている。先頭には、マックが立っていた。
「マックだ、マックが居る!」
「あいつ、仲間を連れて逃げて来たんだ!」
ハローとエドウィンは喜び、マックを迎えようと駆け出した。ところが、
「―――来るな! 逃げろ!」
マックはそう叫ぶなり、いきなり剣を持って襲い掛かってきた。
不意の一撃に反応できず、ハローは顔を斬りつけられた。捕虜たちも一斉に剣を振り上げてくる。完全に油断していた兵達は次々に斬られ、慌てて迎撃態勢に入った。
その直後、捕虜たちが次々に爆発した。
爆発に巻き込まれ、多くの兵達が犠牲になっていく。かといって抵抗を止めれば、捕虜により殺されてしまう。
さらに悪い事が起こる。混乱に乗じて、アトラス軍が攻め込んできたのだ。
ハローはマックの相手に手一杯で、誰も助けられない。鍔迫り合い、ハローはマックに詰め寄った。
「なんで、なんでこんな……マック! なんで!?」
「すまない……あいつらに、呪いをかけられた……! 相手を操る「傀儡」と、体に爆弾を仕込む、「機雷化」の呪いを……」
「なん……だって……!?」
捕虜達を、人間爆弾にしてけしかけたのだ。仲間の帰還に喜ぶ、一瞬の隙を突く外道の戦法である。
アトラス軍総大将、ウルチが最も得意とし、そして最も好む、悪趣味な作戦だった。
そのウルチは安全な場所から、同士討ちの様を眺めて酒を喰らっている。敵がもがき苦しみ、のたうち回る姿を見るのが、奴の趣味なのだ。
「坊主、俺を止めてくれ! もうこの体は、俺の意思では、動かせない!」
「けど……う、うううっ!」
葛藤の末、ハローはマックを打ちのめした。エドウィンがすぐに解呪を施すが。
「くそ、なんだこれ……複雑すぎて、解呪できない……!」
「そんな!」
「情けない声を出すなよ、それより、早く俺を、殺せ。今の俺は、いつ爆発するか分からない……起爆したら、坊主まで死ぬぞ」
「……できないよ……ほかに手段が……」
「お前は勇者だろ、坊主。お前はお前の、やるべきことをやれ」
ハローに倒され、僅かだが支配が解けたのだろう。マックは愛用のナイフをハローに渡した。
「こいつを、やるよ。俺は死んでも、お前と共に居続ける。だから、頼む。俺をお前の仲間として、死なせてくれ」
「……マック……!」
「泣くなよ、坊主は強い奴だ。お前の選択は、絶対に正しい。俺が保証する。だからこの選択も、決して間違いなんかじゃない。……またな、ハロー」
「……ぅぅぅぅ……!」
血が出る程に唇を噛み、涙をこぼして、マックの心臓にナイフを突き立てた。
ハローは初めて、人を殺した。それも、自分が最も慕っていた、大切な仲間を。
マックは安らかな笑みを浮かべ、息絶えている。彼の目を閉ざし、ハローは俯いた。
「仲間を殺したか。貴様は命を重んじるのではなかったのか? よりにもよって、大切な仲間を自ら殺めるとは。勇者の名が泣いているぞ? これ以上の犠牲を避けたくば、早急に本土へ戻り、王へ進言しろ。降伏せよと。さもなくば、アトラスがかの地を蹂躙すると! 誰も守れぬ貴様が民を救うため、唯一取れる選択だ」
ウルチは高笑いし、配下を撤退させた。奴は国盗りのため、あえて止めを刺さず、ハローの心を抉った。国盗りのため、勇者に降伏を選ばせるために。
親友のナイフを握り、マックの遺した傷に触れた時。ハローの顔には。
壮絶な、修羅が宿っていた。
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