アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

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10話 歪

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 慈悲無き虐殺を終えた後には、無残な死骸が十体、転がっていた。呆然自失となったハローは、ぼんやりと屍を見下ろし、折れた剣を落とした。
 物陰に隠れていたエドウィンは、口元に腕を当てながら、ハローの肩を叩いた。

「もう終わりだ。全員死んだよ」
「お、わり?」
「そう、終わりだ」

 かつてのハローを知る者が居たら、信じられない光景だろう。闇討ち、背後からの攻撃、命乞いの無視。どれも、勇者だった男がする行為ではない。
 返り血に塗れた姿には、かつての輝かしい姿の面影など、欠片も無かった。

「俺、また人を、殺したんだ。俺が、この、手で……」

 ハローは血まみれの手に目をやった。手に残る感触が、酷く気持ち悪く感じた。
 自分でやった事なのに、ハローの心は傷ついていた。

「ほら、とっととこいつら埋めるぞ。お前も手伝えよ」

 そんな落ち込むハローに、エドウィンはスコップを投げ渡した。
 ぽかんとするハローをよそに、エドウィンは穴を掘っていく。ようやくハローは我に返り、野盗を埋める穴を作った。

「エド、ありがとう」
「何が。こんな所で死体が見つかったら、医者の僕が処理しなきゃならないんだよ。ここで埋めとけば、余計な仕事が減る。それだけだ」

 エドウィンは普段通り、憎まれ口を叩いてくる。ハローはそれがありがたかった。
 野盗達を埋めた後、ハローは両手を合わせ、祈りをささげた。あまりにちぐはぐな姿を前に、エドウィンはかぶりを振った。

 人殺しに回答を求めるくせに、やったら罪悪感で傷ついて。ハローはあまりにも歪な男に変わってしまった。

 本当ならば、こいつは戦わせるべきではない。だが、いくら歪になろうとも、ハローは弱者のために戦ってしまう。
 彼は目の前で困っている人を見捨てられないお人好しだ。その衝動は、エドウィンにも止められないほど強い。心が壊れた今でも、そこだけは一切ブレていない。

 だからこそ、エドウィンは余計に頭を悩ませていた。

「帰る前に、僕の家で着替えろよ。血まみれの服、ナルガに見られたくないだろ」
「ごめん、何から何まで」
「謝るな。お前の尻ぬぐいなんか慣れてるよ、ついでに体も洗ってこい」
「そうするよ……ナルガを驚かせたくないから……」

 ハローを先に帰し、エドウィンは座り込んだ。
 いつになったらハローの心を救い出せる。もう十年も経つのに、ハローの心は壊れたまま。エドウィンにできるのは、ひび割れた彼の心をどうにか繕うだけ。

「恨むぜ、マサガネのくそったれが……」

 エドウィンは目を閉じ、ハローに起こった惨劇を思い返した。
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